「慰安婦」停滞、韓国選挙の影 日韓合意から3ヵ月
【ソウル曽山茂志】日韓両政府が昨年末に従軍慰安婦問題の「最終解決」で合意して28日で3カ月がたつが、元慰安婦を支援する財団設立や、慰安婦を象徴するソウルの「少女像」の撤去に向けた具体的な道筋が見えない。韓国政府は4月の総選挙を控え、合意に反発する野党や世論を刺激しないよう、表立った動きを控えている。新たな少女像を建設する動きも続いており、抜本的な解決には、なお時間を要しそうだ。
ソウルの日本大使館前に立つ少女像の周りでは、23日も水曜日定例の抗議集会が開かれた。学生ら200人以上を前に、元慰安婦支援団体「韓国挺身隊(ていしんたい)問題対策協議会(挺対協)」の代表が「政府はおばあさんたちの声を無視して、問題を解決しようとしている」と訴えると、参加者が「そうだ」と大きな声で応えた。
大学の教授から慰安婦問題について教えられて関心を持ったという大学生の女性(22)は「合意を白紙にして、もう一度国民が力を合わせて、日本政府に公式謝罪と法的賠償を求めるべきだ」。集会に約700人が集まった昨年末ほどの熱気はないが、慰安婦を描いた映画(2月公開)が大ヒットするなど、国民の関心は依然高い。
■対決ムードも失速
韓国で慰安婦問題に関する動きが見えないのは、4月13日の総選挙を控え「(合意に対する不信感がある)世論の注目が集まらないように韓国政府が慎重にコントロールしている」(日韓外交筋)ことが大きい。
対日強硬派として知られる尹炳世(ユンビョンセ)外相は、3月2日の国連人権理事会で問題に触れなかった。22日に東京であった日韓外務省局長協議でも、合意内容をできるだけ早期に履行するため連携する方針で一致したものの、財団の設立時期など踏み込んだ発表はなかった。
最大野党「共に民主党」の失速も大きい。当初は「白紙撤回」を求めたが、選挙で保守層を取り込むために事実上のトップとして迎えた保守系重鎮が「政府間の合意だ」と支持する考えを示したため、対決ムードがしぼんだ。
■日本の世論を警戒
水面下での調整は進んでいるようだ。韓国大統領府に近い関係者は、財団について「着実に準備は進んでいる」として、理事長の人選も固まりつつあることを示唆した。総選挙後に財団を設立すれば、日本政府から10億円を受け入れて元慰安婦の支援策が動きだす。
韓国政府が最も懸念しているのは、日本からの“逆風”だ。「日本政府が10億円を支払えば、『少女像はいつ撤去するのか』という世論が高まるのではないか」(韓国外務省関係者)
年末の合意で態度を硬化した挺対協との協議は「まったくできていない」(韓国紙)。韓国では今年、釜山市など4カ所で新たな少女像が設置された。民意のコントロールの難しさを知る韓国外務省の担当者はこう日本をけん制する。「財団と少女像の問題は別。日本が、少女像の問題を焦らずに静かに待てるかどうかが解決の鍵になる」
=2016/03/27付 西日本新聞朝刊=