「二世の会」解散へ 満州の真実伝え20年
現在の中国東北部にかつて存在した満州国の官僚養成機関「大同学院」卒業生の子弟らでつくる「大同学院二世の会」(金澤毅会長)が今月末、1996年以来20年の歴史に区切りをつける。戦前、戦中の日本政府や軍部と一線を画し「民族協和」の理想国家建設を目指した父親たち(1世)の足跡を学ぶ試みは、戦後「侵略」「傀儡(かいらい)」の烙印(らくいん)のもとに否定され、客観的な研究も立ち遅れていた満州の真実を伝える数々の業績を残してきた。
大同学院は満州事変(31年)の翌年、満州国建国とともに国策会社の南満州鉄道(満鉄)など官民さまざまな組織の関係者によって設立された。卒業生は「牧民官」を自任し、辺境の農村地帯に住み込んで自治の指導に尽くした人も多い。日本人を優遇する人事制度や満蒙開拓移民の無差別拡大といった植民地経営方針に異を唱え、軍部と対立することも少なくなかったという。
会員は全国各地に約50人。ほとんどが終戦時に満州でソ連軍の侵攻を経験しており、出征した父親がシベリアに抑留され、引き揚げまで1年余の難民生活を送った人も多い。やはり大同学院関係者を中心に設立され、近隣諸国との友好増進を目指す民間団体「国際善隣協会」の常務理事、岡部滋さん(75)は「会員の多くが80代前後になった今、一つの区切りはやむを得ませんが、私たちの思いが変わることはありません」と話す。
大同学院の卒業生などを講師に招いた勉強会を定例化し、会員各自がテーマごとに満州研究を進め、1次資料の収集やマスコミへの情報発信も行った。成果報告の場となる会報「柳絮(りゅうじょ)」や会誌「二世の会通信」もそれぞれ第5号、第10号を数えた。
編集委員を務めた若林高子さん(80)は「満州にかけた父たちの思いを若い世代に伝える資料を残そうと懸命にやってきました」と振り返る。学院創立70周年の2002年には、記念書籍「物語 大同学院−民族協和の夢にかけた男たち−」(創林社)もまとめた。
美術評論家の金澤会長は1月発行の「二世の会通信」最終号に巻頭文「消えない灯」を寄せ、思いを託した。<(この会は)満洲開拓に献身的努力を重ねた知的青年たちの同学同窓生の子弟たちによって作られた小さな満洲研究会でした。(中略)人生最後の日まで「満洲の記憶」は、決して消えることのない灯となって私たちの心に残ることでしょう>。その言葉通り、東京都内で解散総会が開かれる5月14日以降も、「引き揚げ70周年」記念シンポジウムなどの企画が組まれる。「二世」たちの活動はまだ終わらない。【井上卓弥】