アク、特に竹の子のアクについて

1、アクとは何か

アクとはアクとは食品に含まれる、渋み・苦み・不快な臭いなどの元となる、
食事には不要な成分の総称。有害のものとは限らず、明確な定義はない。
植物の場合は硝酸、シュウ酸、ホモゲンチジン酸などのカルボン酸(有機酸)や、
アルカロイド物質(塩基性の有機化合物)、タンニン。肉では血やタンパク質、
遊離アミノ酸などがアクの成分であると考えられている。

(a)シュウ酸(COOH)2:青菜類やフキ・ワラビ・ウド・ゼンマイなどの山菜類に
含まれる有機酸の一種。植物中ではグリコール酸がグリオキシル酸を経てシュウ酸に
変化するとされている。特にほうれん草に多い。水溶性。体内でカルシウムや鉄分と
結合し、吸収を妨げたり結石の原因になるといわれる。食べてすぐにカルシウムと
結合して「シュウ酸カルシウム」になればそのまま排泄されるので、ほうれん草+
シラス、バナナ+ヨーグルト、ココア+牛乳など、それぞれを含む食品を同時に
摂取すると安心という説もある。

(b)硝酸NO3:青菜類に含まれる無機酸塩類の一種。肥料に多く含まれ、特に現代の
肥料を多く与える農法では作物中の硝酸・窒素濃度が高い。これが体内で亜硝酸塩
に変化すると発癌性物質のニトロソアミンが作られたり、血中のヘモグロビンと
結合して酸欠状態を起こすことがある。水に溶けやすいため、青菜類は茹でて食べる
のが安全。旬の時期に採れた露地ものでは比較的少なく、生食用に含有量を少なく
抑えているものもある。

(c)ポリフェノール:渋味。抗酸化作用。イモ類・レンコン・ウド・ゴボウなどの渋み
になるクロロゲン酸はこの一種。空気中で酸化し褐変の原因になる。

(d)アルカロイド:植物塩基とも呼ばれ、モルヒネやアヘン、猛毒のスズランや
トリカブトもこの仲間。フキノトウ・アスパラガス・トマト・キュウリなどの
ほろ苦さはこの成分で、塩や重曹を入れた湯で茹でるとよい。

(e)配糖体類:豆類に含まれるサポニン。渋みやえぐみがあるが、茹でるとほぼ取り
除かれる。

(f)ホモゲンチジン酸:タケノコやサトイモのえぐみ。チロシン(タケノコの水煮に
良く見られる白い粉状のもの)というアミノ酸が酸化して生成される。

2、「アク抜き」について
(a)水溶性のもの:水にさらす。ナスなど。
(b)有機酸:灰や重曹を入れたアルカリ性の水につけてアルカリと結合させる。
ちなみに、食材の香りが弱くなってしまうため、中国ではアク抜きの習慣がない。
調理法でごまかすようである。例えば、細かく切って油で炒め、油によって苦味や
えぐみが舌の味蕾に触れにくくする。(卵とじでも同じ効果がある。)また、
辛味をつけ、苦味やえぐみを感じさせにくくする、などもある。


3、タケノコのアク抜きについて
タケノコのアク抜きについては、米ぬかを入れた水で茹でる・米のとぎ汁で茹でる、
タカノツメを入れて茹でるなど、いろいろな方法が知られている。タケノコに含まれる
アクの主成分はホモゲンチジン酸とシュウ酸と考えられ、採取から時間が経つ
にしたがって増加する。また、特に先端部に多く含まれる。
 2004年4月21日放送のNHK「ためしてガッテン」では、「専門家」の調べによると
茹でる前後でえぐみ(ここでは苦味と渋味の総称)の量は変わっておらず、単に熱で
アクの増加が止められるだけであり、米ぬかのうまみによってえぐみが感じにくく
なっているだけと放送されている。
(http://www.nhk.or.jp/gatten/archive/2004q2/20040421.html)
米ぬか・米のとぎ汁の利用ついては、茹で汁の中の微小な物質にアクが吸着させる
ためや、酵素による働きと書かれている文献もあるが、科学的な根拠については書かれ
ていない。また、一般にタカノツメを入れるのは辛味でえぐみを感じにくくさせたり、
アク抜きとは関係なく日持ちを良くさせる目的とも言われている。
 しかし、シュウ酸やホモゲンチジン酸が水に溶けやすい物質であることは確かで、
茹でることによるアクの流出も十分に考えられる。さらに、これらの物質の特性から、
もっと効率の良いアク抜きの方法がないか調べてみたい。


4、実験

【方法】収穫後数時間のタケノコをいろいろな方法でアク抜きしてみて、味を比較する。
A:生のまま薄切りにして、グリル焼き
B:米ぬかとタカノツメを入れた水で1時間茹でる
C:重曹を入れた水で1時間茹でる
D:米ぬか・タカノツメ・重曹を入れた水で1時間茹でる

Aは加熱のみで水へのアクの流出を無くし、他の結果と比較するために行った。
Bは家庭で行われる最も一般的なアク抜きの方法。
Cはシュウ酸を含むサトイモで用いられる重曹によるアク抜き方法。
DはCとの風味の比較実験。

B、C、Dの米ぬかの量は2リットル程度の鍋に一掴み、重曹は小さじ2杯、タカノツメは1本。
タケノコは皮を剥いたものを10cmほどの大きさに切って、水から茹でた。

【結果】
A:香りやタケノコそのものの味は一番強いが、えぐみも強く感じる。
B:口の中にややえぐみが残る。やや米ぬかの匂いがつく。
C:えぐみは全く感じない。茹で汁が黄色くなる。
D:えぐみは全く感じない。茹で汁が黄色くなる。やや米ぬかの匂いがつく。

NHKの番組では茹でることは加熱による「アク止め」にしかならないと紹介されていた
ようだが、実験Aの結果ではかなり強いえぐみを感じたのに対し、実験Cの重曹のみを用い
た実験では、他の味でカバーするのではなく、アクのえぐみそのものが抜けているよう
に感じた。Bは普段食べている家で茹でたタケノコの味に最も近く、ただしタケノコ本来
の香りなどについてはCやDとあまり変わりがなかった。Cは市販の水煮の味に近い。
DはCと比較して米ぬかの匂いがやや感じられたが、味をつけてしまえば感じられない
程度である。

【考察】
 以上の結果から、タケノコのアク抜きには重曹を入れた水で茹でるのが最も有効である
と考えられる。米ぬかを用いる方法と違い、重曹は手に入りやすく、また茹でている間の
吹きこぼれもないので調理が楽になる。この方法でほぼ完全にアクを抜くことができたが、
これをダシ・しょうゆ等で煮付けて一晩置いたところ当初よりややえぐみが強くなっていた
ことから、アクの生成は加熱によっても完全には止まっていないことがわかる。
タケノコはその日食べる分だけを収穫・調理すると良い。また、皮付きのまま茹でると
柔らかくなるともいうが、皮を剥いてから茹でても、完全に柔らかくなります。
さらに、地中にあるうちに掘ったものでないとダメともいうが、上記の方法Cではかなり
成長したものでも茹でたてはまったくえぐみを感じません。

【謝辞】
十分な量の竹の子が取れる竹林を残してくれた先祖に感謝する。(おそらく、5月に数百本
と取れるが、全てを取るのは重労働である。)常日頃、この竹林を管理する両親にも
感謝する。また、このアク抜き実験に積極的に協力してくれた妻に感謝する。