特集 文藝春秋 掲載記事

日韓慰安婦合意 朝日新聞の欺瞞

長谷川熙(元朝日新聞記者)× 西岡力(東京基督教大学教授)

8回謝罪した宮澤首相

西岡氏

西岡 私、年が明けてすぐに所用でソウルに行ったんです。そこで、日本大使館前の慰安婦像を見に行ってみました。すると、「慰安婦像を守る。撤去はさせない」と主張して年末から座り込んでいる若い女子学生が8人ほどいました。彼女たちは周囲に「日本軍によって20万人が強制連行されて、性奴隷にされた。そのうち18万人は、終戦時に殺された。この像は、その象徴です」と今も主張しているのです。

長谷川 そうした虚偽の言説が広まった原因は、間違いなく朝日にあります。

西岡 盧泰愚大統領(88~93年)が「文藝春秋」(93年3月号)で「日本の言論機関の方がこの問題を提起し、我が国の国民の反日感情を焚きつけ、国民を憤激させ」たと語っています。固有名詞こそ避けていますが「言論機関」が朝日を指すのは明らかです。

 私は以下の記事を、朝日の慰安婦報道における「(1)加害者」「(2)被害者」「(3)裏付け文書」の「3点セット」と呼んでいます。(1)は1982年9月に「朝鮮の女性/私も連行/元動員指揮者が証言/暴行加え無理やり」などの見出しで吉田清治氏をいち早く取り上げた記事。(2)は91年8月に、これも他社に先駆けて植村隆記者が「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』のうち、1人がソウル市内に生存していることがわかり」と書いた記事。(3)は92年1月、時の宮澤喜一首相の訪韓直前に「慰安所 軍関与示す資料」、「『民間任せ』政府見解揺らぐ」などの見出しのもと、一面トップで報じた記事。同記事には「主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した」との用語解説がついており、「首相の16日からの訪韓でも深刻な課題を背負わされたことになる」とも書きました。この記事が契機となって宮澤首相は、盧泰愚大統領との会談で計8回謝罪するに至りました。

長谷川氏

長谷川 さらにその流れを強化するコラムが続きます。宮澤訪韓直後、1月23日と3月3日のいずれも夕刊のコラム「窓」で、北畠清泰論説委員が吉田証言を取り上げ、吉田氏を美化しています。「国家権力が警察を使い、植民地の女性を絶対に逃げられない状態で誘拐し、戦場に運び、1年2年と監禁し、集団強姦し」たなどと書いたうえで、吉田証言に疑問を示す投書に対しては、「知りたくない、信じたくないことがある。だが、その思いと格闘しないことには、歴史は残せない」と叱りつけた。実に恥ずべきコラムだと思います。

【次ページ】北畠氏と吉田清治氏の関係

この記事の掲載号

2016年3月特別号
2016年3月特別号
芥川賞発表 受賞作二作全文掲載
2016年2月10日 発売 / 特別定価930円(税込)
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