
贅沢貧乏は2014年、一軒家を1年間借り、
演劇作品の創作・稽古・本番をする「家プロジェクト」を立ち上げ、
『タイセキ』『東京の下』『ヘイセイ・アパートメント』の3本の作品を発表しました。
そして2016年5月、「家プロジェクト アパート編」として、新たなプロジェクトを始動します。
2014年当時「家プロジェクト」を立ち上げたきっかけは、
稽古は公民館や公共施設などを借りて行い、
劇場に入ってから数日で舞台に乗せ発表をする、
という小劇場界では通常とされているやり方では思うように作品が作れない、
と違和感を覚えたことがきっかけでした。
自分たちにとって一番自然に作品が作れる場所・環境を自分たちで作ってみた、
というのが「家プロジェクト」企画の本質で、
「家」というのは後から付随して出てきたものでした。
【家プロジェクト 立ち上げ当初・一軒家編の詳細はこちら】
そして2015年5月に家を引き払ってから約10ヶ月。
今回新たに今感じている演劇界の風習への違和感と、
それを解消する手がかりを模索するため、
再び「家プロジェクト」を始動します。
生活をするように演劇をする
小劇場界の役者は
「やりたいからやっている」
「この演出家が好きだからギャランティが少なくても引き受ける」
という認識がまかり通っており、
仕事に対して真っ当な報酬を得られていないという問題があります。
実際、全くギャランティが支払われないというケースも多くあり、
チケットバック(1人お客さんを呼ぶにつき、いくらキャッシュバックすると決める制度)や、
ましてやチケットノルマと言って役者にさらに負担をかける制度もあります。
しかし、役者は決して「やりたいからやっている」のではなく、一つの立派な職業です。
理想を言えば、
拘束時間に見合い、生活していけるだけのギャランティが支払われるべきですが、
全体としてお金のない舞台芸術界にはなかなかの無理難題として捉えられるでしょう。
何を基準としていくのがベストなのかは、演劇界全体で考えていく必要があります。
そこで、私たちは今回、以下の内容を設定します。
・ 週休3日/1日2公演を1ヶ月以上続けるロングラン公演にする
・ 公演の回数を重ねるごとに役者への報酬は多くなるシステムを目指す
・ 週休3日分の日程は他の仕事に充てられるよう拘束しません
多くの小劇場の俳優は、アルバイトなどをしながら食いつなぎ、演劇活動を続けています。
その現状をすぐに私たちが解決することは難しいですが、
公演がある毎に働けなくて困窮する状態を打破することは出来るため、
アルバイトのスケジュールを尊重した稽古日程や本番を組みます。
役者が困難な生活環境や労働環境に疲弊して続けていくことが難しくならないよう、
「生活をするように演劇をする」ことを目指します。
また、1週間〜2週間程度しか公演期間がない作品が多くあるなかで、
このようなロングランの形をとることは、
観客にとっても観劇するチャンスを増やすことにつながり、
共に「生活するように演劇をする」という目標への実感に繋がります。
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前回の家プロジェクトに区切りをつけた際、場所を持つことの重要性を感じました。
既存の劇場で公演をする場合は、劇場のシステムを元とした作り方になってしまい、
既存のシステム・サイクルから抜け出すことが困難です。
しかし、もちろん借りている期間ずっと家賃を払い続けることは容易なことではありませんが、
場所を持つことで、スケジュールに関しても制作過程に関しても、
フレキシブルに自分たちに一番あった作り方を自分たちで模索できます。
今回そのようにフレキシブルに公演日程などを決められることから、
動員が伸びて、翌月も公演を続けられると判断した場合は、可能な範囲で上演を続けます。
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今回の企画は、まだ実験段階および演劇界への警鐘でしかありませんが、
このまま全く同じシステムや慣習が在り続けるのでは状況は変わりませんから、
私たちから問題を提起して少しでも何かが変わるきっかけになればと思います。
刻一刻と変わりゆく時代の中で、演劇界も柔軟に対応し変化していく必要があるのではないでしょうか。
追伸:
私たち贅沢貧乏はバブル崩壊後の1992年前後に生まれ、バブル時代のことを知りません。
ただ、今もなお定着しているシステムや慣習は、当時まかり通っていたものがそのまま残っているのではないかと思います。それに対して私たちが違和感を覚え警鐘を鳴らすのは、90年代生まれの私たちからしたら当たり前のことだと思います。
「やりたいからやっている」という考え方は古い考え方であり、万が一演劇自体を必要としない社会となるのであれば、更なる危機感を覚えます。
2016年3月 贅沢貧乏
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