ロビイングで社会を変える

政策を実現したいのであれば、政治家ではなくロビイストになれ――暗黙のルールになっていたロビイングのルールとテクニックを紹介した『誰でもできるロビイング入門』が話題だ。選挙やデモとは異なる社会の変え方について、著者の明智カイト氏に話をうかがった。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

ロビイングってなに?

 

――明智さんは、LGBTなど性的マイノリティの自殺対策、いじめ対策をしている「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」の代表をしながら、認定NPO法人フローレンスでもロビイストとして活動されてます。初の単著を出すと伺い、LGBTではなく、ロビイングの方で出すんだと意外な感じを受けました。

 

今回、この本を書いたのはあまりにもロビイングについて取り上げたものがなかったからです。本では、私のほかに、自殺対策に清水康之さん、病児保育・待機児童問題に駒崎弘樹さん、いじめ対策に荻上チキさん、児童扶養手当削減の反対に赤石千衣子さんと、それぞれのロビイングについてインタビューをしました。

 

私もそうなのですが、やはりメディアで発言するときは自殺やLGBTなど、それぞれのイシューの問題点についてばかりです。ロビイングの話をすることはありませんし、ロビイングそのものに関する取材もほとんどありません。

 

その上、ロビイングの技術はこれだけITが発達しているのに口頭で伝えられてきました。そもそもだれも記録を取っていない。ですから、ロビイングってなに? ロビイストって何してるの? と思っている人が大半でしょう。

 

 

――未確認生物のような存在になっているんですね。

 

そうですね。荻上チキさんは本書の中で「概念をつくる」と言っています。たとえば、「マタハラ」や「ブラック企業」という概念をつくることによって、社会問題が可視化される。ロビイングも同様で、今まで知っている人だけが知っているものでしたが、今回の本で可視化されることを狙いました。

 

よく「おれが選挙にいっても政治は変わらない」「デモじゃ政治は変わらない」という人がいますが、選挙やデモだけではなく、ロビイングという手段もある。民主主義の一つの方法であるにも関わらず、暗黙のルールになっているのは、政治において損失だと思っています。

 

そのために、必要な人が知りたいと思ったときに、すぐ手に取れる新書というかたちで世に出したかった。たしかに、ロビイングは難しいかもしれませんが、情報にすらアクセスできないのはおかしい。

 

 

――「政策を実現したいのであれば、政治家ではなくロビイストになれ」という一文が非常に興味深かったです。そう思われるきっかけはあったのでしょうか。

 

私がはじめて政治に興味を持ったのは郵政選挙後の小泉政権の時でした。その頃は、政治家ブームというのか、多くの若者が政治に興味をもっていました。私の中では、政治=議員でしたので、都議会議員の元で議員インターンシップを行うことにしたんです。

 

実際にやってみると、細かな仕事の多さに驚きました。支持者が参加している小さな会合を毎日いくつも回り、挨拶をして名刺を配る。いくつもの報告会に顔を出す。秘書の方や後援会の方が名簿をつくったり、報告会の参加不参加を電話したり、とにかく事務作業が多かったんです。

 

政治家はとにかく忙しい。そして、いろんな方に支えられている分、しがらみが多い。立場上思ったことを主張していくのが難しい。政治家なのに、政策のことを考えられる余裕がないように見えました。私としては、純粋に政策だけにコミットしたかった。そこで知ったのがロビイストの存在でした。

 

通常私たちは、国会の審議で賛成や反対を知ることができます。しかし、国会に法案が提出されるまでには様々な動きがあります。まずは、政党の中で採決をする。超党派議連をつくって各党の意見をすり合わせる。その一番のスタートがロビイングです。

 

国会議員だけでは、それぞれの立場があるので、議論は進んでいきません。そこで、人間関係を調整していく必要があります。国会議員も官僚もメンツを気にする人たちなので、第三者が入らないとメンツが保たれないのです。その中で、シンポジウムを開いたり、メディアに働きかけ問題提起をしてもらうこともあれば、内密に進めていくこともあります。

 

 

困っているからロビイングする

 

――当事者ならではのロビイングのむずかしさはありますか。

 

ありますね。たとえば、私の場合はLGBTの当事者です。ロビイングをする際には、メディアに訴えることもありますが、基本的には顔や名前を出す必要があります。私はたまたまカミングアウトできる状況でしたが、周囲の状況によっては公にできない場合もあります。また、何かしらの障碍を持っている方や難病の方の場合は、物理的に国会にいけない場合もあるでしょう。

 

また、どのように自分が困っているのか説明しないといけません。私は自分の自殺未遂の話をなんども議員や官僚たちの前で話しました。自分の過去や体験を説明するのは非常に難しいですし、辛いと感じる方もいるでしょう。そもそも、困っているからロビイングをするわけですから。

 

日本では当事者やその家族がロビイングを行っていますが、アメリカでは職業としてのロビイストがいて、給料を貰っています。このように非当事者の人が仕事の一環としてやっていく方が効率がいい。

 

『誰でもできるロビイング入門』を書いていて矛盾するようですが、やはりロビイングは一朝一夕でできるものではありません。ロビイングには細かいルールが沢山あります。法律も勉強しなければいけないし、どこから話を通していくのか、書類のフォーマットも決まっていますし、勘所もある。ただでさえ大変な状況なのに、並走してやっていくのはかなり体力がいるからです。もっと日本でもロビイストが一般的な職業になってほしいですね。【次ページにつづく】



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