夏の参院選に向け、政界がざわついている。安倍首相が消費税率の再引き上げを先送りし、衆参同日選に打って出るのではないか、との観測が広まっているのだ。

 首相が消費増税について最終判断を下すのは、もうしばらく景気の動向を見極めてのことだろう。衆院解散もいまは「頭の片隅にもない」という。

 ただ、先行きが不透明な世界経済を踏まえれば、一昨年11月の衆院解散時と同じように、税率引き上げの再延期を表明し、その是非を問うとして解散に踏み切ることは考えられないことではない。

 首相がそんな判断にいたる前に言っておきたい。衆参同日選には問題がありすぎる。

 同日選は戦後2回あったが、首相が同日選を意図して衆院を解散したのは、1986年の中曽根内閣でのことだ。「死んだふり解散」と呼ばれ、自民党は圧勝した。

 公明党も含む当時の野党は、同日選は憲法違反だと強く反発した。選挙後には有権者が「同日選を目的にした解散は、両院議員にふさわしい人物を選ぶ機会を奪うもの」などとして違憲訴訟を起こした。

 最高裁は憲法判断を示さないまま原告の主張を退けた。

 とはいえ、同日選は、任期や解散の有無など制度の異なる二院を置くことで国民の多様な意思を反映し、一院の行き過ぎを抑制するといった憲法の趣旨をないがしろにすることは間違いない。

 自民党は、大災害時の議員不在に備えるため、議員任期に特例を認める緊急事態条項を憲法に設けるべきだと主張する。しかし同日選こそ、より多数の議員の不在という「リスク」を自ら招くものではないか。

 消費増税の是非を解散にからめるとしたら、それにも首をかしげざるを得ない。

 首相は一昨年の解散時に、税率引き上げを再延期することはないと「みなさんにはっきりと断言します」と語った。それができない経済状況を招いたというなら、アベノミクスの失敗を自ら認め、潔く退陣するのが筋だろう。

 一方、首相は在任中の憲法改正をめざし、改憲案の発議に必要な参院で3分の2の改憲勢力を得たいとの意欲をたびたび表明している。この目的のため、衆参二つの選挙の相乗効果で議席の上積みを図るのが真の狙いだとしたら、解散権の乱用だというしかない。

 同日選を正当化する理屈は、見いだせない。