多文化主義の「失敗」
大規模なテロが再び欧州を襲った。
22日に同時テロが起きたベルギーの首都ブリュッセルは、欧州連合(EU)が本部を置く「EUの首都」である一方で、欧州のイスラム過激派の「首都」とも形容されるようになった。
その現状は、「開かれた社会」という欧州が高く掲げてきた理想がメルトダウン寸前となっている理由の一端を物語る。ベルギー同時テロは、統合欧州の理想と現実を照らし出しているように思えてならない。
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ベルギー同時テロでは、地下鉄と空港の2ヵ所が自爆テロに見舞われ、30人近い死者を出した。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、昨年11月に起きたパリ同時多発テロとの密接な関係が指摘されている。
実行犯は、移民の子として欧州で育った「ホームグロウン・テロリスト」である。パリ同時多発テロ以降、ブリュッセル西郊のイスラム教徒集住地区モレンベーク(人口9万人の8割がイスラム教徒)がISへの戦闘員供給地となっていることが広く知られるようになった。
ここで一つの疑問を感じないだろうか。統合欧州の中枢神経とも言えるブリュセルがなぜ、テロの温床として無防備であり続けてきたのかということだ。筆者はこの点に、統合欧州の「理想」と「現実」のギャップの一端を垣間見る。
ベルギーは移民政策において寛容な国だ。その基本姿勢はレッセフェール(自由放任)であり、言語や教育を通した移民の同化政策を取るフランスとは対極にある。
移民政策には同化政策と、出身国の習慣・文化の維持を容認する多文化主義があるが、ベルギーは多文化主義の国と言えるだろう。さまざま民族がお互いを尊重し合い共生する社会。国境を越えた「多民族共存」は統合欧州が目指してきた理想の姿だ。
欧州では近年、この自由という価値観に基づいた多文化主義の行き詰まりが顕著になっている。
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