2016-03-23 上げたのは4日後
■[ネット][報道]木村幹氏は吉方べき氏より先に自分の記憶力を疑うべき
先日の木村幹氏が吉方べき氏に剽窃されたと主張している件についてメモ - 法華狼の日記を紹介するツイートに、木村氏が反応していたのだが……
このツイートに、tomopop21氏が同意するようなツイートをしていた。
しかし木村氏のいう「注釈」とは何のことだろう。
(慰安婦問題を考える)挺身隊との混同、韓国では 韓国在住の言語心理学者・吉方べき氏に聞く:朝日新聞デジタル
論文でいう注釈にあたりそうな末尾はインタビューや解説部分に出てくる資料をならべているだけで、たしかに先行研究があるという説明はしていない。しかし「引用した新聞記事・書籍リスト」と書かれている。まさに紙幅の都合があるから論文のような体裁はとれなかったと考えるべきところだろう。しかもリストには挺身隊と慰安婦の混同にまつわる高崎宗司氏の論文も入っている。注釈を考慮するならば、「そういうのを全部無視」しているわけではない。
@kankimura: そもそもこの分野には金英達さんや、高崎宗治さんの自分よりちゃんとした先行研究もあるんだよ。千田夏光の「20万人」説も彼らが既にちゃんと検証してる。そういうのを全部無視して、すべて自分が見つけたかのように言うのはダメなんだって。新聞記者の勉強不足につけ込むのは更にたちが悪い。
新聞でいう注釈にあたりそうなインタビュー後の解説部分は、吉方氏ではなく新聞社側が書いた可能性が高いだろう。その解説部分で研究者として外村大氏や藤永壮氏のコメントをとっているのだから。そして挺身隊の人数を推計している研究者として高崎宗司氏の名前も出てくる。
つまりインタビューで言及されていなくても、解説部分まで読めば、先行研究が存在することはうかがえる。紙幅に限りがある時、情報の重複をさける意図で、このような構成になっても不思議ではない。充分かどうかは意見がわかれるにせよ、記者は先行研究を押さえているのに、下記ツイートのように木村氏が評価したのはなぜだろう。
@kankimura: まあこの取材した朝日の記者さんも勉強不足甚だしいよね。多分、この分野には既に多くの先行研究があって、アカデミックには事実が確立している、という事すら知らなかったのだろう。慰安婦問題が同社で火を噴いてから既に1年以上、いったい何をやってきたんだろうね。
そして先日の私のエントリで指摘したように、吉方インタビューは朝日検証の「慰安婦問題を考える」の一環だ。
「こんな形態の新聞記事は見たことがない」とtomopop21氏は評していたが、実際は2015年7月に同じ構成で永井和インタビューが公開されていた。聞き手も同じ北野隆一編集委員だ。
(慰安婦問題を考える)「慰安所は軍の施設」公文書で実証 研究の現状、永井和・京大院教授に聞く:朝日新聞デジタル
最初に研究を始めた経緯を永井氏に質問して、何が明らかになったのかを聞きとっている。あくまでインタビューでは現在までの研究の進展を説明させ、永井氏の研究がどのように先行研究と異なるのかを論じてはいない。具体的な先行研究と比較しているのは、やはり解説部分でのことだ。
そしてこの永井インタビューについては、当時に木村氏も高評価していた。新たな学術的成果の提示としてではなく、「わかりやすい整理」として。
つまり、この特集のインタビューは、新説だけを報じるものではない。識者の見解によって、現在までの歴史研究の進展をまとめる意味もある。永井インタビューの原型となった論文は前世紀に発表され、インターネットでも広く知られている。
永井インタビューを木村氏がおぼえていれば、表現に慎重さが欠けているとか、明らかにした主体が不明瞭という批判は成立しても、先行研究にふれていないこと自体を批判する必要はなかった。木村氏が個人的に吉方氏を疑っている背景は考慮するとしても、やはり今回は勇み足だろう。
たとえば浅羽祐樹氏のように、自著でさえ先行研究にふれないどころか出典をまともに提示しない研究者もいる*1。仮に、一般向けならば可読性を優先して注釈を排するという考えが許されるならば、吉方インタビューに対してもその考えを適用するべきだろう。
また、木村氏が続けてツイートしている内容は、ちょっと話にならない。
@kankimura: なお一人歩きするとよくないので書いておくと、自分は「剽窃した」とは言っていない。「(不勉強等の理由で)先行研究を読みもしていない」可能性も当然ある。そしてどちらにせよ、提示されている内容は被インタビュー者により新しく発見されたものではない、と言っている。お間違いなきように。
@kankimura: さらに言えばいずれにせよ、先行研究を粗雑に扱っていることは事実なので、その問題点を指摘しているわけです。
@kankimura: さらにおまけ。少なくとも該当者のツイートを読んでいる限りでは、先行研究として自分の研究を尊重しているとは到底思えない。該当者は自らの主張は自分の論文とは異なるものだと主張している。つまり「紙幅の関係で先行研究を落とした」訳ではない、と推定するのが合理的だと考える。
@kankimura: ということで今日の一言。「雉も鳴かずば撃たれまい」。
@kankimura: まあ本当に「新聞社の紙幅の都合」かどうかは、新聞社自身に聞けばすぐにわかるので、確認する予定。幸い、お会いする機会もすぐにありそうだし。
すでにインタビューの原型にあたる論文で先行研究にふれていることが明らかにされているのだから、「先行研究を読みもしていない」可能性は排されている。ふたつの選択肢しか木村氏が提示していなかった以上、剽窃と主張していると読むべきだろう。
*1:浅羽祐樹『韓国化する日本、日本化する韓国』巻末の読書案内を読んで、池上彰氏と同じくらいの信頼性と感じた件 - 法華狼の日記は一例にすぎず、そもそも全般的に出典が不明瞭な著作だった。