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アドファイブ日記

2016-03-27

教養について

展示会が終わって一息ついて、ブース来訪者へのお礼メールを出して具体的な案件化の様子伺いをしている。

ブースで話した内容を思い出し、相手の会社のホームページを見たり名刺に付いた肩書から相手コンテキストを想像したりして、相手にとって違和感のないオファーを出しつつ下請けっぽくない対等な感じで礼儀正しい内容の文章を書く。

そうした作業は結構頭を使うが、僕が得意な方の作業だ。何より、文章を書くのが僕は得意だ。もしかしたらプログラミングよりも得意かもしれない。

そうした1対1の丁寧な対応というのは、ビジネス的なうまみはあまりない。もちろん大手企業と対等に近い条件での取引きが出来るようになるとしたら良いことだが、理想的なのはパッケージ的に繰り返し同じものを多くの顧客に提供し「粗利x個数」でスケールするような形だ。

でも、ドローンはまだまだ業界的にも弊社の事業的にも探索フェーズにあり、そうした量産対応が効かない段階である。よって、個別対応を厭わず、むしろ情報がたくさん入ってくる体制を作るのに力を入れるのが合理的だろう。マーケットフィットが見えたらこんどはパッケージ化とオペレーション効率化に注力すれば良い。フェーズごとにやるべきことは違う。

僕は最初アドテクの分野で起業したが、その際に感じた面白みの一つとして、広告やマーケティングというのはどんなビジネスでも共通に存在し、そこには共通パターンと業種個別の事情の両方が複雑に絡み合って存在するという点がある。そこにあるのは単に雑多なことが複合している状態ではなく、それぞれが理由を持って構造的に絡み合った複雑な様相だ。

要素還元的な分析が効く射程範囲がケースバイケースで異なり、メタファーを持ちだして何とか既知の構造に対する解を転用したり、分解しきれないところをモノリシックなシステムとして実験対象にし、分解しきれたところはサブ問題として実験対象にし、それらの実験結果を元の問題分割の方法論を逆にたどって統合して全体像をつかむ。

そうやって掴んだ全体構造を、こんどは他人に共有する。その際には相手が持っている知識と事情、インセンティブなどを総合的に加味して、言葉を選び、メタファーを選び、全体のストーリーを立てて辻褄を合わせる。こういうことは外資系経営コンサルタントがやっていそうな仕事だな、とも思う。

ソフトウェア開発やプログラミング人工知能技術など、専門的な研究開発にはそれはそれで難しさと面白さがあり、高い技術力は相応のビジネス競争力に直結する。しかし、そうした技術によって生み出されるベネフィットの受益者を「見つけ」「フィットさせ」「価値を伝え」「継続利用させる」といったビジネスサイドの開発、すなわち事業開発というタスクもまた同じく難しさと面白さがある。

そうした状況に対して、自分の武器と思えるのは、20代の頃にたくさんの本を読んだことだ。僕は20代の頃にこう思った。

「理系バカはダメだ。僕にはもっと文系の教養が必要だ。そうだ、文系のいろんな学部レベルの本を読んで、文系の学部レベルを総なめにしたらどうだろう?」

それで、経済学歴史学、憲法学、心理学科学哲学分析哲学美術史、いろんな哲学者の思想の入門書などを週末になると本屋にいってたくさん買い込んでは読む、ということをした。文系の学部を3,4個卒業したくらいの教養がほしいと思って、たくさん本を読んだ。それから僕は引きこもり気質で人との交流に乏しかったので、人情物の歴史小説も結構読んだ。特に藤沢周平がお気に入りでたくさん読んだ。

そうした読書は、当時すぐには自分の仕事と結びつかなかった。でもそうやって本を読んでいる間、たくさんの論理構造や複雑な概念や絡み合ったものをほぐしたりメタファーですり替えたり、あとは言葉にするのが難しいようなことを上手く言葉に置き換える例を哲学者の書いた思想入門書などでたくさん触れて、何度も感動を味わった。

それが今になって大変活きていると感じる。何か課題が生じると、なんとなくどうすればいいかの具体的な方法がすぐに浮かんでくる。人との関係性や自分の状況を把握してそれを調整する手段、研究開発の意味付けと具体的な可能性について見通しを立てたり見積ったりすること、などなど。

たくさんの論文を読みこなし専門知識を豊富にもつような凄腕の研究者技術者に対して自分は敵わないものの、そういうのは自分にとって「やればいつでも出来る簡単なこと」であり、自分にとっての一番の武器は技術だけではない総合的な課題解決をする力があること、狭い意味での「教養があること」だと自負している。こんなことを自画自賛しちゃうのは「教養のない人」のやることかもしれないけど。

ただ、技術力が超一流というほどでも無い自分としては、培った教養によっていろんな課題を解決できることこそが自分の誇りであり、技術力がすごい人を見てもまったく自分が負けると思わない傲慢さの根拠にもなってるんだよな。もちろん、並の技術者や並の研究者に対してなら、技術力でも負けないよ。技術も大好きです。

僕は40歳が間近に迫った今、今後の展望としてはより色んな実業の世界における様々な構造や様相を理解し、技術によって課題を解決し付加価値を提供し、そこで「個別のコンサルティング・おもてなし」と「パッケージ化・量産化」という原理的にトレードオフになる部分を両立させるスキームを繰り返し考案して実現させるような力が欲しいと思う。読書も引き続き続けたいけど、実社会の色んな構造に触れて実社会で色んな場所で繰り返し成果を出す力が欲しいと思う。

そのためには経験をもっと積みたい。今まで知らなかった業界の人に会い、コミュニケーションして自分の付加価値を提供するようなことを、色んな場所でどんどんやっていきたい。その裏で技術力も磨きたい。論文もたくさん読んで、最新技術にもある程度は食らいついて生きたい。オリジナルソフトウェアもどんどん開発したい。会社で作ってる製品もどんどんやるけど、それに加えて今個人的に作りたいのはポーカーの思考ルーチンと自動作曲ソフトウェア。思ってるだけじゃなく、さっさとやろう。

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