在日同胞が今も朝鮮学校から完全に離れられない最大の理由は、言語教育にある。民団系の学校は日本に4校しかなく、同胞が強く望む韓国語教育の量もレベルも朝鮮学校に及ばない。ある在日同胞(71)は「朝鮮総連が嫌で娘たちを民団系の学校に入れたが、韓国語ができない。総連は嫌いだが朝鮮学校はなくなってはいけないと思った」と語る。
だが問題は、朝鮮学校で教えられる「北朝鮮教育」だ。ある朝鮮高級学校を今年卒業した生徒が使っていた「現代朝鮮歴史」の教科書では、1980年代の韓国について軍事独裁、学生運動家の朴鍾哲(パク・チョンチョル)さん拷問致死事件、6月民主抗争だけを大きく取り上げ、その後に韓国が自由民主主義の国になったことには言及していない。また、韓国が成し遂げた経済急成長は「ドル安、原油安、金利安の3安現象で一時景気が回復した」と低く評価した。
一方、金日成主席の死亡には全145ページのうち4ページを割き「国中が血の涙につかった」「国連事務総長が『歴史に永遠に残る偉人』という声明を出した」「敬愛する将軍様(金正日総書記)が人民たちの心情をくんで哀悼期間を延長した」などと教えている。
朝鮮総連関係者の家庭に生まれ、朝鮮学校を卒業した30代の男性は「ずっとこんな風に習ってきたので、子どものころはサンタクロースに会いたがるように金日成に会いたいと思っていた」と語る。幻想が崩れ去ったのは高3のときだった。総連系の朝鮮大学校ではなく日本の大学に進学したいと伝えると、教師に「おまえは反逆者だ」などと罵倒されたという。「たかが大学で『反逆者』呼ばわりされて耐え難かった」と振り返る。男性は結局、日本の大学に進学して専門職に就き、韓国籍を昨年取得した。