文/小林恭子(在英ジャーナリスト)
「世界のCEOが選んだ尊敬するリーダー」ランキング*で、マハトマ・ガンジーやネルソン・マンデラ、スティーブ・ジョブズらを振り切ってトップに立ったのが第2次世界大戦時の英首相ウィンストン・チャーチルだ。そんなチャーチルの没後50周年に合わせて出版された伝記『チャーチル・ファクター』の邦訳版が3月30日、刊行される。
世界20ヵ国で翻訳されたこの本は英国では発売後間もなくしてベストセラーとなったが、その秘密は書き手の強いアピール力だった。著者は「ボリス」という愛称で知られる現ロンドン市長ボリス・ジョンソン。
次期首相候補ともいわれる人物だが、むしろ「英国版ドナルド・トランプ」にやや近いかもしれない。日本語への翻訳を担当したひとりとして、筆者から見たジョンソン像、チャーチル像を紹介してみたい。
チャーチルとは?
まずはチャーチルの人生を少々おさらいしてみよう。
チャーチルというと、「第2次大戦時の英首相」ということ以外には、犬のブルドッグを想像させるような小太りの丸顔、ボーラー・ハット(山高帽)にスーツ姿で葉巻を口にくわえている姿を思い出す方は多いだろう。このほかに、「勝利のV」マークを示すように、二本指を持ち上げている写真も有名だ。
実は英国ではブルドッグを使った保険のコマーシャルがあって、「チャーチル」というとその犬を思い浮かべる人が少なくない。この本の序章には「チャーチルという犬」というタイトルがついているくらいだ。のっけからチャーチルの豪傑さを示すジョークが次々と出てくる。
英国が生み出した「もっとも偉大な政治家」といわれるチャーチルだが、実のところ、落ちこぼれの人生が長く続いた。中高時代は学業が不得意の「できそこない」で、後に演説の名手となるものの、長い間吃音に悩み、政治家になってからもうつ病に苦しんだ。喉から手が届くほど欲しかった、父の愛情はとうとう得られずじまいだった。
1874年、チャーチルはオックスフォード州にあるブレナム宮殿で米国人の母ジェニー、保守党の政治家ランドルフの長男として生まれた。18世紀以来のマールバラ侯爵家の血を引く、スペンサー・チャーチル家の一員である。
父親に愛され、尊敬されたい、父のように政治家になりたい――。そんな思いを持ったチャーチルだが、勉強が嫌いで大学進学はままならなかった。
そこで父の勧めで、サンドハースト王立陸軍士官学校に入って、軍人の道を進む。父を落胆させたダメな自分――。こうなれば軍人として成功し、認めてもらうしかなかった。
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