スポーツ総合誌『Number』1/7号(892号)から 柳澤健氏の連載『1984年のUWF』が始まっております。年始1号からの新連載。キャプションが
現在のプロレスや格闘技まで多大な影響を及ぼしているUWF。その光と影を描き出す、巨弾連載開始!
ですからね。期待のほどが伺えようというもの。「巨弾」なんて変換で出てこないですからね。関係ないか。
Number(ナンバー)892号 FIGURE SKATING CLIMAX 2015-16 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/12/17
- メディア: 雑誌
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第1回は「総合格闘技界 伝説の男」中井祐樹氏の北海道での中学生時代から(すいません、私このかた知りませんのでクールな書き方になります)割と大人しく始まりますが、さすがにプロレス好きにはキタキターッという片鱗を覗かせます。
8月13日、新生UWFは横浜アリーナで「メガネスーパースペシャル・MIDSUMMER CREATION」を開催した。
大会のライブ映像は通信衛星を使って日本各地に送られた。いわゆるクローズドサーキットである。(中略)
私も、この時は大学生でしたが同じように大阪まで観に行きましたからね。会場の熱気が尋常ではなくて、試合が中継されている最中に取材陣が後ろからカメラで撮ると、
「フラッシュたくな!」
「試合が見れんじゃろうがボケ!」
といった罵声が一斉に飛ぶ。どうしろと言うんだ!的なカメラマンの困り顔を覚えています。
皆、スクリーンに映される選手の一挙手一投足まで見逃すまいと必死でした。後世「UWF信者」と言われるに至った熱狂ぶりが、既に全国的なムーブメントとして湧き上がり始めていた訳です。そんな熱い時代が、つい最近までプロレスにはあったんですよ。
セミファイナルのカードは高田延彦(伸彦から改名)対新星・船木優治だった。
試合早々、船木は掌底を次々に繰り出して高田をリングに這わせた。レフェリーの空中正三はダウンを宣言、リングアナウンサーがダウンカウントを数え始める。
ついに10カウントがコールされた時、高田はコーナーポストに寄りかかったままだった。
当然、船木に勝利が宣言されるはずだったが、意外にもレフェリーの空中は試合を続行させた。観客は騒然となった。
いやー懐かしい。大阪のサーキット会場もホントに騒然となりました。最初は皆、ポカンとしていたんですよ。「あれ?なんで試合続行なん?」といった感じですかね。
やがてこの判定はおかしいと皆が気づき始める訳です。
「何やってんだクウチュウ!」
レフェリー:空中正三=そらなか まさみ、なんですけど、何しろ大阪なのでこういった局面でもボケを忘れないんですね。以上解説。
「船木のKOちゃうんか!」
「10カウント入ったやろ!」
もはや怒号が飛び交う中、それでもスクリーンではセミファイナルが続きます。当時は純粋にUWF=真剣勝負と誰もが信じていたので(私もです)、空中の独断だと判断しますよね。今考えればレフェリーにこんな大試合の結末を決める権限などなく、アクシデントにうまく対応できなかったのだと分かりますが。
掌底をバチバチに高田に叩き込んだ船木も拳を突き上げてガッツポーズ、勝ち名乗りを挙げたものですから、会場は一旦ドッと沸いたんです。当時の船木は親日を捨てて新生UWFに参戦してきた気概のある男として、ファンからは非常に好意的に見られていましたから。
意識が回復した高田はフラフラしながらも船木をキックや張り手で攻撃する。試合はダウンの応酬となり、結局、12分0秒に高田が逆転勝利を収めた。
まあ、当時のUWF内の格付けでいうと、こうなるしかない訳ですよ。前田、藤原、高田、山崎といった旗揚げ時のメンバーがビッグ4で、船木は当面はそこに挑む構図にしておきたい。
団体としては当然の絵ですが、ファンからすれば旧弊である「格付け」「アングル」と縁を切ったのがUWFだと信じていましたから。
フィニッシュホールドはキャメルクラッチ=ラクダ固め。うつ伏せになった相手に馬乗りになり、アゴを両手で持ち上げて相手の上半身を反らせ、背中や腰にダメージを与える技だ。
中井祐樹は、高田のキャメルクラッチを見て衝撃を受けた。
柔道では、下になった者は亀の状態で必死に守る。首を空ければたちまち締められてしまうからだ。真剣勝負の試合がキャメルクラッチで決着がつくなど絶対にありえない。
そうだったのか。
UWFもまた、真剣勝負の格闘技ではなかったのか。
フィニッシュがキャメル・クラッチというのは、確かに当時の純真なUWFファンも意外な感を受けました。上のような格闘技経験者的な観点からではなく、
「キャメル・クラッチ?」
「あれは本当に効く技だったのか?」
みたいな。新生UWFにはとにかく似つかわしくない技だった訳ですよ。非常に旧来のプロレス的な技じゃないですか。レスラーの柔軟性と背筋力がありながら、キャメルクラッチは耐えられない技なのか?という疑問を素人でも持ちますからね。
この技を選んだ高田が単にセンスがなかったのか、それとも敢えてプロレス的な技を繰り出すことで、船木に「これはプロレスなんだ」ということを伝えようとしたのか。後者はどうも深読みのような気もしますが、真実はおそらく永遠に闇の中でしょう。
といった風に、プロレスに興味のないかたには全くどうでもいい連載(褒めてます)が今後続いていくこと、それをワクワクしながら待っている私のような読者がいること。
まことに昭和プロレスの奥(闇?)は深いのであります。当然続く。
以上 ふにやんま