安倍首相は、国会で成立した国の16年度予算の早期執行を指示した。それに伴う年度後半への手当てもあり、経済対策の検討に乗り出すと見られている。

 税制でも、17年4月に予定する10%への消費増税について、2度目の延期を視野に入れる。「リーマン・ショックや東日本大震災のような重大な事態が発生しない限り、確実に実施していく」と強調する一方、「日本経済自体が危うくなるような道を取ってはいけない」と含みを持たせている。

 深刻な財政難の中で予算拡充や増税先送りという選択肢をにらむのは、5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の議長国として、世界経済を安定させるための政策協調を重視するからのようだ。

 しかし、額面通りには受け取れまい。7月には参院選があり、衆院を解散しての同日選もありうる。有権者への給付を増やし、負担増は避けて、勝利を目指す。そんな思惑が込められているのは明らかだろう。

 選挙にとらわれて財政政策に頼ってきた結果が1千兆円を超える国の借金である。同じ過ちを繰り返すべきではない。

 確かに、新興国や資源国を中心に世界経済の先行きは予断を許さない。が、為替や株式など金融市場の動揺は小康状態にある。首相も「現在(日本経済が危うくなるような)重大な事態が発生しているとは全く考えていない」と国会答弁で語った。

 首相が自ら発案し、有識者に助言を求める国際金融経済分析会合では、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ・米コロンビア大教授の発言が注目された。氏は消費増税について否定的な見解を述べ、需要を作り出す重要性を強調したが、首相は「大変良い示唆をもらった」と応じた。

 が、助言はいいところ取りするべきではない。スティグリッツ氏は、安倍政権が力を入れる法人税減税について「投資を促さない」とも指摘している。

 過去最高水準の収益が続く企業部門がため込んだ資金を、どう賃上げや投資に結びつけるか。それが日本経済の喫緊の課題だ。政権はおカネを使わせようと企業に圧力をかけてきたが、動きは鈍い。ならば、減税どころか課税強化が検討課題になるのではないか。

 日本経済の体質を変える取り組みこそが必要だ。目先の思惑から財政政策に頼るばかりでは体質転換は進まず、将来世代へのツケが膨らむ一方である。

 経済政策は、選挙の道具ではない。