清水理史の「イニシャルB」

より速く、使いやすくなった入門モデル Synology DiskStation DS216j

 Synologyから、新世代の16シリーズの2ベイモデル「DiskStation DS216j」が発売された。HDDなしの実売価格で2万6000円前後と個人ユーザーでも手を出しやすい入門用のNASだ。従来モデルとの比較や同じ2ベイモデルと比べ、買いかどうかを検討してみよう。

従来モデルからパフォーマンスを向上

 お小遣いで手に入れるにはちょうどいい2万円台の価格でありながら、必要十分なスペックを備え、最新のDSM 6.0が利用できる――。

 そう考えると、今回、新たに登場したDiskStation DS216j(以下、DS216j)はお買い得なモデルと言ってよさそうだ。

 見た目は、従来モデルとなるDS215jとほぼ同じだが、CPUが800MHzのArmada 375から1GHzのArmada 385へと強化されており、搭載されるUSBポートもすべてUSB 3.0対応となっている。

DS216jの正面
側面
背面
表1:旧モデルとの比較
  DS216j DS215j
CPU Marvel Armada 385 88F6820 デュアルコア1.0GHz Marvel Armada 375 88F6720 デュアルコア800MHz
浮動小数
ハードウェア暗号化
ハードウェアトランスコード × ×
メモリ 512MB 512MB
ドライブベイ 2 2
USBポート USB 3.0×2 USB 2.0×1/USB 3.0×1
LAN 1GbE×1 1GbE×1
サイズ(H×W×Dmm) 165×100×225.5 165×100×225.5
消費電力(アクセス時W) 13.42 13.42
実売価格 2万6000円前後 2万3000円前後

 この春のSynology製品の最大のトピックは、あらゆる面で機能が強化された新OS「DSM 6.0」となる(こちらの記事を参照)。上位モデルではBtrfsがサポートされるなど、大がかりなアップデートとなっており、バックアップ機能や同期機能の改善など、かなり使いやすく進化している。

 今回のDS216jも、最大の特徴はDSM 6.0に対応した点と言えるが、この機能はもちろん従来モデルのDS215jでも利用可能になっている。このため、従来モデルとの比較を考えた際、実売ベースで約3000円となる価格差は、純粋にハードウェアの差と考えてかまわない。

 アクセス速度は、下の画面のようにシーケンシャル速度で60〜80MB/sとエントリーモデルとしては十分な性能だが、PCやスマートフォンとのデータ同期、クラウドストレージとのデータ同期、スナップショットを使ったバックアップなどの機能をフル活用するのであれば、やはりCPU性能には余裕がほしい。

 安いDS215jを買うか、最新の216jを買うかで悩んだ場合は、NASをさまざまなアプリを入れて、いろいろな用途に使いたいかどうかが1つのポイントになりそうだ。

 ちなみに、DS215jでは、今年初めに発表されたDTCP-IP/DTCP+対応メディアサーバーアプリ「sMedio DTCP Move」(詳しくはこちら)に対応しているが、このアプリは、本稿執筆時点ではDS216j向けには提供されていない。

 将来的には全モデルに対応させる予定とのことだが、DTCP-IP機能がすぐに必要な場合はあえてDS215jを選ぶのも一つの方法だ。

豊富なラインアップからどう選ぶか?

 今回のDS216jの登場によって、同社の2ベイモデルはすべて新世代の16シリーズへと切り替わったわけだが、ほかのモデルを選ぶ余地はあるだろうか? 各モデルを比較してみよう。

 同社のNASは、大企業向けの「XS/XS+シリーズ」、ワークグループ小規模および中規模企業向けの「Plusシリーズ」(末尾に+)、ホーム/ワークグループ向けの「Valueシリーズ」(末尾無印かplay)、Jシリーズ(末尾j/se)と用途に分けられており、同じ216型番でも以下の6モデルがラインアップする。

表2:2ベイモデルでの比較
  DS216j DS216se DS216play DS216 DS216+
CPU Marvel Armada 385 88F6820 デュアルコア1.0GHz Marvel Armada 370 88F6707 シングルコア800MHz STM STiH412 デュアルコア 1.5GHz Marvel Armada 385 88F6820 デュアルコア1.3GHz Intel Celeron N3050 デュアルコア 1.6GHz(Burst 2.16GHz)
浮動小数
ハードウェア暗号化
ハードウェアトランスコード × × ×
メモリ 512MB 256MB 1GB 512MB 1GB
ドライブベイ 2 2 2 2 2
USBポート USB 3.0×2 USB 2.0×2 USB 2.0×1/USB 3.0×1 USB 2.0×1/USB 3.0×2 USB 2.0×1/USB 3.0×2
LAN 1GbE×1 1GbE×1 1GbE×1 1GbE×1 1GbE×1
サイズ(H×W×Dmm) 165×100×225.5 165×100×225.5 165×100×225.5 165×108×233.2 165×108×233.2
消費電力(アクセス時W) 13.42 13.73 15.08 15.48 17.57
実売価格 2万6000円前後 2万1000円前後 3万6000円前後 4万6000円前後 5万8000円前後

 今回のDS216jは、文字通りjシリーズに分類されるエントリーモデルに位置するが、上記の表の通り、エントリーモデルと言っても、スペック的には上位モデルとさほど差がない内容になっている。

 HDDがフロントからの脱着式となる企業向け、DS216と採用されているCPU型番は同じで、クロックのみが1.0GHzに落とされている。メモリ搭載量も同じだ。フロントアクセス可能なUSBポートがない点、ディスクの交換に本体の分解が必要な点を除けば、4万円以上するモデルと大きな差のない製品が手に入るのは大きな魅力だ。

 個人的には、ハードウェアトランスコードエンジンを搭載しているDS216playに魅力を感じるが、価格的にはプラス1万円の出費が必要になる。最新のDSM 6.0では、動画のオフライントランスコードにも対応するので、動画を扱う機会があるかどうかが、分かれ目になりそうだ。

DS216(無印)との大きな差の1つとなるのがHDDの装着方法。DS216jでは分解して内部に装着するタイプとなる

ライバル製品と比較してみる

 続いて、ライバル製品と比較してみよう。以下は、NetgearとQNAPの2ベイ製品とスペックを比較した表だ。

表3:Netgear製品との比較
  Synology Netgear
型番 DS216j ReadyNAS 202
CPU Marvel Armada 385 88F6820 デュアルコア1.0GHz Cortex A15 デュアルコア 1.4GHz
浮動小数
ハードウェア暗号化
ハードウェアトランスコード × ×
メモリ 512MB 2GB
ドライブベイ 2 2
USBポート USB 3.0×2 USB 3.0×3
eSATA - 1
LAN 1GbE×1 1GbE×2
サイズ(H×W×Dmm) 165×100×225.5 142×101×220
消費電力(アクセス時W) 13.42 -
実売価格 2万6000円前後 4万円前後

 どのモデルと比較するか迷ったものの、NetgearはReadyNAS 202、QNAPはTS-212PとTS-231を選択した。

 まず、Netgearだが、同社の2ベイ製品は現行の202シリーズと、2013年発売の102シリーズがあるのだが、202は4万円前後、102は15000円前後と価格にかなりの開きがある。入門機という分類で考えるなら102もありなのだが、さすがに古いモデルとなるため202を選択した。

 ReadyNAS 202は、今回SynologyがDSM 6.0でようやく採用したBtrfsをいち早く搭載済みであることなど、NASとしての基幹部分の先進性の高さに定評がある。ハードウェア的にもワンランク上で、メモリも2GBも搭載され、LANも2ポート、eSATAまで搭載される。どちらかというと無印のDS216とのライバルになる製品と言える。

 このように単純にスペックで比較すると、さすがに価格帯が違うDS216jは不利な立場となるが、家庭での利用を想定すると、Btrfsや2ポートLANのリンクアグリケーションを使う機会はさほどない。むしろ、DSM 6.0で強化された「CloudStation」によるクライアントとの同期機能、DropboxやOneDrive、GoogleDriveなど対応サービスが豊富クラウドストレージとの同期機能「CloudSync」などのクライアント側のアプリなども含めた使いやすさではSynologyに分がある。

 企業向けという視点で考えればReadyNAS 202が有利だが、さすがに家庭向けとなると過剰な印象となる。

 このため、この価格帯で真っ向から勝負するライバルとなるのは、やはりQNAPの製品だ。ただ、完全なライバルとなるとモデル選びが難しい。HDD交換に分解が必要な点で言えばTS-212Pがライバルとなるが、価格で考えればTS-231あたりがライバルとなる。

表4:QNAP製品との比較
  Synology QNAP QNAP
  DS216j TS-212P TS-231
CPU Marvel Armada 385 88F6820 デュアルコア1.0GHz Marvell 88F6282 シングルコア1.6GHz Freescale デュアルコア 1.2GHz
浮動小数
ハードウェア暗号化 × ×
ハードウェアトランスコード × × ×
メモリ 512MB 512MB 512MB
ドライブベイ 2 2 2
USBポート USB 3.0×2 USB 2.0×1/USB 3.0×2 USB 3.0×3
LAN 1GbE×1 1GbE×1 1GbE×2
サイズ(H×W×Dmm) 165×100×225.5 165.5×85×218.4 150×102×216
消費電力(アクセス時W) 13.42 13 16.01
実売価格 2万6000円前後 1万7000円前後 2万5000円前後

 結論から言うと、何を重視するかで判断が分かれそうだ。ハードウェアを重視するのであれば、TS-231は価格の割にスペックが高い。HDDはフロントからの脱着式なので、ホットスワップでの交換が可能なうえ、LANポートも2ポート備えるため、ユーザー数が多い場合に負荷分散ができる。

 一方、価格を重視するなら、TS-212Pは魅力だ。シングルコアのCPUなどスペックはそれなりだが、実売2万円以下は財布にうれしい。

 では、DS216jは不利なのか? というとそんなことはない。繰り返しになるが、Synology製品の魅力は、そのソフトウェアとなるDSM 6.0だ。今回のDSM 6.0で、ソフトウェア面では、他社にまったく引けを取らない存在となった。

 中でも、クラウドやNASとのデータの同期機能は、同種の機能の中ではかなり使いやすい印象がある。クライアントとの同期ではNASからダウンロードするのみの片方向同期がサポートされたうえ、クラウドストレージとの同期機能も対応するサービスが豊富だ。同期の速度も速く、かなり使い勝手がいい。

本稿執筆時点ではRC版となるDSM 6.0
対応するサービスが多いCloud Sync。同期速度もかなり向上している

 今回のDSM 6.0で、動画を扱うことができるVideo Stationもアップデートされ、操作性の改善やChromecastとの連携機能も強化された。残念ながらDS216jはハードウェアエンコードエンジンが搭載されないためトランスコード機能は実用的ではないが、Apple TV用のアプリも提供され、Apple TV(4th)をフロントエンドとしてテレビでNAS上の動画を再生することもできる。

 Synologyは、Apple TVやWindows Phoneなどにもアプリを提供するなど、プラットフォームとしてほかの機器との連携を重視する傾向にある。こういった点もDS216jを選ぶメリットといえそうだ。

 このほか、個人では利用するケースが少ないかもしれないが、表計算アプリやノートアプリなど、Officeオンライン的に使えるアプリがリリースされていたり、セキュリティ面でもLet's Encryptにネイティブ対応したことでSSLを使った通信が手軽にできるようになった点なども、テクノロジーに敏感なSynologyらしい。

 最近のNASは、どのメーカーの製品も同じような機能を搭載しており、自分が必要とする機能などによって好みが分かれるところではあるのだが、細かい部分の操作性や使いやすさという点ではSynologyの優位性は高いうえ、前述したようにアプリが提供されるプラットフォームも多彩である点は大きな魅力といえそうだ。

let's encryptにも対応。無料のSSL証明書を利用できる

バランスがいいお買い得モデル

 以上、Synologyから登場したDS216jのお買い得度をいろいろな角度から考えてみたが、結論としては、リーズナブルな価格でありながら、必要な性能のスペックを備え、優れたソフトウェアを搭載したバランスのいい製品ということになる。

 エントリーモデルといっても、中身は上位モデルとさほど差がないうえ、ライバル製品と比べても遜色(そんしょく)のない機能を備えている。これからNASを使ってみたいと考えている人向けにお勧めの製品と言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。