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第六話 勇者召喚されたと思ったら陰謀に巻き込まれました
あの後、俺は学園長に呼び出されてしまった。どうやら学園長はあの時の一部始終を見ていたらしい。
俺を案内する教師は俺から五メートル程離れてビクビクしている。
チワワのようで可愛い、とは思わない。
何故なら震えてるのが筋肉ムキムキのガチムチだからだ。
「つ、つつ、つ、つい…たぞ……が、学園長の部屋だ。く、くれぐれも失礼のな、ないようにな………です……」
お? 最後『です』って言ってなかったか? 子供(それも人間)相手に怯える魔族って……
ムキムキ教師がドアをコンコンとノックすると中から「入れ」と女性の声がした。
「失礼します………」
部屋に入ると一人の女性がそこにいた。
俺は女性の姿に目を疑った。
黒い長髪と黒い目を持っていた。
その姿は正しく大和撫子。日本人そのものだった。
「君が、試験番号689番くんか」
「………689じゃなくて斎藤 大和ですよ……」
俺が名を名乗ると学園長は「フッ…」と笑う。
なんだか馬鹿にされた気分だ……
「すまないな、君はまだこの学園の生徒じゃないから名前で呼ぶことは出来ない。そういう校則なんでな。
ま、試験でド○クエの呪文を使うような奴だから入学は確実だろうがな」
学園長の言葉に素っ頓狂な声を上げる。
そんな俺を見て学園長は微笑む。
「まさか、『あれは【メ○ガイアー】じゃない【メ○】だ』とか、言うのか?」
「………言いませんけど……やっぱり学園長さんも……」
「ああ、【神の選定者】だ」
「は?」
「へ?」
あれ? 俺がおかしいのかな?
再度、俺は学園長に聞き直したがどうにも話が咬み合わなかった。
□■□■□■
俺と学園長は今までの経緯について説明した。
「…………つまり、きみは勇者召喚の儀式で異世界に来た…と」
「あなたは神によって転生されて異世界に来た…と」
学園長室に暫く静寂が漂う。
すると、学園長が「はぁ〜」とため息をつき机に肩肘をついて頭を抱えた。
「まさか、休戦中に勇者を召喚するとはな………あそこの王はだから気に入らないのだ……」
「休戦中………?」
俺が聞き返すと学園長が机に置いてある一枚の紙を渡す。
その紙を広げ内容を確認する。
要約するとこうだ
1.フェーネリアス王国もとい人間にはこれから三年間は余程のことがない限り危害を加えない。
2.人間がこちらに攻め込むならばこちらも防衛をする。ただし死者は出さない。
3.城の宮廷魔導師を一人派遣する。ある程度の情報なら話すことを許可している。
4.そちらが物資に困ったならばこちらは援助する。ただし魔法による隠蔽や工作などは援助しない。
5.以上のことを承諾できるのならば我々もこのことを誓う。
「………むこうに都合のいいことばかりですね」
「そうでもしなければ承諾できんだろ。だが、勇者召喚の儀式を行ったのは想定外だけどな………」
学園長の言葉には怒りが孕んでる。
俺も思わず身震いしてしまうほどにだ。
「でも、なんで三年間なんですか?」
「いや、三年たったら私の娘がこの学園を卒業する時期なんだ。三年経つと恐らくここも死地と化すだろう。だから、イラだけは逃げさせてやりたいんだ………」
学園長のその顔は子を思う母の顔だった。髪の色は違えどやはり親子なんだな。と思えるほどに似ていた。
それと同時に彼女の顔に見惚れていた。
「ん? どうした。私の顔に何か付いているのか?」
「え? い、いえ! 何もついてません!」
「そうか。ところでお前の能力を教えてくれないか?」
は? 能力? 何それ?
「とぼけるな。仮にも勇者召喚されたお前に授けられた能力のことだ」
「……………?」
「……本当に知らないのか」
疑り深い目で問いかけてくる。
もう苦笑いするしかなかった。
「はぁ……能力がわからないのは厄介だな……まぁ【メ○ガイアー】とかが出来るからそっち関連の能力だとは思うが……」
ブツブツ言ってて何言っててわからないけど【メ○ガイアー】の部分だけは聞き取れた。
「………取り敢えず、能力がわからない以上ヘタな真似はするなよ。一応入学にはしとくが問題が起きた瞬間退学だからな?」
「わ、わかりました……でも、自分の能力がわからないことがなんでそこまで危ないんですか?」
俺が聞くと学園長は険しい顔つきに変わった。
仕事モードに入った学園長は凛としていてカッコイイというイメージが出てきて瀧本さんと重なった。
「昔、私と同じ転生者がいた。その転生者は自分の能力がわからなかったが別段気にしようともせずに暮らしていた。
そんなある日、魔族間での抗争にその転生者と転生者の妻は巻き込まれた。
妻の方は殺された。妻を殺された怒りで転生者は我を忘れた。その瞬間、転生者の能力が発動された。
彼の能力は【殺人衝動】。生物の中に潜むあらゆる感情を殺人衝動に変え、人を殺す。
その能力の発動により起きた被害はおよそ数十万人及んだ。
殺人衝動を沸きたてられた生物の中には数多くの竜種が確認され魔王軍も苦労した。
この事件をきに能力者が生まれた場合、能力を知らなければならないのだ」
「え、でも能力者の能力が調べられるんだったら俺にもそれを使えばいいんじゃ………」
「それが無理だから言っている。能力を知るには特別な魔道具が必要になる。
それがあるのは魔王城か他の国だろう」
一つ置いて話を続ける。
「先日、フェーネリアス王国がとあるダンジョンを攻略したと入った。まぁ、使い捨てのアイテムが秘宝としてあったのだが、この世界では能力者を発見すること自体が奇跡に近い。だからさほど脅威では無いと考えたが…………盲点だった……おそらく、君もフェーネリアスに召喚されるはずだったんだろう」
なるほど、理解した。
ただ一つ納得いかない点は俺だけなぜここに召喚されたのか……だ。
「その点は君の能力の影響か第三者の介入だと私は考える」
「第三者の介入………てことは俺達を召喚した国の誰か……ってことですか?」
「そうなるな。何か召喚されたらまずいことでもある者がいるか、密かに我々に味方してくれる者かもしれん」
俺は腕を組んで考える。
勇者召喚の理由は魔王を倒すことを目的としてることは明白だ。
で、魔王は人類にとっての敵。それを邪魔する者などいるのだろうか?
仮に味方してる者がいるとしてもメリットがわからない。
誰かに命令された? 誰に? 魔王?
「取り敢えず、わかったら連絡しよう。では、改めて歓迎しよう。私はアフィスフィア魔法学園都市、第八代学園長リリィ・サンタマリアだ。よろしくな689番君」
「689番じゃなくて斎藤 大和ですよ」
そう言い俺とリリィさんは握手をする。
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