味の素が来年4月から所定労働時間を1日当たり20分短縮することを労使で合意する見通しとなった。これが実現すると、基本給を変えずに従来は7時間35分だった味の素社員の1日の所定労働時間は、同7時間15分になる。
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1日の所定労働時間を8時間とする会社が多い中、味の素はもともと法定労働時間よりも短かった労働時間をさらに圧縮するという、先進的な取り組みである。
■ 年間の実労働時間は同業系で最も短くなる
味の素の主要な労働条件について、食品業界の主な企業と比較すると、味の素の1時間あたりに換算した賃金は、所定労働時間短縮後の試算においてはサントリーやキリンにはやや及ばないが、主力業態の近いカゴメやキューピーを大きく上回る水準となる。所定労働時間短縮後の年間の実労働時間1918時間は、比較したどの会社よりも短い。
1日の所定労働時間が7時間15分で、平均年収923万円。有給も充分に消化できる。このような味の素の職場環境をうらやむ人も少なくないだろう。これが実現できるのは味の素が相対的に少ない労働時間で高い付加価値を生み出す態勢を構築しているからにほかならない。
味の素に取材したところ、この労働時間短縮には4つのポイントがあることが分かった。
第1のポイントは、味の素は労働時間短縮のために様々な仕組みを整備するだけでなく、それを利用する社員の「意識」を変革させることを、同じくらい重要視しているということだ。
例えば、味の素では、「働き方計画表」という社内ツールを各職場で利用している。社員各自が残業時間や有給取得日など自己の労働時間を計画し、上司や同僚とそれを共有することによって、職場の「見える化」を図るものだ。
味の素人事部によると、このような「見える化」によって、職場のロスが減ったのは確かだが、それ以上に効果があったのは、各社員が自己の労働時間を客観的に把握することにより、「労働時間への感度」が高まったことだという。
これにより、一人ひとりの社員が効率的な働き方を意識するようになったのはもちろんのこと、部署ごとに総労働時間の目標値を設定したり、実績との比較を分析したりすることで、管理職の立場にある社員に関しては、自分がマネージメントするチーム全体の労働時間の効率化に対する意識も高まったそうだ。
特に効果があったのは有給休暇の取得。「働き方計画表」で有給取得を計画した日は、やむを得ない事情がない限り、本人が関与する会議を入れないように、上司や同僚が意識的に配慮する文化が徐々に形成され、有給休暇の取得が全社的に促進された。
■ 最終退館時刻を24時→20時に
別の例を挙げるならば、味の素では各事業所で最終退館時刻を定めており、本社の場合、特別な申請をしない限り、20時で強制的に退館となる。もともとは24時だったが、それを段階的に短縮してきた。
この取り組みに関しても、最終退館時刻を定めるという制度そのものの導入効果だけでなく、「20時」という最終退館時刻を社員に「意識」させることで、その時間までに仕事を終わらせるためにはどうすれば良いかという創意工夫を促したり、良い意味での緊張感を醸成したりすることを会社としても目指していたりしている。これで、いわゆる「ダラダラ残業」は大きく削減できたようだ。
第2のポイントは、労働時間短縮の取り組みの全社展開手法である。
「労働時間を短縮したい」と考えている企業は多いが、筆者の経験からも、例えば「毎週水曜日はノー残業デー」とトップダウンで実施しようとしても、部署ごとの働き方に違いがあるため、取り組みに対する温度差や不公平感が社内に広がり、施策の中止ないし、施策が有名無実化してしまうことも珍しくない。
この点、味の素では、人事部担当者が「弊社でも部署による温度差は全く無いとは言えませんが」と言いつつも、様々な部署を持つ大企業でありながら、労働時間の短縮への取り組みは全社的に進んでいる。
味の素がどのように労働時間短縮の全社展開を進めているかというと、そのポイントは、「各部署への権限移譲」と「人事部によるアシスト」の2点であるようだ。
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