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社説

精神医療施策 デイケアの“縮小”なぜ

 精神科外来でデイケアと呼ばれる集団療法の長期利用が厳しく制約される。患者の社会復帰を支える場でもあり、国が重視する“かかりつけ機能”に近い役割も担っている。それなのに、なぜ。

 原則二年ごとに国が見直す医療の公定価格(診療報酬)が改定された。だが中には、首をかしげたくなる内容もある。

 精神医療分野のデイケアの制度変更は、その一つだ。

 厚生労働省などによれば、精神科デイケアなどの患者の七割近くは統合失調症。うつ病などの気分障害やアルコール、薬物依存症などの疾患も対象だ。

 大半が専門の医院やクリニックで運営され、十数人など一定数の患者が通いながら、主治医の治療と併せ、集団活動に取り組む。

 教室の授業さながら病気について学んだり、機能訓練、スポーツなど多彩なプログラムを重ねる。孤立する患者の“心のリハビリ”は欠かせないという。

 ところが今回の改定で、そんな患者のよりどころが“縮小”されかねない制約が、一年以上の長期継続利用に設けられた。

 現在、一年を超える利用は「週五日」を限度に診療報酬に算定する。だが、四月からは「精神保健福祉士による患者の意向聴取」など、定められた三要件をすべて満たさなければ、その日数は「週三日」に短縮されてしまう。

 しわ寄せは確実に患者に来る。医療団体の呼び掛けに、見直し撤回の署名は四万人分を超えた。

 厚労省は「より自立した生活への移行を促す」ための見直しと説明したが、どこまで誠実に現場の実情を見たのか。

 再発や挫折を繰り返す患者も少なくない。「自立」には根気と時間がいる。デイケア参加を何日続けられるか、生活リズムをどう取り戻すかが意味を持つのだ。

 「福祉士がいない医療機関は通常の運営自体も難しくなる」と、危機感を抱く精神科医もいた。

 患者数が三百万人を超え、なお増えている精神疾患。国もがんや脳卒中などに加え五大疾病に指定、重点対策を訴えたはず。

 程度の差はあれ、デイケア併設の医療機関は、長期入院者の受け皿や大病院への橋渡しなど地域の「かかりつけ」の役割も持つ。

 患者の人生同様、仮に病名が同じでも症状は一人一人違う。一律にデイケア利用を縮めるような改定は、やはりおかしい。効率優先ではなく少し長い目で、患者本位の改善案を考えるべきだろう。

 

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