短編集「メアリー・スーを殺して」を読みました。
乙一、中田永一、山白朝子、越前魔太郎という4人の作家が書き、安達寛高が解説をする7つの異なる世界の物語。
でも、この作品集。実は全て同じ人が書いてるんです。
乙一さんが名義を変えて活動しておられる事は知ってましたが、こうして並べると正に幻夢のよう。
ミステリーあり、ホラーあり、SFあり。
泣いて、励まされて、背筋が凍りました。
ネタバレなしで、好きな作品の触りだけ紹介して行きたいと思います。
初期作品を思い出す、素敵なミステリー
ミステリーとして面白かったのが、「山羊座の友人」と「宗像くんと万年筆事件」。
「山羊座の友人」は時空を超えた漂着物が引っかかる、不思議なベランダのある家に住む松田くんの物語。
仲のいいクラスの女子と、いじめられっ子の少年と。
そこに着地してしまうんだ、という救いようのない切ない物語は、初期の乙一ミステリーを彷彿とさせます。
「宗像くんと万年筆事件」は、風呂にも入れないくらい貧乏な「宗像くん」のお話。
名探偵として他人を嘲るような顔をする宗像くんが本当は震えていたこと、自分を投げ打って危険な賭けに出たこと、それにヒロインがちゃんと気がつくところが好き。
こちらも初期短編を思い出す、優しいミステリーです。
泣かざるを得ない、物語
泣かずにはいられないのが、「トランシーバー」。
これはだってもう、卑怯なんです。
泣かせよう、泣かせようとしてくる物語なんです。
津波で、妻子を亡くしてたった一人になった男が主人公。
家族のことが忘れられなくて、仕事と酒に逃げるような日々を送っている。
酩酊した夜に、子どもの玩具のトランシーバーから、途切れ途切れに3才の息子の声が聞こえてくる。
…パパー…ザー…いるー?…ザー…うんちでたー!…
遺された者がどうやって生きていけばいいのか、という物語。
卑怯です、あざといです。
でもそう言いながらも、本当にボロボロ泣いてしまいました。
泣き終わったら心が少し軽くなりました。
現実は、こんなに優しいことばかりじゃないと思うんです。
こうやって前に進んで行ける人ばかりじゃないと思うんです。
でも夢幻でも、こうやって希望を持たせてくれるのが物語の持つチカラなんだなぁ、と泣きながら思いました。
創作する人の心に住んでいるモノ
最後は表題作、「メアリー・スーを殺して」。
これは二次創作が大好きな中学生の女の子の物語。
オタクで、太っていて冴えなくて引っ込み思案で鈍重で口下手で。
創作物の世界にのめり込んでいるときだけが自由で幸せ。
ああっ私だ…って言いたくなるような、同人とかやってた人なら胸を押さえて転げまわりたくなるような女の子が主人公。
彼女はある日、自分の書いた二次創作には「メアリー・スーが出てくる、そこが気持ち悪い」と指摘される。
ファンによる二次創作物のオリジナルキャラクターにおいて、作者の自己願望が詰め込まれすぎた結果、原作ファンを不快にさせる様々な弊害が発生したキャラクターを指す。
具体例は後に述べるが、例えるなら「最強な主人公が次々と原作キャラを従わせ、強敵を倒しまくる」など。二次創作初心者がやらかしがちであり、「さくしゃのおもいがこめられた、りそうのきゃらくたー」的な印像を与えかねない作りになっているため原作レイプの一種として多くの人に嫌われる。 当然他人からは「詰め込まれたように"見える"」に過ぎないため、主に書く側が自戒、反省として意識するべきものである。
ニコニコ大百科より引用
彼女の書いた二次創作小説には、いつもオリジナルキャラクターが登場する。
完璧で、非の打ちどころのない、誰からも愛される美少女。
書き手が自己を投影する、自己愛の塊のようなキャラクター。それがメアリー・スー。
自分の欠点に気がつき、「いやだ!小説をもっと上手くなりたい!」と願った少女は自分の中のメアリー・スーを殺すために、今までの自分を変える努力を始める。
そうやって、大人になって、自由になって。
『メアリー・スー!力を貸して!』
最後にそう叫んだ彼女に、私は二次創作の世界を飛び出して、自分だけの物語を紡ごうとしているたくさんの人達の背中を見た気がしました。
小説やマンガを書いている人、いつかプロになりたいと願う人。
そんな人に読んで欲しい、希望に満ちた物語です。
では、今日はこの辺で。
なお、乙一さんの「山羊座の少年」は漫画版の評判もいいようです。
サクッと読みたい、と言う方はこちらもオススメです。
追伸:
昨日、生まれて初めてアマゾンの欲しいものリストからプレゼントを頂いてしまいました!本名だったので、どなたか分かりませんが、ここでお礼を申し上げます。
北海道のあたりめ、最高でした!大事に頂かせて頂きます。
本当にありがとうございました(*´ω`*)