2016ねん03がつ26にち
斎藤環『「社会的うつ病」の治し方 人間関係をどう見直すか』を読む
「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか (新潮選書)
- 作者: 斎藤環
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/03
- メディア: 単行本
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まずはじめに断っておくが、おれは著者である斎藤環という人を斎藤孝(『声に出して読みたい日本語』)と区別できていなかった。よくテレビに出ているひきこもりの専門家、と思っていた。人を名字だけで判別してはいけない。
して、おれは斎藤環という人を信用できるんじゃあないかと思った。あとがきでそう思った。こんなことを書いていたからだ。
治療にはどうしても欠かせないのに、医師には決して処方できない薬が、少なくとも三つあります。「時間」「お金」「人間」です。いずれも患者さん自身がなんとかするしかない問題ではあるのですが、時間やお金はともかくとして、「人間」すなわち「人薬」についてはもう少し治療の中に取り込めないものか。それも私の勤務先のような、ごく一般的な精神科の外来において。
「お金」、これである。これを認識、理解してくれる医者というものは信頼できる。いかに本書が「人薬」の重要性を説いていても、おれにはここに「お金」を出してくれるところに「わかってる!」と思えて仕方ない。無論、それはおれの精神的な病理の問題ではあるし、客観的な貧困にあるのだが、やはり金がなければ安心して生きていけない。地獄の底のような抑うつ状態に置かれてしまう。それをわかってくれている、というのは大きい。
して、「社会的うつ病」である。いわゆる新型のうつ病とか言われるものである。仕事に行くには鬱になり、趣味では元気を取り戻す、ここ数年(数年前?)話題になったやつである。著者によれば、これは「軽いけど治りにくい」ものであるという。
まず、病気と性格の区別が曖昧であること。かつてのうつ病が、それまでの勤勉で実直な生活を一八〇度ひっくりかえすような現れ方をしていたとすれば、新型うつ病では、それまでの性格傾向がいっそう極端化したような現れ方をすることが多いとされています。
まあ、おれはといえばとりあえずジプレキサが効くことによって双極性障害(2型)なわけであって、医師に新型うつ病と言われたことはないわけだが、そういうことらしい。
というか、双極性障害のおれがなぜ「新型うつ病』の本を読むのか。それは、精神病理というものがスペクトラム的なものであるような気がするし、なにかしら現代的な精神病理として重なる部分があるのではないか、というところである。胃がんの人が肺がんの人の闘病記を読むようなものだろうか。
とはいえ、やっぱりおれはどうも「新型うつ病」にはあまり当てはまらないな、という気もする。
とか言われても、おれは生存の不安にたいへん不安であって、それは貧困妄想を含むものであるかもしれないが、実際に通帳を見れば妄想とはいえないものであって、実存だのなんだの言ってられねえよ、というところである。おれは仕事そのもの(仕事の内容で上手くいかないことは別として)に抑うつ的にならないが、仕事がないことに抑うつ的になる。なんにも予定がない休日の方がおそろしい。おれはひょっとすると勤勉で実直なのかもしれない。元ひきこもりだけれども。
そしておれはジプレキサをはじめとした薬に絶対の信頼を置いている。
私はかつて、この傾向を「こころの身体化」と呼びました。これは心理学化にともなって、「こころ」が想像上の身体を獲得しつつある状況を指しています。
おれがはじめてジプレキサを飲んだ日、頭がくらくらした。そのことを医者に言ったら「脳の組成が変わるからね」と言われた。脳ですらハックできる。おれはむしろそのことに素晴らしい驚異を感じた。「こころ」なんてものも化学物質の行き来にすぎない。おれはそう考える人間である。「こころ」を薬でどうにかしたい。たとえばコーナー・デヴィッドソンのレジリアンス・スケールで14点である状態(うつ病患者の平均が60点台で低いとされる)を、薬でどうにかならないか? と思う人間である。
べつに薬でなくともいい。
著者こう言う。おれもそう思う。これは疑似科学につながりかねない危うい部分を含むが、そうであると感じる。プラセボは、種明かしのあとも持続する。大学の認知心理学の講義でそう習った。たとえおれ飲んでいるジプレキサもアロチノロール塩酸塩もプラセボにすぎないとしても、それならそれでいい。ここもおれはがこの著者を信頼できるな、と思った部分である。
さて、この著者は臨床医としてひきこもりなどに対処してきた医師である。おれは元ひきこもりで、今でもひきこもりの魂を抱き続けている。そのあたりの弱みをズバズバ突いてくる。
グサッ。
うつ病の人はしばしば、プライドが高く自信がないということを先に指摘しました。これは立場上やむを得ないところもあります。彼らと議論すべきではありません。なぜなら彼らを言い負かすことはいともたやすいからです。「偉そうに言うなら働いてみろ」。これは彼らのなけなしのプライドを一撃で粉砕するキラーフレーズです。
ドカッ(太字は引用者による)。
というわけで、おれは死んだ。まあいい。この本ではおれ既読の内海健の本についての言及などもあって、いろいろと勉強になった。おれはまだひきこもりの魂を持っているので、読んでいて苦しいところもあった。とはいえ、えぐいところ突いてくるなあというところもあって、著者の他の本についてもあたってみようか、などと思ったのである。おしまい。
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- 作者: 内海健
- 出版社/メーカー: 勉誠出版
- 発売日: 2013/07/02
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……この番組を見ながら「斎藤環先生(もちろん見た目齋藤孝と勘違いしている)がゲストならいいのに」とか思っていた。
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