アンディ・グローブ死去に、
クリステンセンは何を想うか

インテルが破壊的イノベーションの理論に触れて戦略を転換したことは、技術史・経営史の重要な一幕として語り継がれるだろう。今月亡くなったインテル元CEOのアンディ・グローブを、クレイトン・クリステンセン教授が追悼する。


 私の背丈は、アンディ・グローブを優に30センチは上回る。しかし一緒にいるときの彼はいつでも、私にとって巨大な存在だった。

 この巨人にまつわる4つのことを、いま寂しく名残惜しく思う。

 第一に、彼は自分と同僚たちが「答えを知っている」とはけっして考えなかった。彼らはいつも、あらゆることで意見を戦わせていた。もちろん、いつかは決断しなければならないことは承知のうえだろう。しかし、彼は個々の意思決定を、「改善のための議論」という道のりにおける、進捗を示す道路標識のようにとらえていたのだ。

 彼はビジネスに関する新しい考え方を見つけることに熱心であった。インテルのマイクロプロセッサ事業がローコストの競合他社に脅かされたとき、彼は私にどうすればよいか尋ねてきた。しかし、私は対処法を教える代わりに、彼が真に求めていたものを提供した。今後現れる脅威、あるいは好機を予測できるよう、経営陣に破壊的イノベーションの理論を説明したのである。

 アンディは、現状に留まっていてはならないことを理解していた。意思決定を下した翌日には、またも同僚たちと論争を再開するような具合であった。アンディ・グローブ指揮下のインテルが向上し続けたのは、まさしくこれが理由である。彼らは常に、あらゆることを改善しようと努めていたのだ。その姿がもう見られず、寂しく思う。

 第二に、アンディ・グローブの謙虚さが名残惜しい。もちろん自尊心の高い人ではあり、能力には自信を持っていた。しかしその自信は、重要な知識を誰からでも(私のような者からでさえも)学ぶための基盤となっていた。アンディは共に仕事をする人々に自信を植え付けることで、力を与えた。私に対しても不相応なほど大きな称賛を寄せてくれた。おかげで私は、こんな自分でも重要な貢献ができるのだと信じられるようになったのだ。

 第三に、世の仕組みに関するアンディ・グローブの認識力が名残惜しい。彼は電子がマイクロプロセッサの回路を走り回る仕組みを描くことができた。同様に、インテルのような複雑な組織で物事が実際にどう作用するのかを詳しく説明できた。インセンティブ、意思決定、価格設定、ディベート、予測、優先順位づけ、遅延、間接費の配賦――。企業というものが実際にどう機能するのかを理解し、その知識を活用できたからこそ、彼は力強い経営者であった。

 最後に、教師としてのアンディ・グローブを名残惜しく思う。インテルとスタンフォード・ビジネススクールでの長いキャリアを通して、その深い叡知を惜しげもなく人々に伝え、何世代もの経営者とリーダーを魅了してきたのだから。


HBR.ORG原文:Clayton Christensen: What I’ll Miss About Andy Grove March 24, 2016

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クレイトン・M・クリステンセン(Clayton M. Christensen)
ハーバード・ビジネススクールのキム・B・クラーク記念講座教授。主な著書に『イノベーションのジレンマ』、『イノベーションの最終解』などがある。

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