「加害者はのうのうと暮らしていて、被害者である娘は泣き寝入り。絶対に許せない」
性暴力被害を受けた子どもの親でつくる大阪の自助グループ「ひまわりの会」に携わるエミさん(49)=仮名=は、法律で定められた期限内に長女の性暴力被害を警察に告訴できなかった。ショックで自らもうつ状態と闘っているといい、心配したが、約束通り待ち合わせ場所に来てくれた。
長女が小学校の高学年の時、実父から性暴力を受けていた。エミさんが3年前に知った時点で、被害から4年が過ぎていた。
長女は小学校卒業前から発熱や心拍数の増加、めまいといった原因不明の体調不良に悩まされ、中学校では不登校に陥った。心療内科の診察やカウンセリングを続けるなか、ようやく事実にたどり着いた。数年間に及ぶ不調は、性暴力によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)が原因だった。しかも実父だ。
エミさんはすぐに児童相談所に通告し、警察にも相談した。性暴力被害者のために行政が開設するワンストップ型の相談支援センターにもつながった。「でも、ワンストップセンターはあくまで急性期の対応だった」と振り返る。カウンセリングの無料券が支給されたが、半年ほど通った時点で終了した。
単独犯による強制わいせつ罪は親告罪のため、告訴がなければ警察も動けない。何とか告訴したかったが、「必要だから」と被害状況や日時について具体的な説明を繰り返し求められた。長女はそのたびに気分が悪くなった。「体調優先でしばらく様子を見た方がいい」との結論になり、いったん断念した。
その間、エミさんはきょうだいを連れて家を出た。「下の子は急に転校する理由も分からず混乱し、家族ぐるみで築いてきたコミュニティーも失った。家族みんなが被害者です」
今、本当に心を開けるのは月に1回の自助グループだけだ。「同じ苦しみを知っている人になら全てを打ち明けられる」。仲間の前でなら何でも話せるし、泣くこともできる。その日を張り合いに毎日を暮らしてきたが、今、エミさんは再び打ちのめされている。
今年1月、警察から電話がかかり、「被害から7年がたち、告訴の期限が近づいている」と告げられた。
最後の望みをかけてもう一度警察に行ったが、苦しむ娘を見ながら、警察官は「何とか告訴しても、強制わいせつ罪の初犯なら執行猶予がつく。それぐらいなら…」と、告訴の断念をやんわりと勧められた。
「親告罪である限り、本人がつらさを乗り越えて証言できなければ訴えられない。それが今の法制度の現実です。中高生の女の子がそんなに強くはない」と、エミさんは疑問を投げかける。
法務省の法制審議会で現在、強制わいせつ罪などを非親告罪とする議論が行われているが、具体的な改正時期は未定だ。
「娘は一生抱えていく深い傷を負った。でも罪に問われなかったことで加害者は何も感じない。私たちはそれが悔しい」
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各地で性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが開設され、強姦(ごうかん)罪の法定刑引き上げを含む刑法改正も議論されている。性犯罪の被害に遭った人が何を望んでいるのか、性暴力を未然に防ぐために何が必要なのかを考える。
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