韓国国内で与野党の双方から次期大統領の有力候補として名前があがり、それが各国で報じられることで一時は文字通り「ニュースメーカー」の代名詞にもなった国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長。最近は潘事務総長関連の報道はやや落ち着きを取り戻しているが、それは来年末に行われる大統領選挙よりも、現時点では今年4月の国会議員選挙の方がはるかに重要だからだ。しかし政治関連のニュースや解説、あるいはコラムなどを読むと、潘事務総長の名前は今もたびたび登場する。その内容は多くが非常に次元の高い「政治工学」や「権力構造」などに関するものだ。
例えば今回の選挙を通じ、潘事務総長が次期大統領候補としての基盤を一層固めるとの見方がある。与党セヌリ党では朴槿恵(パク・クンヘ)大統領を中心とする親朴グループが、選挙での公認選びを通じて金武星(キム・ムソン)代表を中心とする勢力、つまり朴大統領とは距離を置くグループのパワーをそぎ、その上で(親朴)陣営として次の大統領候補を立てたいと考えているが、その適任者が潘事務総長というわけだ。親朴の中にこれといった候補者が見当たらない上に、忠清北道出身の潘事務総長を後押しすることで、TK(大邱・慶尚北道)と忠清地域が手を結ぶという形をお膳立てできれば、親朴陣営は次の大統領選挙も間違いなく勝利を収められるとのもくろみがあるのだ。
また潘事務総長本人が強い権力志向を持っているとの見方もある。2001年の韓ロ首脳会談直後に発表された文書が問題となり、当時外交部(省に相当)次官の地位を更迭された潘事務総長は、私的な席で「一時は自殺も考えた」と口にしたことが伝えられている。この逸話は「潘事務総長は閣僚(外交部長官)への就任を目指してきたが、次官止まりになったため人生に望みがなくなったと考えた。つまり潘事務総長はそれほど権力志向が強かった」という意味に解釈されている。問題の文書とは、当時米国が進めてきた弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を維持あるいは強化するとの文言が入ったことで大統領が遺憾の意を表明し、汚点を残したとされる問題だ。上記の自殺うんぬんという言葉を潘事務総長の強い責任感、あるいは自戒の念の表れとする見方は、政治工学という観点からはすでに使い古された称賛の言葉になっている。そのため親朴陣営がお膳立てする上記のような次期大統領選挙の構図を、潘事務総長が快く受け入れるとの見方にもそれなりの説得力があるように感じられる。