トップ > 中日スポーツ > スポーツ > 首都スポ > 記事

ここから本文

【首都スポ】

男子競泳のピンチ救った江原騎士 萩原智子さんが直撃

2016年3月28日 紙面から

競泳日本選手権でリオ五輪出場権獲得を目指す山梨学院大の江原騎士(左)と大学の先輩でシドニー五輪代表の萩原智子さん=富山県総合体育センターで(戸田泰雅撮影)

写真

 日本男子競泳の危機を救った男がいる。昨年、ロシア・カザニで開催された世界選手権。日本は、この大会12位以内に与えられる800メートルリレーのリオデジャネイロ五輪出場枠獲得を目標のひとつに掲げていた。しかし、大会直前、リレーメンバーの1人で日本のエース、萩野公介(21)=東洋大=が左肘を骨折し、代表を辞退。そのピンチを救ったのが、追加招集された山梨学院大の江原騎士(ないと、4年・山梨学院大付)だった。リレー出場枠獲得に続き、今度は自身の200メートル&400メートル自由形の五輪出場権を懸け、日本選手権(4月4〜10日・東京辰巳国際水泳場)に出場する22歳を直撃した。 (シドニー五輪競泳日本代表・萩原智子)

 両親が「全ての人を守れるような人になってほしい」との願いを込めて付けた名前は「騎士」と書いて「ナイト」と読む。江原は「この名前はすごく気に入っています。両親に感謝しています」と、笑顔で話す。

 追加招集が決まった当初は「こんな形で日本代表チームに入ったので、正直、聞いたときは複雑で。でも、選ばれたからには頑張ります」と戸惑いの表情を浮かべていた。しかし、日本チームの先輩で、五輪メダリストでもある入江陵介(26)=イトマン=や立石諒(26)=ミキハウス=らに「気負うな」と気遣いの言葉をかけられる中、試合直前、チームの士気を高めるために行われる応援の声出し役に指名され、「緊張感を解してもらえた」と感謝を口にした。

 そして、「水泳界の騎士」は、初の世界選手権と思わせない堂々とした泳ぎで、名前のごとく日本のピンチを救った。800メートルリレーの五輪出場枠獲得に貢献し、この世界舞台で大きな収穫を得た。「世界で自分の力のなさを痛感した。いろいろな人の泳ぎやレースを見ていたら、これが世界のトップなんだな、と。価値観が変わった」。そんな、世界を知った男の勢いは、一気に加速する。200メートルと400メートルの自由形では、2015年度の日本ランキングで萩野に次ぐ2位に駆け上がった。

 2月のコナミオープンでは200メートルで、1分46秒66の自己ベストをマーク。このレースでともに泳いだ萩野から「騎士さん、ヤバいです。ロンドンからの4年間で、日本国内で3番目に速い記録。このタイムなら8継(800メートルリレー)、オリンピックのメダルありますよ! めちゃうれしいです!」と声をかけられたが、本人は、あまりの好記録に驚き、ぼうぜんとしていたという。

 江原には2つの強みがある。ひとつは、徹底した自己分析。小学生のころから、母親が撮影してくれたレースを何度も繰り返し見ては「泳ぎの研究をしていた」という。

 「みんなマイケル・フェルプス(米国)の泳ぎをしたいって言いますが、体に合った特徴のある泳ぎをしないと。自分は体が細いから、フェルプスのように力強い泳ぎができないです」

 そう言って笑う江原は、トップスイマーの中でも171センチと小柄だ。「練習中も泳ぎを撮影してもらい、携帯にも動画を入れている。感覚も大事だけど、コーチやマネジャー、後輩にも泳ぎを教えてもらいます。速い人、遅い人関係なく、みんなの意見を取り入れて整理して、どれが必要かを考えます」。彼には自身を客観視する強さがあり、相手がどんな立場であろうとアドバイスを受け入れる素直さがある。

 ふたつ目は、精神面だ。「小学生のころから今までベストタイムを出せない年はなかったです。必ずベスト更新してきました」と聞き、私は驚がくした。現役時代、日本代表に入る直前、4年間も自己ベストをマークできなかった私にとって、トップスイマーになった彼が記録を伸ばし続けていることが信じられなかった。

 なぜ順調に記録を出し続けられるのか? そう尋ねると、「常に小学生ですから」と即答された。「小学生のころは、大幅にベストが出る。『大人になったら出ない』と思ったら、後退してしまう。今、自分はピークだと思うし、まだいきなり3秒(速い)ベストが出ると思っています」と真剣に語る。指導する山梨学院大・神田忠彦監督も「泳ぎのセンスは言うまでもない。騎士は心に壁を作らない。常にベストタイムが出ると思っているんだよ」と感心する。

 「まだまだ修正するところがあるから、止まる気がしない」。自分自身を心の底から信じる力は、江原を大きく成長させてきた。「日本選手権、すごく楽しみです。早く泳ぎたい。自分のレースをすれば、リオは決められる自信はあるので。覚悟は決まっています」と、小学生のように無邪気に笑った。

    ◇

 首都圏のアスリートを全力で応援する「首都スポ」面がトーチュウに誕生。連日、最終面で展開中

 

この記事を印刷する

PR情報

閉じる
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日スポーツ購読案内 東京中日スポーツ購読案内 中日スポーツ購読案内 東京中日スポーツ購読案内 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ