マクドナルドに大行列ができていた。
ベトナムのホーチミン1号店でのことだった。
なんだかなー、などと言いながら、わたしは日本人駐在員の運転するバイクにニケツしながらホーチミンな街を疾走していたのだが、同時に、 数年前、新宿のクリスピークリームドーナツを思い出した。
そのクリスピードーナツの行列を見た留学生は「あんなのに並んでどうするんだろう」と不思議そうな顔をしていた。
確かに、クリスピークリームはメルボルンかどこかに行った際に立ち寄ったけれども中はガラガラで、食べてみたけれど、「ミスドより容赦なく甘いなぁ」なんて当時思ったものだった。
さて、ブルーボトルコーヒー。
珈琲はよく飲むので楽しみにして行った次第。
大行列と聞いていましたが、5分くらいで注文ができた。
優しそうなお姉さんがゆっくりゆっくりお湯を回し入れてドリップしてくれた。嬉しい。
客層はカップルや女の子同士が多い。 一人で来ている男は私と、あまりいけてない感じの私の前にいる小太り・黒ジャンパー・天パ男の二人だけ。 彼と私はこのブルーボトルというリア充の小宇宙(コスモ)に取り残された絶滅寸前の非リア人なのですね。
きみとぼくとは、仲間やん。お互い頑張ろなっ。なんてわたしが彼の背中に密かに親近感を覚えるやいなや早くも彼が注文する番となった。背中から同士の緊張が伝わってくる。
ーーーがんばれっ! 頑張るんやで!
わたしがそう密かに願うやいなや前を行く小太りの彼は、
「お待たせいたしました!ご注文はなにになさいますか?」
とボブショートなお姉さんに先生のジャブを入れられ動揺している。
ーーー落ち着け! 落ち着くんだ!
「えっと、あっ、この、エスプレッソ」
なんでやーーーーーーーー!!!
やってもうとるやないかーーーーーーーーー!!!
彼はメニューの一番上にあった「エスプレッソ」を頼んでいた。
ダメだよー!
店内混んでて座る場所もうないからお持ち帰り確定なのにあんな濃くてちっさいの持って帰ってどうするのー!!
朝イチとか、飲んだ後に席に座ってちびっとやるのならわかるけどあんなもん持って帰って家について冷めてたりなんかしたらもう地獄やーーん!
するとお姉さま、
「エスプレッソはこのカップに、、」
などと言いながらエスプレッソの容器を取り出しなにやら説明をしている。
エスプレッソって濃くてめっちゃ量の少ないあれじゃないですか。
あんなちっちゃい容器でそんなもん持って帰っても厳しいですって~~。
ドリップにしときって~~!
「あ、はい、それで」
ーーーオーマイ。
友よ、さらばだ。
わたしの番だった。
「お待たせいたしました。ご注文は?」
友よ、お前の二の舞は踏むまい!
貴君の屍を超えていかむ!
「その、なにか、初めてなんですが、オススメありますか?」
「エスプレッソとドリップがありますが」
ここでわたくし間髪入れず、
「ドリップ!」
ーーーなめるなリア充どもよ!
「ブレンドと、シングルオリジンがありますが?」
ーーーしっ、しんぐる! おりじん!?
ふむ。
考えろ。
考えるんだわたし。
シングル、つまり、ブレンドせずに、単独の種類からなるコーヒー。
さぞかしエッヂの効いた味わいになのかしらん!!
これだっ!!
でも念のため聞いてみよう!!
「シングルオリジンっていうのは?」
「豆本来の旨みを引き出した、少し酸味の効いたコーヒーになります」
「ではブレンドは?」
「数種類の豆をブレンドし、バランスの良い飲み口になっています」
「ブレンドください」
わたしブルマンみたいな酸味の効いたの嫌いやねん。
あかんねん。
「ブレンドですね」
「ええ」
先輩。
ありがとう。
あなたの犠牲は忘れない。
「お名前は?」
「は?」
「お呼びするときのお名前です」
「ほう」
「お名前はなんと」
「どんぐりです」
「ん?」
「どんぐりです」
「はい。では、そちらのお名前でお呼びいたしますね」
ハンドルネームですけどね。
てか、呼ばれるんですね。
恥ずかしいですね。
ご存じ『ブルーボトルコーヒー』。
ベトナムのマックよろしく、一昔前はずいぶんごった返して混んでいて、2時間待ちだったなんて信じられない。
それが、平日の夕方5時ごろという少し変った時間帯とはいえ、今や待ち時間は10分以内。
ありがたい。
コーヒーは毎日飲みます。
通勤時の最短ルートにはファミマがあります。少し遠回りするとローソンがある。朝が弱い私はファミマばかりではありますが、例えば外出の際などにはどんなに遠くともセブンに立ち寄る。
そしていま、清澄白河くんだりまできてこうしてブルーボトルコーヒーを待っている。有意義である。 コーヒーの質と時間はともすれば比例し、こと今回は清澄白河くんだりまで来ているのだ、それはそれは有意義に違いない。
「どんぐりさま。コーヒーができました!」
店内に私のハンドルネームが響き渡る。
恥ずかしい。
ドリップを受け取った瞬間、こいつかよ、『どんぐり』なんざふざけてやがるのは、なんてリア充からの視線が突き刺さるのは必至、なんておもいきや、
「……は、はい」
店内はシラッとしたものだった。
カップルたちは、一人で来ているわたしなんかがハンドルネーム呼ばれようとどうでもいいのだ。世界は二人の間で完結している。わたしなど、どうでもいいのだ。独り身の男などどうでもいいのだ。相手にもされないのだ。美人な店員のお姉さんもきっと彼氏がいるのだ。いいんだ。べつに。気にしてないから。いいんだいいんだ。
お、 受け取るやいなや幸いなことに席が空いた。
陣取るや、一口いただく。
、、、、、 ふむ。
適度な酸味。
コクと、深み?
美味しい。
決して安物ではない良いコーヒーの味だ。
その場でじっくり時間をかけてドリップしているだけのことはある。
が、、、これを清澄白河まできて飲むべきか。
450円としては美味しい。
テイクアウトとしてはかなり美味しい。
コレをすぐ飲めるのなら、コスパとしては悪くない。
ただここは清澄白河である。
店内の席数はあくまでも少ない。
それが証拠に、我が同胞はちっちゃなエスプレッソを手に、寒空の中とぼとぼ外を歩いてチビチビとエスプレッソをやっている始末。(まあ、これに関しては非リアの自爆でもあるので当然店のせいではないのだが)
入り口付近からは「早く席あかないかなあ」という視線が突き刺さる。 本当はわたしここでウエルベックの『プラットフォーム』を読んでやろうと思っていた。
リア充たちが「あたしフランスってホント好きなのよね。パリって本当に雰囲気がステキなのウフフ」なんて言いがちなフランスの、現代を代表する作家の代表作だ。だからそれを読んだところで称賛こそあれ、何の文句言われる筋合いがあろうか。その内容が例え、タイで売春旅行する話であろうとなんら問題はない。彼らの真ん中でそんな卑猥かつフランスで一番有名な作家の本を読んでやるのだなーんて思っていたらそんな雰囲気は毛頭なかったさっさと飲んですぐ帰らなきゃ。
割に合わない。
コレをちびちびやりながらゆったり本か何か読めたならその値打ちはあると思う。でもこんなスピードでお店を出なきゃならない用では割に合わない。この忙しなさと清澄白河という立地では、例えレジまでの待ち時間がものの10分であったとて、割に合わない。
飲みきれないうちにお店を出ました。外は日が暮れていました。寒い。
上記の内容はあくまでも個人的感想ですが、トータルで見て対抗馬としてあがってくるのはやはりセブンの100円コーヒーである。どこでも買え、早く、そしてそこそこ香り高く、味も日本人好みで酸味はあまりない。
想像するに、ブルーボトルコーヒーの本場・オークランドではここまで混んおらず、且つオフィスに近く、日本のハンバーガー界でいうところのちょっと贅沢・モスバーガー的なポジショニングなのではないかと思う。
風が吹いてきた。
寒い。
飲みながら駅まで歩いていたが、冷めるにつれて少しずつ味が変わるらしいという評判も聞いていただのだが寒くてよくわからない。それに、セブンだろうとサンクスだろうと、コーヒーならば冷めりゃ味は変わる。
ただ確かに、多少冷めてもまだまだ美味い気はした。なんとなくだが。
ここ清澄白河は深川に近く、下町だ。鰻屋が多い。そして、もんじゃ屋も散見される。
かくして、ブルーボトルコーヒーとアサヒスーパードライともんじゃの共演と相成った。
もんじゃ美味い。
ビールもうまい。
お腹が膨らんだところで総括をしてみようと思う。
もしこれが、会社の近くで、注文したらサッと5分とちょっとで出来上がるならば素晴らしいと思う。ブルーボトル珈琲は現在二店舗あって、思うに正解はもう一店舗の青山店の方なんだと思う。
おしゃれ気取ってる青山のOLがランチどきに、サラッとブルーボトルコーヒーを「たまにはいいわねっ♬」なんて、引っ掻けるようにして買って返ったそれをオフィスでそれとなく飲みながら、午後の仕事をネイルでキラキラした指先でパチパチと片付け、ふとした拍子にそれを飲んだらそれを見た後輩が 「あ、センパイセンパイ! それブルーボトルコーヒーじゃないですかぁ! オシャレ!」 「ふふ。なーに言ってんの。青山じゃ、全然普通よ?」 なーんて気どるためのアイテムとして使われるのが彼のあるべき立ち位置だろうと思う。
ブルーボトルコーヒーの1店舗目が、ここ清澄白河ではあるが、ここはコーヒー豆のロースト工場も兼ねているらしい。清澄白河はあくまでもジモティと聖地巡礼用の場所でしかない。デートスポットにしてしまってはバカを見る。
結局、安舌のあたしにゃもんじゃがよく似合う。 ヘビとかグソクムシとか食ってますよへいへい。なんか最後愚痴っぽくなったところでおしまい!
無念!