“月9”史上最低視聴率「いつ恋」にみる、フジテレビのたくらみとは?
視聴率の低迷するフジテレビが、長いトンネルを抜け出せずに苦しんでいる。トレンディードラマの代名詞としてヒット作を連発してきた“月9”ドラマでさえ、先日最終回を迎えた1月期の「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の全10話の平均視聴率が9・7%(ビデオビデオリサーチ調べ、関東地区)と、月9ドラマのワースト記録を更新。かつての勢いはどこへ行ってしまったのか―。毎月末の金曜に行われる亀山千広社長(59)の定例会見をウォッチしていると、苦しむ中でも守りに入らず、新たな“ヒットの方程式”を模索する同社の姿が見えてくる。
「いつ恋」は、地方から出てきた6人の男女が、悩みや困難を抱えながら恋をする5年間を描いた群像ラブストーリー。有村架純(23)、高良健吾(28)といった旬の俳優に加え、脚本は「東京ラブストーリー」も手がけた坂元裕二氏(48)を起用。売れる条件はそろっていたが、働けども豊かにならない現代社会の現状や、題名の通りハッピーエンドで終わらないストーリーなど、“月9”らしい華やかさが無いのが影響したか、数字は伸びなかった。一方で、ネット上では、等身大の若者の恋愛ストーリーに共感する声が相次いでいた。
亀山社長は1月の会見で、「我々の世代でも非常に見応えがあり、素晴らしく良くできている。スタッフには、数字に一喜一憂することなく、貫けと言っている」と高評価。放送後1週間無料視聴できる同社の動画サイト「プラスセブン」の再生数の7割を同ドラマが占めており、手応えは感じていると話した。しかし先述の結果に。今月25日の会見では、「タイムシフト(録画視聴)などで見られている感はあったが、世帯視聴率に跳ね返らなかったのは魅力の限界があったのかも」と“負け惜しみ”。多くの人の目に触れても、民放の収入の指標である世帯視聴率が伸びない限りは、失敗と言わざるを得ない。
同社の亀山社長と大多亮常務取締役(57)は、「ロングバケーション」「踊る大捜査線」「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」といった、フジテレビ黄金期を支えてきた、いわばヒットの方程式を知る経営者。14年に2期目が放送された木村拓哉(43)主演の月9「HERO」は平均21%を記録しており、かつての資産を利用したコンテンツを上手に運用すれば、今でも数字を伸ばせることを実証した。しかし、あえて月9の主戦場で模索を続ける同社の姿に、先を見据えた恐ろしさが見える。
同じく14年の「信長協奏曲」では、月9史上初の時代劇に挑戦。ドラマ自体は平均12・5%止まりだったが、今年1月に公開した映画版はヒット。久しぶりに実写の邦画で45億円超えが確実となるなど、新たな可能性を開拓した。そんな流れもあっての「いつ恋」。今回は、これまでの若い“月9”視聴層より上の年齢層をターゲットにしていたと明かす。
亀山社長は、「自分が若い頃は、仕事や人生、恋の悩みは本や映画、ドラマに癒やされ、自分を再発見した。今は、悩んでいる見ず知らずの人同士がSNSで直接会話し共有する時代。ドラマのあり方が変わった」と、環境の急激な変化を認める。そして「難しい時代だからこそ、ウチだけでなく各局が競いながら、悩みながら視聴者と結びついていかなければならない。ドラマが無くなる日があってはならないので」と、いつまでも同じやり方は通用しないとほのめかす。
池井戸作品や、「相棒」シリーズなど、各局“ヒットの方程式”を発見して視聴率を競い合うドラマ業界。4月期の福山雅治(47)主演の月9「ラヴソング」は福山ブランドの力で数字は伸びることだろう。しかし、「何をやっても当たらない」今のフジテレビが、先を急がずもがき続けるほど、トンネルを抜けた後の勢いは強いに違いない。
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