審査さえパスすれば、約束をほごにしてもいい−。そんなのありか。原発に免震施設があるかないかは、住民の命に関わる重大事。このまま見過ごしてしまっては、規制委への信頼も保てまい。
川内原発は、事故発生時の対策拠点となる免震施設の新設を安全対策のメニューに盛り込んで、再稼働の審査に“合格”した。
しかも、3・11後の新規制基準下での再稼働第一号として、約二年の原発ゼロ状態に終止符を打ち、後続の“お手本”にもされていた。
商売で言えば契約違反、選挙で言うなら公約違反、入試ならカンニングにも相当するような、地域を代表する大企業らしからぬ振る舞いとは言えないか。
免震施設建設の実績がないという理由は、いかにも説得力に欠けている。従来のレベルを超える対策こそが、今必要とされている。
規制委はなぜ、“合格”を取り消すことができないか、非常に素朴な疑問である。
一般に耐震では建物自体を強化する。しかし、地震の揺れを抑えるのは難しい。
免震は地面と建物を切り離し、建物に揺れを伝わりにくくする。従って、建物内での作業性が保たれる。だからこそ、3・11当時の東京電力社長が国会事故調で「あれがなかったらと思うとぞっとする」と、ふり返っているのである。免震施設は、コストがかさむ。もし対策費を考えての変更だとするならば、3・11の教訓を踏みにじり、安全神話を復活に導くことにならないか。
九州電力の瓜生道明社長は林幹雄経済産業相に「地域への説明不足があった」と詫(わ)びた。
地域への説明やコミュニケーション不足以前に、安全への配慮が足りなくないか。
3・11を教訓に生まれたはずの規制基準は、「緊急時対策所」の免震化を求めてはいない。設置にも猶予期間を設け、未整備のままの再稼働を認めている。
巨大地震は明日来るかも分からない。規制基準や規制委に対する信頼性も問われている。
再稼働の審査を申請中の原発の約半数が、川内のように免震の撤回や再検討を始めているという。
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