大人の発達障害
はじめに
発達障害は医学的には脳機能障害の一種であり、発達障害の人は他の人とコミュニケーションをとったり、普通に社会生活を送ることに困難を感じる場合があります。 発達障害についてまとめると以下のようになります。
- 先天的な特性である
- 治すことはできないが、症状を緩和させることは出来る
- 100人に数人の割合で生じる (人口比で1~11%など様々な分析
が有ります)
- 多くの場合、知的障害を伴わない (ADHD、アスペルガー症候群、広汎性発達障害など)
このページでは大人の発達障害についてまとめています。就職に向けた支援の実際についてはご利用説明会でご案内しています。なお、子どもの発達障害については当社の小中高生向けサービス(放課後等デイサービス)であるTEENSのウェブサイトをご覧ください。
Kaienでは診断名 “非”重視
発達障害は、ADHD、自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群、広汎性発達障害など様々な言葉が使われ混乱する方が多いと思います。Kaienでは診断名には一切こだわりを持っていません。理由は以下の通りです。
- 専門家によって様々な定義があり、受診した病院・クリニックによって診断名が変わる。
- ADHDやASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)、学習障害等の症状は、多くの場合併存している。
- 年齢や所属する組織、環境によって特徴が異なって見えることがある。(年齢とともに診断名が変わることも多い。)
診断名にかかわらず、現代のスピードや臨機応変さが求められる職場では常に生きにくさを抱えているのが発達障害の人の共通の特徴です。しかし、発達障害の傾向があっても、特徴を活かせる職場環境・職種・コミュニケーションの方法などを組み合わせることや支援プログラムを受けることで、強みを生かし弱みを見えづらくできる可能性が高まります。
タイプ別で考える 大人の発達障害
分類上は次のようになります。
当社では主に3つのタイプに分けて、大人の発達障害を理解しています。それぞれのタイプによる適職や就職支援などはご利用説明会でも解説しています。
- 大人の発達障害 タイプ別の主な特性
- ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)優位型 その場の状況、相手の気持ち、次に起こることなどを想像することが苦手。思い込みがあり認知・理解のズレが発生しやすい
- ADHD(注意欠如多動性障害)優位型 注意関心の頭の切り替えが難しい、思い付きで行動しやすい、うっかりミスが多い
- LD(学習障害)優位型 作業指示の飲み込みの速度が遅い、特定の作業が何度やっても理解できない
診断方法・基準
DSM-V (米国精神医学会による精神疾患の分類と診断のマニュアルと基準)によって行われます。WAIS-IIIなどの心理テストで、IQを構成する各要素の山と谷が大きいこと(通常はどの項目もなだらかな傾向がありますが、発達障害の方は、ある項目は高く、違う項目は低いというデコボコのテスト結果を示します)などが診断時に重視されます。
- 診断基準
- 心理テストで統計的優位に凸凹(得意な部分と苦手な部分)があること
- 小さいころから発達障害の特徴が続いていること(ご家族や子どものころの記録などで確認することもあります)
ただし次項で説明するように、外科や内科の病気とちがって、診断がある人とない人で明確な線引きができるわけではありません。また発達障害の診断は二次障害の程度やご本人の個性によっては気持ち・生活にマイナスに響くこともあります。このため、医師によっては発達障害の診断を確定せず、「傾向がある」、「軽度だがありそう」などと婉曲的な言い方をすることもあります。
段階的で境目がない虹
特徴に濃淡があるのが発達障害の特徴です。つまり、ADHDや自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群のよくある特徴のすべてに適合する人はおらず、部分的に当てはまる人たちがほとんどです。例えば、発達障害に含まれる自閉症スペクトラムのスペクトラムとは虹色のように段階的に存在するという意味です。
また特徴の濃淡も一軸(一つの特性の濃淡)ではなく、複数の特徴が濃く出たり薄く出たり、一部の特徴は非常に濃くでて、他の特徴はうっすらとしか出ていないなどの場合があります。このため、場合によっては○○には当てはまるけれども、△△には当てはまらないから、自分は発達障害ではないなどの自己判断をする方もいますが、やや偏った結論といえます。あくまで診断は複数の基準による総合的な評価を専門家である医師がするため、多くの項目が当てはまらなくても診断を受けるケースは多くあります。
また環境や状況によっても特徴が出やすかったり出にくかったりします。家庭で日常生活をおくるには障害の診断を受けなくても問題ないが、同じ人でも仕事場や就職の場では困難さが強く出ることがあり、その際は診断につながるケースが多くあります。
一口に発達障害といっても就職の方向性は様々です。ご利用説明会で特性に応じた就職先や支援の方法をご案内しているほか、人材紹介等を通じてKaienはその人の可能性の上限を探ります。
得意・不得意
発達障害の方には、いわゆる「定型発達者」にはあまりない特性があります。Kaienではこうした特性を伸ばし、社会の一員として企業活動に貢献する方を一人でも多く増やしていこうと考えています。
- 事実を見る力
- 細部重視、緻密な作業
- 数値・文字情報への適性
- ルール遵守・反復力
- 発想力
以下のような作業を行う職場では非常に高い生産性を発揮する可能性があります。 こういった職種を一つでも多く探し、そこに向けてともに歩んでいくことをKaienは目指しています。企業へ発達障害の力を活かした職域を拡大したり、活躍しやすい環境を整えるコンサルティングも行っています。
- 得意な分野
- 自分の関心事を掘り下げられる
- PCを使う・内勤である
- 反復が多い・ルールが決まっている
- 緻密さが求められる
- マイルールで突き進める
一方でKaienでは以下のような職種は発達障害の方には向かないケースが多いと考えています。必ずしもすべての方ではありませんが、一般的に不得意な場合が多いとお考えください。
- 不得意な分野
- 接客スタッフ
- 営業部門
- 企画部門
- 開発部門(上流過程)
いずれにせよ、Kaienでは実際の職場にごく近い環境で就職・定着力を向上させること、発達障害の長所を伸ばし苦手を見えにくくすることが、ご本人の持ち味を出した仕事につながると考えています。求人リストについてはご利用説明会に参加した方にお渡ししています。
具体的な人物像
(※いずれも複数の方のストーリーを合わせた架空の人物像です)
- Aさん 35歳 女性 既婚 大卒後、事務職として職業人生スタート。細かな作業、静かな場所での作業、毎月の決まった仕事などは丁寧に仕上げて職場での評判は上々。しかし口頭での指示を取り違えたり、電話が上手に取れなかったり、女性内での会話についていけないなど、一部の人との対人関係が悪化し退職。結婚を挟んで再就職を目指しているが、目立った職歴がなく就職活動がうまくいかない。近所付き合いや友達付き合いもうまくいかない中、アスペルガー症候群の本をきっかけに病院を訪れ広汎性発達障害と診断される。その後は服薬もなく病院にも頻繁には通っていなかったが、就職を考え精神障害者保健福祉手帳を申請。
- Bさん 23歳 男性 未婚 小さい頃に言葉の遅れが目立ち、また同い年の子との遊びの輪に加わらず、「発達が気になる」と受診。診断を受ける。その後は周囲のサポートもあり、大きな課題は生じず、小中高と進む。専門学校で就職活動をし、中小企業に就職。しかしスピードや業務量についていけず半年で離職。その後、職業訓練を受けている。
- Cさん 28歳 男性 未婚 中高一貫校から大学に進む。しかし研究と就職活動の両立が上手くいかず、通常より2年長くかかって卒業。その後も就職先がない。在学中から大学内の学生支援課などでカウンセリングを受ける。その後、大学病院でアスペルガー症候群と適応障害の診断を受ける。一般枠で就職活動を続けたものの1社も受からず、手帳を取得して障害者雇用での就職を考え始める。
- Dさん 40歳 男性 既婚 趣味は鉄道。小さいころから周囲との違和感はあったが、趣味の合う友達がいたり、のんびりとした地域で育ったため、特に困難もなく高校・大学と進む。就活で苦戦するが地元企業になんとか内定。その後、営業・総務・コールセンターを転々とする。どの部署でも仕事の覚えが悪い、怒られても申し訳なさそうにしていない、いつもは律儀だが時々感情的すぎて周囲をイラッとさせるなど、すれ違いが出て徐々に孤立。転職をするが、そこでも適応が難しく、何か原因があるのではと思っていた矢先、妻から家庭でも気が利かないことを指摘され、発達障害を疑い始める。確定診断には至らなかったが、傾向があると複数の医師から見立てを告げられる。
- Eさん 31歳 女性 未婚 小さいころから”不思議ちゃん”と呼ばれる。学校に遅刻したり、物忘れがひどく、毎日平穏に過ごすこと自体に疲れを感じ始める。部屋は足の踏み場がないほど片付かず、そういった様子を振り返ると自分が情けなくなり一人さめざめと泣くことが多くなる。自尊心は常に低い。1対1でお話をすることは得意なため、面接での評価は高いが、仕事が始まるとミスや抜け漏れが出ないように極度に神経を使うため、土日は何もする気が起きないほど。片づけられないというキーワードからADHDを疑い受診。服薬後はできなかった整理整頓や思考のまとめができるようになり、生きやすくなったと感じる。