ドナルド・トランプ氏が米大統領選の共和党候補指名争いでトップに立っている。このことは、来年のこの時期には、米国南部の国境に「長城」を築き、数百万人の非正規メキシコ移民を国外退去させる取り組みが進んでいる可能性を意味する。
しかし、別の現実も待っている可能性がある。そのころまでに、メキシコ生まれ、35歳の米国市民のルーベン・キーウィン氏がラスベガスから首都に移り、ネバダ選出で初の中南米系下院議員になっているかもしれない。
この対照的な可能性は、2016年の選挙で中心となる劇的な出来事の一つを暗示する。トランプ氏は、反メキシコ移民の感情の波に乗ることで共和党候補指名争いで現在の立ち位置を得たが、同氏の成功は、次期大統領と議会の形を決める11月の選挙に向けた中南米系移民の結集も促した。
共和党のクレセント・ハーディー氏が座る米下院の議席を狙う民主党の州上院議員のキーウィン氏は、「少なくともこのネバダ州では、今回の選挙で中南米系市民の歴史的な投票率を目にするだろう」と語る。
「ドナルド・トランプ氏は特にメキシコ系移民を攻撃している」
ラスベガスの利口な投資家らは、キーウィン氏が正しい方に賭ける。ラスベガスのスローガン、「what happens here, stays here(ここで起こることはここに残る)」を考案したR&Rパートナーズのビリー・バシリアディス氏によると、移民法改正に失敗したバラク・オバマ氏が12年に大統領に再選されたことに失望し、14年の中間選挙では多くの中南米系の有権者が投票に行かなかったという。
しかし、トランプ氏かテッド・クルーズ氏が共和党の大統領候補になれば、バシリアディス氏は「中南米系市民は非常に活発になる」と見る。
■トランプ氏のホテルで組織化
バーテンダーの労働組合とも連携し、カジノやホテルの従業員5万7000人を代表する外食産業の労働組合が影響力を持ち、トランプ氏と利害を巡って二正面作戦を行っているラスベガスでは、メキシコ系市民の政治的影響力の誇示が特に顕著だ。
外食産業の労働組合は、ラスベガスの労働者階級における驚くような人種の多様性を反映する。組合関係者によると、組合員の出身国は167カ国に上り、話される言語は40カ国語以上だという。組合員の56%は中南米系で、人口の28%を中南米系が占める同州でも最大の中南米系組織だ。
トランプ氏とラスベガスの大富豪のフィル・ラフィン氏が共同で所有するラスベガスのトランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワーでの組合組織化の取り組みは、12月に従業員の53%が外食産業・バーテンダー組合への参加に賛成し、大きなハードルを越えた。
「組合のスパイ」が「深刻な違反行為」を行ったとして、トランプ・オーガニゼーションは全米労働関係委員会にこの事例の「審査請求」を行う予定だ。しかし、組合の広報担当者であるベサニー・カーン氏は、ビルの所有者は「選択肢が尽きてきて」おり、最終的には交渉に応じることになると組合は自信を持っていると語った。