自殺対策法 いのち救う支え合いを
日本の自殺者は6年連続で減少し、2015年は2万5000人を下回った。とはいえ、自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は欧米主要国と比べ依然高い水準だ。
すべての自治体に自殺予防を義務づける改正自殺対策基本法が成立した。これを契機に、対策をいっそう進めたい。
自殺者は1998年以降に3万人台が続き、社会問題になった。06年に自殺対策基本法が成立し、対策が本格化した。原因分析が進み、自治体の啓発・相談活動も活発化したことが減少の要因とみられる。
貸金業法改正で多重債務問題が改善されたほか、経済状況がやや持ち直したことも影響しているようだ。
だが、今なお1日平均70人近くが自ら命を絶っている。自殺率は米国の約2倍、英国の約3倍だ。
対策は自治体によって取り組みに温度差があった。このため改正基本法は、自治体が地域での自殺の実態を分析し、対策計画を策定することを義務づける。国は自治体に助言や援助をする。
自治体だけでは有効な対策を進められない。自殺防止に取り組むNPOなどの民間団体との連携が欠かせない。電話相談など民間の活動を支える十分な補助金も必要だ。
厚生労働省も精神保健福祉士などの専門家が電話や面談で悩み相談に応じる予防情報センターの拡充を計画している。これまでの31カ所から67カ所に増やすという。自治体と協力して予防を図ってほしい。
東京都足立区では12年度から「いのち支える寄り添い支援事業」を行っている。
仕事や家庭の悩みに関する相談会を開き、自殺のリスクが高い人を見つける。そのうえで、民間の社会福祉士や精神保健福祉士に支援員としてサポートしてもらう。福祉事務所や消費者センターとも連絡を取り合い、借金苦などの問題解決に取り組んでいる。
足立区では単身の無職男性の自殺が多かった。こうした取り組みによって、98年のピーク時に全体で193人だった自殺者は14年には142人にまで減った。
区の担当者は「自殺リスクの高い人を支援して生活の自立につなげれば、多くの人が危機的な状況を脱することができる」と言う。
若年層の自殺対策も急務だ。15〜34歳の場合、欧米主要国の大半は事故が死因の1位だが、日本は自殺が最も多い。ネットを使った相談窓口の充実も求められる。
学校も、従来の「命の大切さ」を教える授業ばかりでは自殺を防げない。どんな相談先があるのかを教える具体的な指導も必要ではないか。