金融危機以降、株主や規制当局は給与やボーナスに狙いを定めている。不適切な報酬体系が銀行家に不要なリスクを取ることを促す要因と見なし、そうした見境のない行動を防ぐために将来の報酬を制限するよう強く求めている。
JPモルガンとシティグループ、バンク・オブ・アメリカへ投資している人々は上級職員のより多くのボーナスをさらに長い期間――10年もの間――思いがけない損失やまだ発覚していない不正に対する保険として留保することを提案している。こうした銀行は近いうちに開かれる年次総会で規則厳格化の決議が行われるのを防ぐために懸命に闘ってきたが、無駄に終わった。
米国の銀行は既にこうした規則をいくつか導入している。例えばシティは上級職員に対して、既に支払われているボーナスの返還を求める(クローバック)か、まだ支給されていないインセンティブ報酬の取り消し(マルス)を支給(決定)から3年または4年以内に行うことが可能だ。
銀行がさらなる厳格化に異議を唱えるのはいつものことだ。既存のルールでも投資家の提案と同じ目的を達成することが可能だと銀行は主張する。報酬の凍結期間を延長し厳格にすれば、採用や従業員の維持に支障をきたす。非公式には銀行側は規則を厳格化し期間を延長すれば、欧州の銀行にとって行員コスト削減を柔軟に行いにくくなると指摘している。
銀行は株主へ出される動議を不明瞭で矛盾しているとの理由で阻止しようと試みたが、これらは主に煙幕にすぎなかった。企業の体制が十分しっかりしたものであるか、また、(ルールの)厳格化が銀行家をリスク回避的にし過ぎてしまうかを判断する権利を持つのは投資家のはずだ。
■クローバック期間を10年に延長
タイミングに関しては、不適切な管理――それが企業文化の欠陥によるものであっても不正行為の形であっても――の結果が発覚し調査が及ぶまでには何年もかかる。HSBCのスイスのプライベートバンキング部門による脱税指南スキャンダルが完全に暴かれるまでには8年を要した。英国の銀行による支払補償保険の不正販売は明るみに出るまでに20年以上掛かった。これらと対比すれば、クローバック期間を10年に延ばすのは妥当に思える。例えば、英規制当局は、上級管理職に対する調査が元のボーナス支給から7年以内に開始された場合はクローバック期間を3年延ばして10年にすると定めている。
既に支払われた給与を回収するのは、甚だしい違法行為があった場合を除いては難しい。そのため、失策にあたるかどうかが非常に曖昧なものを裁く重荷は引き続き報酬委員会が負う。報酬委員会は、目標が達成できなかった場合にインセンティブ報酬を自動停止するに十分なほどの基準を設けなければならない。とりわけ、危機の原因やその影響に関する記憶が薄れるにつれ、失策などが後になって発覚する幹部に対しては、繰り延べされたボーナスを取り消す権利を行使する必要もある。必要な場合はクローバックも辞さずに対応すべきだ。
米規制当局は既に米国の銀行の報酬支払い制限について、通常3年であるクローバックと取り消しのさらなる期間延長を検討している。これが実現すれば、50%ものボーナスを繰り延べできるようになる。英中央銀行のイングランド銀行は、銀行役員の転職の際に新たな雇用主が転職で取り消された報酬を穴埋めする「ボーナス・バイアウト」を防ぐために規則を厳格化したい考えだ。
監視機関は、米国の銀行の時のようにクローバック条項の厳格化の提案を全株主に知らしめるようにするだけでは足らない。規制当局は、有害な遺産を見つけた場合は、その責任者がかつて声高に受け取る権利を主張した報酬を当局が没収する権限を持つことを報酬委員会に再認識させることで、その元スターに対して断固たる措置を取る取締役会の意思を強化すべきだ。
(2016年3月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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