逮捕された容疑者の身柄拘束を継続するよう求める検察の「勾留請求」を、裁判所が認めないケースが増えている。全国の地裁、簡裁で平成17年に0・47%だった却下率は26年には2・71%まで上昇し、過去10年間で約5・8倍になった計算だ。起訴された被告の拘束を1審判決前に解く「保釈」が地裁で認められる割合も上昇している。勾留請求と保釈をめぐっては、裁判員制度導入をきっかけに「理由なき長期拘束」を慎重に判断する動きが広がった。最高裁も拘束を認めない判断を相次いで示しており、後押しとなりそうだ。(滝口亜希)
◆容疑否認ケースも
「本件で勾留の必要性の判断を左右する要素は、罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられる」
電車で中学生の体を触ったとして京都府迷惑行為防止条例違反の疑いで現行犯逮捕された男性の身柄拘束をめぐる判断で、26年11月17日付の最高裁第1小法廷決定はこう指摘した。男性は容疑を否認していたが、京都地裁は検察の勾留請求を却下。その後、一転して検察の準抗告が認められ男性側が特別抗告していた。
最高裁決定は、男性が罪証隠滅のために中学生に接触する可能性が高いことを示す具体的な事情はうかがえず、「異なる判断をした理由が示されていない」として勾留を取り消した。
第1小法廷は翌18日に別の事件で保釈を認める決定を出したほか、第3小法廷が27年4月に保釈で、第2小法廷が同年10月に勾留請求で、身柄拘束を認めない判断を示した。
いずれも、当初は身柄拘束が認められなかったが、検察の準抗告や抗告を受けて拘束が認められたケースで、最高裁が初めの判断に戻した形だ。ある刑事裁判官は「最高裁が裁判員裁判で示した1審尊重の流れが勾留請求や保釈にもあてはめられた」とみる。その上で「準抗告審や抗告審は事後的チェックをする立場。当初の判断をひっくり返すには、相応の理由が必要ということだ」と話す。
◆裁判員制度で機運
かつては、「否認すると身柄が長期にわたって拘束される」として「人質司法」と批判の声も出ていたが、勾留請求、保釈の運用に変化の兆しが表れたのは18年。当時の大阪地裁部総括判事が法律雑誌に発表した論文がきっかけだ。
論文では保釈について、罪証隠滅の現実的具体的可能性があるかを検討すべきだとし、否認や黙秘をただちに「罪証隠滅のおそれ」と結びつけることを戒めた。21年の裁判員制度導入を控え、捜査機関が作った供述調書よりも法廷でのやりとりを重視する「公判中心主義」が意識された時期。身柄拘束のあり方にも国民の目が向けられることを踏まえた提言だった。
「これまでは検察の判断を裁判所が事後的に検討する検察主導型だったが、本当に勾留が必要なのかを裁判所がより慎重に検討するようになった」。ベテラン刑事裁判官は振り返る。
裁判員制度に先駆けて導入された公判前整理手続きでは、事前に争点を絞り込む。別のベテラン刑事裁判官は「被告と弁護人の打ち合わせの機会を十分、確保する必要がある」と話す。
日本弁護士連合会刑事弁護センター委員の前田裕司弁護士は「かつては否認しているだけで身体を拘束され、保釈も認められなかったが、裁判員制度導入を契機に裁判所の意識が明確に変わった」と指摘する。
起訴前に国選弁護人が付けられる「被疑者国選弁護制度」による弁護活動の活性化も一因とした上で「不必要な身体拘束はまだある。勾留質問での弁護人の立ち会いなど、制度面での改善が必要だ」としている。
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