関西棋院

第3章 プロ棋士が見るアルファ碁の実力

ここでは2つのポイントをお話しいたします。1つはなぜイ・セドル九段は負けたのか。
もう1つは囲碁の特徴についてです。

まず、イ・セドル九段というか人間がなぜ負けたのかですが、
ここまで見てきましたようにアルファ碁は統計分析によって、
常にデータベース上からこれまでの人類の棋譜を鑑みて、
出現確率が最も高い部分的パターンを検索して、次々にグルーピングし、
勝つ最終局面図を導き出していました。

これは一手一手常に、「普通の手」つまり良くも悪くもない手を
打ち続けられることを意味しています。
一方、人間であるイ・セドル九段は、当然「普通の手」以下を打つことがあるので、
その瞬間に人間は負けになるわけです。

しかし、まだ人間が負けていない部分があります。それは大局観や、厚みの価値判断です。

ここまでお話しした通り、アルファ碁は良い手と分かって打っているわけではなく、
統計上最も多い手を打っているだけということです。
90%近くは人間から見た良い手ではあっても、厚みの価値や感覚が分かっていないので、
大局観としての善悪判断はできていないというのは押さえておかなければいけないでしょう。

その例としてイ・セドル九段との4局目で確認してみましょう。

4図は83手目をアルファ碁が打つ局面ですが、白△が良い手で白の技が決まった瞬間でした。
しかし形勢は黒が良く、ここで大局観があれば1から黒7までを選択して黒のアルファ碁が勝っていたでしょう。

4図

アルファ碁は検索から「部分的な石の形」を導き出し、
それを何層にも積み重ねてグルーピング化し、
盤面にはめ込む思考から仮の最終図を作るのがすごいところです。

しかし人間は、大局観と照らし合わせてから石の形を使うといった真逆の思考なので、
大局観勝負になった時には、人間の思考の方が上回ります。
逆に、統計上にある「石の形」勝負になるとアルファ碁が勝ちます。

ここでおもしろいのは、第1局目から3局目までは、イ・セドル九段が事前にアルファ碁は、
過去のデータベースを参考に打つ手を決めているといった、
ある意味間違った情報を得ていたためかと思われますが、
データベースにない碁を打とうとしたことが敗因です。
部分的な「石の形」の統計で打つため、過去に例がない碁でもアルファ碁はきちんと対応してしまいます。

しかし、イ・セドル九段は3局を通じて何か感じるものがあったのだと思いますが、
一転して第4局目からは「大局観の勝負」に切り替えた内容となっていました。
そのため第4局目は勝利することができました。

第5局目も「大局観の勝負」に持ち込めたのですが、
終盤に近付くにしたがって計算精度が上がるコンピューターに負けたということで、
第5局目が本当の意味での人間の負けだと言えるかもしれません。

プロ棋士に近い思考を獲得したアルファ碁と、
その上で人間的知能によりコンピューターに勝ったイ・セドル九段は、
それぞれの良さを生かした好勝負を演じてくれたといえるでしょう。

囲碁の特徴についても専門家として少しお話ししておきたいと思います。

5図、話題になった第2局目37手目のカタツキを例にします。
「プロが考えない手」を打ち、とうとうコンピューターはプロを越えたのかと話題になりましたが、囲碁の特徴として、局面が煮詰まるまではどこに打っても結果はそれほど違わない状況が多くあります。

黒1はこれに限らず、黒イ・ロ・ハでも一局の碁になります。
その中でプロは勝つ確率が高い手であり、
「良くなる可能性が高い手」であるイやハを選ぶ人が多いでしょう。

しかしアルファ碁は、過去の統計から黒1を選んだ理由の1つとして
ここに打てば白の打つ手はニかホの二択で、
その後の進行を既にグルーピングしてあるので、
黒1が最も検索しやすかったので選ばれたと推測できます。
これが必ずしも良い手を選択しているわけではないという点です。

5図

しかしプロは「良くも悪くもない手」よりは「良くなる可能性が高い手」を選ぶ
傾向があるので、黒1は選択肢には入りません。
ただ、相手に正しく打たれれば、「良くなる可能性が高い手」であっても、
黒1と同じように良くも悪くもない結果となります。
これが人間同士の勝負と、コンピューターの思考との違いです。

我々プロの認識として改めなければいけないのは、黒1は良い手ではないが悪い手でもないという点でしょう。
ただ、プロは選ばない手ということです。

ここを押さえておくと、今後の囲碁愛好家の楽しみ方も見えてくるかもしれません。
次章では最後にそのことについて触れたいと思います。

次は 第4章今後の囲碁 です

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