
■「思い」から「データ」へ
まずはETIC.リサーチ・ディレクターの石川孔明が「震災復興への支援というものは、『思い』から始まったと思いますが、最近では『データ』にもとづいて行なおう、ということが言われるようになりました」とこのSessionの背景を説明し、現場で課題に取り組む3人を紹介しました。
NPO法人アスヘノキボウ代表理事の小松洋介氏は、2013年4月、宮城県の女川町でまちづくり、産業活性に取り組む同NPOを設立し、創業支援や移住促進、人材育成、学生インターンなどの活動を展開し、その拠点として「女川フューチャーセンターCamass」をつくりました。その過程で、ハリケーン・カトリーナの被害を受けたニューオリンズを視察する機会などもあり、「大事なのはデータだ」と思うようになったといいます。
「地域にヒアリングしたうえで、国や街のデータを加工しました。また、データをまとめ、使っていくプロジェクトをどのように運営していくか、意見交換していきました」と小松氏は振り返ります。そうして同NPOが「住民の方や事業者の方に使っていただくために」まとめたのが『女川の未来を考えるデータブック』という冊子です。この冊子は「人から、考えてみる」、「お金から、考えてみる」、「仕事から、考えてみる」、「暮らしから、考えてみる」という4つのパートから構成されており、女川町の「ヒト・カネ・モノ・情報」についての数値データがわかりやすくまとめられています。
「たとえば『人が地域で金を使わないというのは本当か?』とか、『仕事があれば、人が来てくれるのか?』とか、みなさんが気にしていることがわかるようにデータをまとめていきました」と小松氏は説明します。この冊子を使った勉強会「フューチャーセッション」も、フューチャーセンターで開催されているとのこと。

この大規模なアンケートでは、東日本大震災では阪神・淡路大震災と比べて仮設住宅の入居者数の減少がずっと遅いこと、年収200万円未満の世帯は震災前には22%だったが震災後には38%に増えたこと、持病が悪化した人が35%、新たな病気にかかった人が40%、抑うつ状態にある人が55%いること、などが明らかになりました。
辻内氏はこうしたデータを分析した結論として、「社会経済の復興が心の復興をもたらし、それが人間の復興をもたらすのだと思います」と述べました。


■集めたデータをどう活用していくか?

小松氏は「たとえば『人口を2040年までにどう増やすか? 20代や30代の人を増やすことと40代、50代の人を増やすこととでは、将来の人口動態への影響が異なるのではないか?」といった課題について、勉強会なども開きながら、データをもとに取り組んでいこうと議論しています」と女川町での様子を写真もまじえて伝えました。
辻内氏はNPOの取り組み2例を聞いて「頭が下がる思い」だと言い、「1万人の声を集めておきながら、学術だけで使っていてはほんとにもったいないです。『こんな風に使ってみたらどうか?』というお知恵をいただきたいと思っています」と呼びかけました。
押田氏は、情報発信ポータルサイト「相馬本家」を立ち上げたほか、データブックやウェブサイト、アプリなどで情報活用を進めていく、と言います。しかし「より使ってもらうために、足りないのはお金とリソースです」と現状の課題も述べました。
そのほか、「NPOとしてどのセクターとの連携が難しかったですか?」という質問に、ある登壇者が「行政でした。思想(根本的な考え方)や言語(使われる言葉)が違うからです」と答えるというやりとりなどもあり、これまでの成果とこれからの課題が見えてきました。
ある参加者はアンケートで「自分の会社の中でもデータがないとなかなか進まないことが多いので、もっと活用できるようにしたい」と感想を述べました。また、「日本人はデータの活用による『問題・課題の見える化』が不得意です。このような出来事によって、それが変革をとげることができることを実感しました」という参加者もいました。「見える化」は今後も広がり、活用が進むことを予感させるSessionでした。
Session 1「東北は地方創生のラボラトリーになりえるか」