フェティッシュの火曜日
2016年3月29日
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大山へと続く旧街道を、昔の名残を探しながら歩きました
私は古い道が好きだ。昔から数多くの人々が往来してきた道には、ロマンを感じざるを得ない。東海道や中山道といった主要な街道はもちろんのこと、土地の人々に使われてきた脇街道も見逃せない。
市街地の拡大によって町と町との境が曖昧になった今、旧街道の大部分は市街地に飲まれ埋没してしまっている。その中において、昔の道ならではの風情は残っているものなのだろうか。 身近にある旧街道私が旧街道を意識するようになったのは、とある道標を見つけたことに端を発する。
ある日、気分を変えようといつもの散歩コースとは違う道を歩いていた時だ。路地が二又に分かれるその付け根に、一基の石碑が立っていた。 路地の分岐点をよくよく見ると、何やら古そうな石碑が置かれているではないか
どうやら道標のようで、「左 大山道」と刻まれていた
気になったので「大山道」について調べてみると、その名の通り大山へと通じる旧街道のようだ。
神奈川県北西部に広がる丹沢山地の南東端に聳える大山は、その堂々たる山容から古来より信仰の対象とされてきた。特に江戸時代には、江戸から近いということもあり大勢の参拝客でにぎわっていたそうだ。 その大山へと至る大山道は複数あるようで、その中でもこの道標は現在の横浜市戸塚区柏尾で東海道から分岐して大山へ向かう「柏尾通り」というルートのようだ。 この何気ない路地が大山へと続く旧街道だったとは……
私にとってこんなにも身近な場所に旧街道が存在していたとは、なかなかに驚きである。
それと同時に、大山道の現状について知りたくなった。神奈川県の平野部はかなり市街地化が進んでいると思うが、往時の街道が今に残っているものなのだろうか。 せっかくなので、複数ある大山道のうち、最もメジャーな街道だという「田村通り」を実際に歩き、旧街道の風情がどれだけ残っているか調べてみよう。 藤沢宿から歩く大山道「田村通り」今回歩く「田村通り」は東海道の宿場町である藤沢宿から少し西に進んだ「四ツ辻」という場所で分岐し、田村という町を経由して大山へと至るルートである。
藤沢宿は同じく信仰の対象であった江ノ島へと向かう拠点でもあり、大山と江ノ島をセットで参拝するのが定番のコースだったようである。 スタート地点をどこにするかで少し迷ったが、藤沢宿の入口にあたる「遊行寺」から歩き始めることにした。
箱根駅伝の難所のひとつとして知られる「遊行寺坂」をてくてく登り――
ほどなくして遊行寺に到着
遊行寺は正式には清浄光寺といい、踊念仏で有名な一遍上人を開祖とする時宗の総本山である。藤沢はこのお寺の門前町として発展した町なのだ。
東海道はこのお寺の境内を横切り、山門前の橋を渡って藤沢宿へと進む。 東海道中膝栗毛にも描写のある遊行寺橋を渡ると、藤沢宿の町場に入る
現在は至って普通の町に見えるものの……
ところどころに古い町家が残っており、往時の名残が見られる
かつての藤沢宿は一見しただけでは普通の町と大差ないように見えるが、よくよく見ると古いモノが残っていたりする。 最近は宿場町として盛んにPRしているようでり、つい先日には電線の地中化工事が竣工したばかりだ。町家の中には国登録有形文化財に登録されたものもあり、保存に向けた活動が進んでいる。 東海道は昔の風情を残す宿場町が少なくなった今、良い動きなのではないだろうか。 藤沢宿を抜けてからは、ごくごく普通の家並みが続く
とはいえ道沿いには石仏など、古いモノもちょくちょく見られる
昔は宿場町と宿場町の間は田畑や小集落、あるいは森林や荒野が続いていたのだろうが、現在は住宅が途切れることなく続いている。
しかしかつての集落の切れ目など、ところどころに道祖神や庚申塔などが残っており、この道路がかつてのメインルート、東海道であったことを如実に伝えてくれる。 去年の春に、「二級河川の水源地めぐり」の取材で遡った引地川を渡る
その先にはなんとも不気味な双体道祖神があった
このギョッとするような見た目の道祖神は、なんでも女性の願いなら何でもかなえてくれるそうで、願いがかなったあかつきには白粉を塗ってお礼をすることから「おしゃれ地蔵」と呼ばれているそうだ。
天明八年(1788年)に築かれたとのことで、江戸時代中期から現在に至るまで、女性の願いを聞き続けて続けてきたのでしょうな。 さらに西へと進んでいくと、「四ツ辻」という場所で国道一号線と合流した
その一角に、堂宇に守られた石柱が立っている
旧東海道はここから国道一号線を進み、次の宿場である平塚宿へと向かう。田村通りはこの四ツ辻で分岐し、一路大山へと向かうのだ。
その分かれ道に置かれている石柱は、延宝四年(1676年)に築かれた大山道の道標である。 不動明王が睨みを利かせている、力強い字体の道標だ
その右には鳥居が。大山道「田村通り」はここから始まるのである
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