貨物の車掌車、診療所で再出発 滋賀・甲賀の医師修復
旧国鉄貨物列車の貴重な「車掌車」を建物の一部に使ったユニークな診療所が1日、滋賀県甲賀市水口町南林口に開院する。鉄道愛好家の院長が10年近く保管していた福井県敦賀市から移設し、約3カ月かけて外観を元の姿に修復した。病院嫌いの子どもたちにも人気を呼びそうだ。
診療所は市内唯一の皮膚科専門になる「皮ふ科クリニックみなくち」。院長に就任する笹田昌宏さん(44)は電車保存や鉄道紀行などの多数の著書もあり、愛好家仲間と全国で約20両の車両保存にかかわってきた。交通博物館(東京都)の学芸員として知られ、2008年の宮城・岩手内陸地震で亡くなった岸由一郎さん(当時35歳)は親友だったという。
車掌車は1952(昭和27)年製で「ヨ14188」と呼ばれる車体。福井県の病院で働いていた笹田さんが06年、敦賀市内で企業の休憩所として使われ廃棄寸前だったのを見つけ、購入した。貨物列車の最後尾に連結された車掌車は国内で3500両以上造られたが、現存するのは30両にも満たないという。
笹田さんは幼少期を大津市で過ごし、滋賀での生活を希望して同クリニックの院長を務めることになった。車掌車は昨年12月に搬送し、診療所の建物に隣接して設置。長さ7・8メートル、幅2・6メートル、高さ3メートルで、安全を考慮して車輪は外した。木の床は往時のままで、無くなっていたデッキの一部は復元した。
内部には、荷物輸送に使われた備品やドイツの貨車模型など車掌車に関する資料を展示し、受診者に自由に見てもらう。診療所を開設する医療法人も協力し、建物の外観を駅舎風にした。待合室のドアから屋外に出ると、プラットホームに車掌車が停車しているようになっている。
笹田さんは「鉄道文化財に身近に触れ、子どもに喜んでもらえたら。多くの保存を実現させた岸君の思いを受け継ぎたい」と話している。
【 2016年03月26日 16時49分 】