今日はかねての予告通りchayさんの新曲「好きで好きで好きすぎて」を取り上げます。
これ、ある程度音楽に詳しい人(かある程度以上の年齢の方)なら誰でも尾崎紀世彦さんの
「また逢う日まで」を連想すると思います。非常にあからさまなオマージュですもんね。
ところがこの曲がパクリかというと、全然違うわけなんですよ。法的にグレーな部分も
全くなし。真っ白ですよ! 誰が聴いても「また逢う日まで」を連想するのに、法的に
パクっている部分がない。まさしく法廷遵守ソングとして手本と言える曲なんですよ。
ということをこれから細かく検証してみます、というのがこの記事の趣旨でございます。
どこをどのように似せているのかを見てみることで、これからオマージュをやろうと
いう方の参考にして頂こうと思いまして。(そんな奴いるのか?)
先ず最初に、著作権というのはメロディについているんですよ。ですからコード進行や
リズムパターン、あるいはアレンジをパクっても著作権違反にはなりません。ですので
ギターのリフとかを平気で引用するなんてことが横行しています。ところがこの曲、
そういった「あからさまな引用」も行っていないんですよ。強いて言えば、リズムパターン
を似せている(つまりドラムとベースですよね。ところがこれも、細かく聴いてみると
微妙に異なる)くらいですね。では何故、これが「また逢う日まで」を連想させるのか。
それは、先ずイントロのアレンジのインパクトが大きいでしょう。ブラスのフレーズに
フロアタム1発。そこが「また逢う日まで」と共通している。
さらに細かく見ていくと、原曲のブラスのフレーズのリズムを1拍ずつ記すとこうなります。
|8分刻み|シンコペーション|頭打ち|フロアタム|
これが「好きで好きで好きすぎて」ではこうなっています。
|シンコペーション|シンコペの回収|頭打ち|フロアタム|
このように、細かく見ると違うんだけども原曲を思わせるようなリズム構成をしているのです。
だから、同じ音は最後の頭打ち(F#)だけなのに似ている印象を与えるのに成功している
わけなんですね。実に巧みなフレーズです。
ただ似てると思わせるとズラしてパクリと思わせない配慮も見せます。ここの箇所では、原曲は
ブラスのフレーズは同じものの繰り返しなんですけども、chayさんの曲ではコードをBmに
変えて展開しています。似てると思わせておいて、そこから離れる。ヒット&アウェイみたいな
戦法ですね。www
次に3〜4小節目では原曲ではブラスメインのフレーズですが、chayさんの曲ではストリングス
メインのフレーズでここは離れている箇所。その後5〜6小節のリズムが入るところは同じ
Dのコードでリズムも似せています。実はこの、6小節で歌に入るというイントロの構成が
原曲のキモだったりするのですが、そこをchayさんの曲でも踏襲している。ここも、似てる
と思わせる箇所なんですね。さらにchayさんの曲ではブラスがリズムを刻んで、この曲の
リズミックな雰囲気を強調しています。いわゆる原曲にないデフォルメですね。
そして歌いだしのメロディ。これは正直似ていますよね。ところがchayさんの曲では原曲に
ないアウフタクトの2音が加わり、さらに最初のDの音の譜割りが違います。その後の
E→F#にメロディが上がるところは両曲とも共通していて、ここが似てると思わせる
ポイントだったりするんですけどね。ところが似てると思わせるとズラすのがこの曲の
戦法wwでして。この後はメロディがいきなりせり上がって違う景色を見せます。コードも
全然違いますしね。
ところがAメロの5〜6小節目辺りは原曲に近づいたような雰囲気になる。でも原曲とは
全然違うのに? 秘密はここのコード進行にあります。ここのコードはこうなっています。
|D・D/F#|G・G#dim|
これは、イントロの3小節目のコードに似せているんですよ。イントロの3小節目は
|D・F#・G・Gdim|
と1拍ずつコードが変わっていくところで、それを1小節に2つ配分(2拍裏でコードチェンジ
していますね)にしています。D→F#→G→G#(→A)という割と目立つコードラインを、
一見関係のないここで踏襲する。これによって無意識的に「また逢う日まで」臭を匂わせる
わけです。
そのようなテクニックはもう1か所あります。Bメロの2小節目にある2拍3連。厳密には
付点8分音符を使った3-3-2というリズムですが、ここでこのリズムでブラスやベース、
ドラムが共に強調しているんですよ。これは、原曲のAメロ7小節目に違うコードで同じ
展開を見せているんですよ。ここは、ちょっと音楽的ココロのある方ならすぐに気づく
ところですけどね。「ここを引用しやがったか」と思ったことでしょう。
後はサビのメロディですね。これも少々原曲に近づける手を使っています。歌いだしの
Dの音の連打、それは原曲と共通していますね。ところが原曲では「ふたりで〜なまえ」
と7音連打するのに対し、chayさんの曲は「すき〜で〜」と3つで違う音に逃げる。
ここでも原曲を匂わせてヒット&アウェイです。
まとめるとこうなります。
1.アレンジの雰囲気やキーを似せているが、原曲よりデフォルメをしている。
2.原曲に節目節目で似せてインパクトを強めるが、その後離れるヒット&アウェイ戦法。
3.原曲と異なるところで似た要素を導入し、無意識的に似てる雰囲気を刷り込む。
この3つを巧みに織り交ぜることで、オマージュであることを誰に耳にも周知させながら
パクリであると告発されない、という離れ業をやってのけているわけです。
この曲の作曲&アレンジは多保孝一さん。いわゆるSuperflyの「中の人」として活動して
いた人(現在は卒業)ですね。表舞台から退いたからといって、こんなところで好き勝手
やっているとは! 私が音楽ジャーナリズムの権威だったら、早速呼びつけて話を聞き出す
ところですね。
chayさん本人にですが、リアルサウンドではインタビューして、間接的に多保さんが考えて
いることを聞き出しています。一応紹介しておきます。
chayが新曲で挑んだ、昭和歌謡とJ-POPの接続「音楽の奥深さに触れて意識が変わりました」
追記
この記事では触れませんでしたが、この「好きで好きで好きすぎて」には「また逢う日まで」
以外のオマージュも散りばめられているようです。分かりやすいところでは、イントロの
ブラスは「私の彼は左利き」のイントロを参照していますよね。
これ以外にも色々あると思います。気が付いた方はコメント欄にでも書いてみて下さいな。
2015年11月11日
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YouTubeでは聴けませんが、ぜひ2番サビ直前のブラスのフレーズを聴いてみて下さい。
コメント有難うございます。ここに関しては購入した人のお楽しみ、とさせて頂きますが「まんま」ですよね。もっともこれも、登場させる箇所をズラすという手を使っているわけですけどね。