ガソリン自動車の誕生から2016年で130年。長きにわたって経済界の主役の一角をはる自動車産業は今後さらに成長するのか、逆にどんな死角があるのか――。連載「自動車産業の行方」では、コンサルティング会社のアーサー・D・リトル(ジャパン) パートナーの鈴木裕人氏に、自動車業界を取り巻く各国の産業構造(セミマクロ)や世界の自動車メーカーのポジショニング、さらに将来のビジネスモデルの変化を捉え、自動車産業の持続可能性をさまざまな角度から検証してもらう。今回は、日本の自動車産業にとって最大のライバルであるドイツに焦点を当てて、その強みと弱みを分析する。
最初に、ドイツ全体のGDP(国内総生産)成長率と大手完成車メーカー3社の1980年代からの売上・利益の推移を見てみよう。同国の経済成長の過程の中で、1990年の東西ドイツ統合、そして2000年前後のユーロ導入および東方拡大の二つの変化点が大きなインパクトを示していることが分かる。
2015年のギリシャ危機などの結果として明らかになったように、EU(欧州連合)経済圏の拡大の恩恵を最も享受してきた国がドイツであり、それはドイツの主要企業の業績拡大によっても裏付けられている(図1)。
■最大のリスクは「EU崩壊」
一方で、ユーロ導入後のドイツとその近隣諸国との間の競争力という点で貿易収支を比較すると、ユーロ導入後にドイツが持続的に貿易黒字幅を拡大しているのに対して、フランスやイタリア、スペイン、英国といった他のEU主要国は貿易赤字に甘んじることが多くなっている。これが、ドイツの欧州域内での相対的産業競争力の強化が、結果として近隣窮乏策となっていることの証左である(図2)。
こうしたドイツの勝ち過ぎに対する批判は、ギリシャ危機への対応の際にもかなり強調されていた。南欧諸国のみならず、英国までもが自国単独の利益とEU全体の利益との天秤の中で、EUからの離脱を検討し始めている。換言すれば、このEU崩壊シナリオこそが、ドイツにとっての勝利の方程式を根底から覆しかねない最大のリスクであろう。