札幌市議会に少子化対策・青少年育成調査特別委員会という長ったらしい名前の委員会ができたのは、昨年のことです。公明党や民主党が、「少子化対策の調査特別委員会をつくりたい」と言いだし、自民党としては、「いいんじゃないの」と、それらの提案を受け入れたわけです。私も、その「いいんじゃないの」のクチで、特に積極的な動きはしなかったのですが、あろうことか、その委員会の委員長にされてしまいました。委員長にされたおかげで、天皇・皇后両陛下がパークホテルにご逗留された際には、そのお見送り役のひとりに選ばれまして、エレベーターから降りて来られた両陛下とロビーで視線を合わせるようなことまでやらされました。なにか一言ご挨拶した方がいいのかと思いましたが、何も思い浮かばず、ただ、「ご苦労さまでございます」と言って頭を下げたのですが、ご苦労、という言葉は、目上の人に対して使うものではないということを知っていたため、言いながら「まずいことを言っている」という思いがこみ上げてきて、冷や汗をかいてしまいました。
委員会の活動は、とりあえず、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画の策定をどうするか、という点に的を絞ることにしました。
次世代育成支援対策推進法なるものが国会で可決されたのは、昨年のことです。各市町村や、300人以上の従業員をかかえる企業・団体等は、平成17年度中に、少子化対策についての行動計画をつくらねばならなくなったわけですが、出生率の極端に低い札幌市は、モデル地区として「他の市町村に先駆けて、16年度中にやれ」と言われました。役所は、これで、大慌てとなり、委員会としても、なんらかのアクションを起こさねばならなくなりました。
これまでの活動実績としては、厚生労働省からこの件の担当者をお招きしてご高説をたまわったり、モモちゃんナーサリーという託児所を全国ネットで経営しておられる水澤さんをお招きして、民間企業経営者の立場からお話ししていただいたり、市内の幼稚園のPTA連合会の会長をお招きしたり、保育所に子どもをあずけているお母さんたちをお招きしたり、NPOで子育て中のお母さんたちの交流を仕切っている方に来ていただいたり、少年アシストセンターで活躍されていた方のお話を伺ったり、という形の懇談会を5回ほど催した他、市役所サイドの説明を聞いて質疑を行う委員会を4回くらい催し、それらの中で出てきた意見を理事会でまとめて、委員会としての提言書を作成しました。
この理事会での”まとめ”の作業は非常に面倒なものでした。まず、どういう形のモノをつくるかを決めねばならず、全会派一致の提言書という形に決まった段階で、私が提言書の委員長案を作成し、共産党の副委員長の意見具申を織り交ぜて正副委員長案を作成し、これを基に、各会派の代表である理事さんたちの意見を採り入れた最終案を作成したわけですが、会派によっては、意見の食い違う部分もあり、全会派が一致できるものとなると、あまり中身の濃いものは作れませんでした。委員長案で並べた項目のうち、最も必要性が高いと思われた「子育て保険制度の創設」は、共産党、市民ネットワーク、民主党の反発で削除せざるを得ませんでした。
子育て保険制度とは、介護保険の子育て支援版とでも表現すべきもので、一定の年齢層(子育て世代)の人たち全てが加入を義務づけられ、そこに集まる保険料を子育て支援策の財源として使う、というものです。「子どもは社会全体の宝であり、子育てに関する諸費用については、社会全体で負担して行かなくてはならない」という主旨の話は、いたるところで出てくるわけで、これを現実的に制度化すると、子育て保険、ということになります。ちなみに、今の日本の実情では、子育てにおける保護者の負担は莫大なものになっています。そして、高齢化対策が充実されればされるほど、老後への不安が薄らぎ、子育て世代の若者にとっては、子どもをつくることへの欲求が薄らぎます。子どもがなくても、老後は、行政施設に入ればよい、ということになり、莫大なおカネを投じて子どもをつくり、育てることは、「損である」という構図が成立してしまっています。この子育て保険制度は、「子どもをつくらないと損になる」という制度なわけですが、そのあたりを強調すると、皆の合意が取りづらくなります。が、少子化をなんとかしようと考えるならば、我々に残された道は、もう、これしかないと思われます。要するに、もう、これ以上アメ玉はバラ蒔けないわけで、後は、ムチを入れるしかないのです。
以下は、今回提出した提言書です。色々と美味しいアメ玉を並べましたが、それらを逐一実現するための財源は、札幌市にはありません。
平成16年2月24日
札幌市長
上 田 文 雄 殿
少子化対策・青少年育成調査特別委員会
委員長 勝 木 勇 人
(仮称)札幌市次世代育成支援対策推進行動計画素案作成に向けての提言(案)
少子化対策・青少年育成調査特別委員会においては,本市における少子化対策・子育て支援対策,並びに青少年育成対策について,種々調査・検討を行ってまいりました。本市は,これまでも,仕事と子育ての両立支援策を中心に様々な取り組みを行ってきたところでありますが,状況は極めて深刻であり,国の方針に沿って力点を置いてきた子育て支援対策も,少子化対策としてはさほどの効果を上げていないのではないか,また,青少年育成対策についても,多くの課題が未解決のまま残っているといった意見も出ております。
このような中で,来年度に策定される行動計画においては,ただ単に国から出された指針に沿った方針を掲げるだけでは不十分であり,現在の切迫した事態を打開していくための,本市の実情を的確にとらえた緻密な施策の構築が必要不可欠であると考えます。
また,次世代育成支援対策の推進にあたっては,子どもの権利条約の理念に基づき,子どもの主体性や自立性を育み,子どもの人権や利益を最優先することも重要な課題です。この他に,結婚や出産,子育てについても,個人の価値観や人生観を最大限尊重する必要があります。さらに,大人社会の意識が子どもに多大な影響を与えることを踏まえ,大人社会がゆとりを取り戻すことも大切です。
以上の点に留意しながら,家庭,学校,企業,地域,行政など社会全体で,大人の働き方,教育,保育,社会保障,医療,地域環境なども含めた総合的,かつ計画的な次世代育成支援対策に取り組むことにより,出産や子育て,子育ちをしっかりと支える社会を目指さなければなりません。
そこで,行動計画素案作成に向けて,現段階における本委員会の見解として,計画に盛り込むべきと思われる事柄を以下に列記いたします。
1 子育てに喜びを感じることができる社会の実現
(1) 次代の親になるため,子育ての楽しさや男女が協力して家庭を築き,子どもを産み育てることの意義についての教育・啓発
(2) 家庭,学校,企業,地域,行政など社会全体で子育てを支援する意識の啓発
(3) 行政が行っている取り組みについてのPRの拡大
(4) 父親の子育て参加への意識啓発
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2 子育てにおける経済的負担の軽減
(1) 乳幼児医療費助成の対象年齢の拡大
(2) 奨学金制度等の充実
(3) 児童手当の拡充
(4) 幼稚園,小学校,中学校,高等学校等における保護者負担の公私間格差の是正
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3 保育環境の整備
(1) 保育ニーズに対応した保育サービスの充実(待機児童・超過入所児童の解消,延長,休日,一時保育等の拡充)
(2) 放課後児童クラブ(学童保育含む)の小学校区ごとの整備(空白校区の解消
(3) 安全・安心な食材を使った給食の提供(地産地消)
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4 職場環境の整備に向けた企業に対するへの意識啓発
(1) 男女ともに育児休業,育児時間,看護休暇,有給休暇の取得の促進
(2) 子育て後の再就職サポート体制の確立
(3) 長時間労働の是正及びワークシェアリングの推進
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5 子育てしやすいまちづくり
(1) 公園などの子どもの遊び場や野外活動の充実及び冬期間に親子が集える場の確保
(2) 地域的,全市的子育てネットワークの充実(専業主婦の孤立化を防ぐための情報交換の場の拡充)
(3) 小児医療等を担う医療機関の充実
(4) 周産期におけるメンタルクリニックサポートの充実
(5) 公共施設における授乳コーナーの設置の拡充
(6) ひとり親家庭や障がい児を育てる家庭への支援の充実
(7) 障がいのある子どもが差別されることなく,ともに育ち,学び,暮らせる環境の整備
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6 青少年健全育成対策の充実
(1) 子育てについての不安,悩みや虐待等に関する相談機構の充実(機関の強化や相談員の拡充)
(2) 思春期における心のケアの充実
(3) 不登校問題におけるフリースクール等との連携
(4) 子どもの異年齢間交流の場の拡大
(5) 学校と地域のさらなる連携強化
(6) 自らの健全な性と健康を主体的に考える機会の提供
(7) 子どもたちの自発的な学習意欲を喚起する教育や環境づくり
(8) 望ましい食習慣の定着や食を通じた健全育成のための,関係分野が連携した食育の推進
(9) 若者の安定就労や自立した生活の促進
(10) CAP等の,子どもが暴力から自分を守るための教育プログラムの導入
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7 子どもの権利条例の早期制定
(1) 子どもの意見が反映できる仕組みづくり
(2) 「子ども会議」の設置による,子どもの社会参加の保障
(3) 子どもがいつでも相談できる窓口の拡充