共和・民主の外交政策が逆転 米大統領選
世界における米国の役割が今回の米大統領選で見直されている。米国がどのような役割を担うべきかについて、共和・民主両党の伝統的な立場は逆転していると言えそうだ。
大統領選では、米国民が海外での米国のあり方を考える上で、イラクとアフガニスタンの戦争をめぐる不安が依然として最も重要な要素となっていることが示されている。こうした中、2003年のイラク侵攻を推進した新保守主義者たちの影響力は薄れつつある。新保守主義のイデオロギーを持つ最後の候補者だったマルコ・ルビオ上院議員は共和党候補指名争いから撤退した。
現時点で注目されているのは、残りの候補者が世界情勢を形作るために、どのようなタイミングで米国の介入力を行使する意志があるかだ。大統領選が混乱を極める中、世界の紛争への積極的な介入に最も前向きな姿勢を示す本選候補者が、共和党候補ではなく民主党候補になり得るのは、驚くことではないかもしれない。だが、これは各党の従来の姿勢からの大きな転換となる。
共和党の大統領候補で残っているドナルド・トランプ氏、テッド・クルーズ上院議員、ジョン・ケーシック・オハイオ州知事のいずれも、中東を中心とする介入に関して、共和党が近年取ってきたほどの関与を支持していない。トランプ氏は、米国はすぐに問題解決に動ける体制を取っておくべきだとの米同盟国および外交政策専門家の考えに疑念を強めている。クルーズ氏は介入主義者と孤立主義者の見解の妥協点を見つける考えを示している一方、ケーシック氏は従来の積極外交を支持しているが、新保守主義者が望むほど介入に前向きではない。
大統領選本選が民主党候補のヒラリー・クリントン氏と共和党候補のドナルド・トランプ氏の戦いになった場合、過去の党の姿勢は完全に当てはまらなくなる。クリントン氏は2003年に共和党のブッシュ元大統領が始めた最初のイラク戦争を支持した人物であり、トランプ氏はこれに反対する考えを声高らかに宣言していた。
クリントン氏はその後、イラク戦争への支持を撤回したが、同じく民主党のオバマ現大統領や共和党のトランプ氏に比べても対外介入への意志は強い。オバマ大統領は非公開の場で米国の安全保障政策の大前提として「バカなことをするな」という指針を用い、制約のない軍事的関与を避ける方針を明らかにしているが、クリントン氏はこの指針を不十分だとして否定している。クリントン氏は過去にシリアへの関与とリビアの独裁者カダフィ大佐(当時)の打倒支援を強化すべきだと主張したほか、女性の権利拡大など非伝統的な問題でも米国の影響力を強めるべきだと訴えている。
ジョージ・W・ブッシュ政権で国務次官を務めたニコラス・バーンズ氏は「私はクリントン氏を支持しており、その主な理由は同氏が世界に対する米国の関与策を推進しているからだ」と述べた。
一方、トランプ氏が自分の政党の大統領によるイラク開戦を批判しているのは、同氏が従来のやり方を根底から崩している様子を示している。トランプ氏はほかにも、共和党内でこれまで背信行為とみられていた行動を取っている。
最近では、米国にとって最も重要な軍事同盟であり、およそ70年にわたり欧州の安全維持に貢献してきたと言われる北大西洋条約機構(NATO)への米国の寄与に疑問を呈した。また、日本と韓国が米軍の駐留経費の負担を増やさない場合、両国での米軍駐留を継続すべきか、両国が米国の核の傘を頼りにし続けるべきかを問題視した。一方でペルシャ湾岸国については、過激派組織「イスラム国(IS)」への対応で軍事協力を強化すべきとの声がある中、トランプ氏はほぼ反対の姿勢を示し、サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国は、ISの脅威への対応で米国に比べて支出が小さすぎると批判した。同氏の立場は米国内の現在のムードに合っているかもしれない。だが、過去3人の共和党出身大統領であるロナルド・レーガン、ジョージ・H・W・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ各氏が、米国はいまや「貧しい国」で国際的な関与を賄う資金がないとのトランプ氏の主張を繰り広げることは想像し難い。
米国の元ソ連特使のスティーブン・セスタノビッチ氏は「共和党はこれまで米国のリーダーシップに対する同党のコミットメントについて話すことが多く、これは他国への介入への意志を示していた」と述べた。
トランプ氏はこれと異なる見解を示している。シリアへの介入を避け、「ただ乗り」している同盟国への不満を口にしているオバマ大統領と、いくつかの点では通じるところがある。また、中東への介入に前向きすぎるとしてクリントン氏を非難している民主党のもう1人の候補者、バーニー・サンダース上院議員の立場ともそれほど違わない。
よって世界における米国の役割に関しては、共和党がこれまで主導してきた積極的な関与を支持する候補者はクリントン氏のみとなっている。
(筆者のジェラルド・F・サイブはWSJワシントン支局長)