山下知子
2016年3月27日17時14分
誰にもみとられずに亡くなる「孤立死」をした人などの持ち物を整理する「遺品整理」や、現場を原状回復する「特殊清掃」。近年、多くの業者が参入しているが、トラブルも少なくない。業界では昨年、業者18社で新団体をスタート。業界の健全化と質の向上をめざす取り組みも始まった。
福岡県大野城市の2階建てアパート。小雨が降る昨年11月末、2階の2DKの部屋で、3人の作業員が遺品を仕分けていた。
この部屋を借りていた70代の男性は病気のため、1カ月ほど前に病院で亡くなった。その2、3年前に妻が亡くなり、一人暮らしだった。親類もおらず、残された部屋の整理が問題に。関係機関が協議し、最終的に男性の知人が業者に依頼。費用は、男性が残していたお金をかき集めてあてた。
一軒家から引っ越してきたのか、家具が多い。台所に貼られたカレンダーには、病院の診察時間や亡き妻の月命日などが整った字で記されている。「きちょうめんだったんだな」「愛妻家だな」。作業員は、想像される人柄を話しながら手を動かしていた。その人を語り、記憶に刻むことが供養と考えるという。
タンスの引き出しも一つひとつ丁寧に見る。写真があれば分けておき、後日、供養に出す。この日は、仏壇の引き出しなどから複数の遺書も見つかった。戦争孤児であったことをうかがわせる書類も出てきた。作業を請け負った「友心」の岩橋ひろし社長(40)は「一人の人間が生活した場所。メッセージは必ずある。遺族の代わりに立ち会う気持ちでやっている」と言う。
徹底するのが、リユースとリサイクルだ。家具はもちろん、金属類や食器などは分別してリサイクルに出す。今回、一般ゴミとして出したのは、冷蔵庫の中の卵など45リットルのゴミ袋10袋程度。こうして得た収入の一部は費用から差し引く。男性の部屋の場合、見積もりは20万~30万円だったが、15万円以内におさまった。
岩橋さんが会社を設立したのは2012年4月。これまで様々な現場を見た。
別のある男性が自殺した福岡市内のアパートの部屋は、ワインの瓶や書きかけの履歴書が散乱し「ゴミ屋敷」と化していたが、母子手帳と卒業アルバムだけは部屋の一角にきれいに保管されていた。作業を依頼したのは、男性の弟。そのことを伝えると、関係が希薄だった兄へのわだかまりが少し薄れたようだったという。「仕事への向き合い方で関係の紡ぎ直しもできる。遺品整理は物が相手の仕事ではないんです」。岩橋さんは話す。
■「金目の物、全て持って行かれた」
ニッセイ基礎研究所(東京)によると、死後2日以上たって見つかる孤立死者は推計で年約3万人。未婚化や単身世帯の増加が背景にあり、こうした状況から遺品整理を掲げる業者が増え、トラブルも増加中だ。
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朝日新聞社会部
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