【マニラ=佐竹実】アジア開発銀行(ADB)は30日、2016年のアジア地域の国内総生産(GDP)伸び率が5.7%にとどまる見通しだと発表した。15年実績よりも0.2ポイント低下し、15年ぶりの低水準となる。欧米や日本など先進国の景気回復が遅れているほか、中国経済の変調が影響を及ぼすためだ。外需頼みの成長には限界もあり、アジア各国は内需振興や生産性向上などの経済改革を迫られそうだ。
ADBがまとめたのは毎年春に公表する「アジア経済見通し」で日本やオーストラリア、ニュージーランドを除くアジア大洋州の45カ国・地域が対象。昨年12月時点での16年予測(6%)を下方修正し、17年も5.7%で横ばいを見込んでいる。
米連邦準備理事会(FRB)が年内の利上げペースを緩やかにすると示唆するなど、世界経済の先行きに不透明感が強まったことを受けて下方修正した。成長率5.7%は01年実績(4.9%)以来の低さとなる。
アジア最大の経済規模を持つ中国は輸出主導から内需主導の経済構造への変革途上にある。労働力人口の減少と賃金上昇に伴い「アジアの工場」として2桁成長を続けた時代は終わり、16年は前年実績より0.4ポイント低い6.5%、17年も6.3%に減速する見通し。中国政府が20年までの目標とする「年平均6.5%以上」を下回るとみる。
中国自体の輸出減少に加え、各国の対中輸出にも影響が出る。GDP対比の輸出割合が7割を占めるタイでは3年連続で輸出額が前年割れし、景気回復の足を引っ張る。
中国に代わるアジア経済のけん引役として存在感が増すのはインドだ。16年は7.4%へやや減速するものの、17年は7.8%に持ち直す見込み。モディ政権による構造改革が対内投資をひき付けるほか、インフラ整備などの公共事業が成長の起爆剤となるとADBはみている。東南アジアも5%程度の成長を維持する。外的環境が厳しい中でもフィリピンは内需が堅調。インドネシアでは政府による財政出動が景気を下支えする。
中国の減速に伴い、アジア各国は独自の成長機会の模索を求められている。人口13億人のインド、6億人超の東南アジア諸国連合(ASEAN)は、中国に引けを取らない一大経済圏だ。ADBの魏尚進チーフエコノミストは「生産性を上げるほか、足りないインフラ整備に資源を投入するなどの改革を続け、潜在的な成長力を生かす必要がある」と指摘している。