僕は今日面接を受けた。
昨晩は緊張感から「面接」という文字をひたすらに検索バナーに書き込んでいた。ひたすらに「面接」というワードを検索する僕はさながら、ネットという大海原を航海するマルコ・ポーロのようであった。マルコ・ポーロは東方見聞録にて黄金の国ジパングをヨーロッパに紹介しているわけだが、僕は僕の面接という航海の途中でアダルトヴィデオを観た(約12分)。面接が舞台の問題作である。非常に参考にならなかったのを鮮明に覚えている。緊張に加え軽度の興奮状態に陥った僕。僕にとっての黄金の国ジパングが確かにそこにあったのだ。
朝の5時、僕は目覚ましが鳴る前に起きた。朝起きた時の口内は便所よりもさらに汚いと聞くが、そんなことはどうだってよかった。僕は白湯を飲む。温かいお湯が喉を通りぬけ、僕の決して強くはないお腹を暖めた。いつもより念入りにシャワーを浴びて、身を清める。LUSHのボディーソープは僕の体をふんわりとした柑橘系の香りにさせてくれた。今の僕はどこを嗅がれたってへいちゃらだ。僕は服装を整え、鳥取駅に向かった。
駅内のドトールでドリップコーヒーをテイクアウトした。パラダイムシフトでコアコンピタンスがコモディティ化されたみたいな横文字の応酬。僕がドトールでドリップコーヒーをテイクアウトしたのには理由がある。「どえらい」という言葉があるように「ど」をつけると強調表現となる。どえらいは直訳すると、とっても大変なこと。「どすこい」もたぶんそうだ。直訳すると、とっても、すこい。ドトールというのは、それはもうすごく通るのだ。つまりこれを飲むとたぶん選考に著しく通過しやすくなるのだ。数行書いて説明してみたが自分でも一体何を言ってるのか分からない。早速選考での話をしよう。
僕を迎えてくれたのは、それはそれは美人なお姉さんだった。いわゆる、美人事(びじんじ)だ。彼女は僕らを控え室まで誘導した。彼女の長い髪が窓からの陽射しを踊るように弾いていた。瞳は夜空を映し出す湖面の〜(以下省略)
控え室には7人の学生がいた。美人事が控え室での会話を促す。堰を切ったように喋り出す就職戦士たち。中にはファイリングした履歴書を得意げに見せる強者もいた。僕に核融合について熱く語り出す理系戦士。電子がどうだ、原子がどうだ、何の話だ。かっこいいですね、と適当に流した僕は、隅っこでひっそりと「幻獣辞典」を読んだ。控え室である以上控え目であるべきだと考えたからだ。僕はエルフの説明を見て、美人事の彼女を思い出す。間違いなく光のエルフとは彼女のことだろう。
「ますもとさん、こちらにどうぞ」
「”はい!”」
僕は僕史上最高のいい声で返事をした。高校生の頃に合唱部の助っ人としてテナーパートを歌ってきた経験がここにきて役立った。面接は和やかなムードで進み、僕はありのままを話した。控え室に戻ってそわそわする僕がいた。僕はここで不合格の可能性もある。もしかするともう2度と彼女に会えないかもしれないのだ。入り口へ案内される途中に僕は勇気を振り絞って言った。「あの、とてもお綺麗だなって思いました!!!!」続けて、僕は失礼しますと言い選考会場からダッシュで逃げた。決して振り返ってはいけないとハク様も言っていたから、きっとこれでよかったのだ。
帰りのバスから見える夕日は僕を優しく照らす。今日を思い出してニヤリと微笑む僕の顔が窓に反射して映る。大変に気持ち悪いその顔は、乗り物酔いを加速させた。僕はしばらくかっこつけて、たそがれていた。(車に酔っていたから遠くの山を見ていただけ)夕日というスポットライトは永遠に僕をたそがれさせるようだった(ずっと酔ってるだけ)。まあ今日くらいはかっこつけたっていいだろう。彼女に思ったことが言えたのだから。通路側のおじさんは言った。
「眩しいから閉めてくれる?」
「”はい!”」
僕はいい声で返事をした。
ますもと