(英エコノミスト誌 2016年3月26日号)
ブラジルの首都ブラジリアにある大統領官邸そばで、ルセフ政権に対するデモを行う人々(2016年3月17日撮影)。(c)AFP/ANDRESSA ANHOLETE 〔AFPBB News〕
ルセフ大統領の名声は落ちた。辞任すべきだ。
ブラジルのジルマ・ルセフ大統領の苦境はもう何ヵ月も前からひどくなるばかりだ。かつて会長を務めた国営石油会社ペトロブラスをめぐる一大スキャンダルは、一部の側近を巻き込んでいる。経済は1930年代以来の非常に深刻な景気後退に苦しんでいる。これも大統領が1期目に犯した誤りによる面が大きい。
そして、ルセフ氏の政治力の弱さのせいで、上昇する失業率と生活水準の低下を前に政府はほとんど無力となっている。支持率は辛うじて2ケタを維持する程度。
先日には数百万人の国民がデモに参加して「Fora Dilma!(ジルマは出ていけ!)」と声を上げた。
それでも、ルセフ大統領は今までは、2014年の再選で与えられた正統性は損なわれていないとか、自分に向けられた嫌疑はいずれも弾劾を正当化するには至らないなどと主張することができた。自らが所属する労働党(PT)の大物たちを追いかけ回している判事や警察のように、公正な捜査と裁判が行われることを望むと真顔で言い切ることができた。
法の支配より政治仲間を選んだ大統領
しかし、ルセフ氏は信頼という衣を脱ぎ捨ててしまった。3月16日、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ前大統領を自らの官房長官に任命するという異例の決断を下したのだ。
ルセフ氏はこれを賢明な人選だと自賛した。誰もがルラとして知っている前大統領は海千山千の政治家である。議会による弾劾の試みをルセフ氏が乗り越えるのを手伝ったり、ひょっとしたら経済を安定させるのに貢献したりする可能性もあるというわけだ。
しかし、ルラ氏は任命されるほんの数日前に、事情聴取のために身柄を一時拘束されていた。拘束を命じたのは、ペトロブラスの贈賄疑惑の捜査(国内ではlava jato=ジェット洗浄の意=とも呼ばれる)を担当し、ルラ氏がその件で利益を得たことを疑っているセルジオ・モロ連邦判事だった。
サンパウロ州の検察は、ルラ氏が海岸に面したマンションを所有していることを隠していると告発している。ルラ氏はその嫌疑を否定しているが、閣僚の地位を得れば、部分的な免責を得ることになる。ルラ氏を裁判にかけられるのが最高裁判所に限定されるのだ。結局、最高裁の判事はルラ氏の就任に待ったをかけた。
本誌(英エコノミスト)は以前から、ルセフ大統領の運命を決めるのは大統領を弾劾しようとする政治家ではなく、司法システムか有権者のどちらかであるべきだと主張してきた。