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「国の責務」明記、加速へ…議員立法で法成立

 戦没者の遺骨収集を進めるための議員立法「戦没者遺骨収集推進法」が24日の衆院本会議で可決、成立した。遺骨収集を「国の責務」と初めて明記し、政府に基本計画の作成を義務付けた。4月1日に施行される。【古関俊樹、岸達也】

     厚生労働省が関係省庁と協議し、遺骨収集の基本計画を作成。2024年度までの9年間を収集の集中実施期間と定め、国は17年度まで海外の公文書館に保管されている埋葬地に関する文献を集中調査するなど、情報収集を強化する。

     実際の遺骨収集は、厚労省が新たに指定する法人が担う。日本遺族会や全国強制抑留者協会など12団体が参加して発足する法人が、指定を受けるために準備を進めている。厚労省に有識者会議を設置して、法人の業務をチェックする。

     戦後70年が経過し、埋葬地を知る人が高齢化して情報が集まりにくくなっており、最近5年間に国が収集した遺骨は年間1000〜2500人分にとどまる。

     厚労省によると、1937年の日中戦争開戦から戦後のシベリア抑留まで、海外で戦没した日本人は約240万人。今も約113万人の遺骨が収集されていない。このうち、約20万6000柱が中国▽約2万1600柱が北朝鮮▽約810柱がウズベキスタン−−に残るとされるが、住民感情や国交がないこと、宗教上の理由から収集できる見通しが立っていない。また、約30万柱は海に没したとされ、収容は困難だ。

    関係者、進展に期待

     「遅すぎたくらいだが、これを機に一気に進めてもらいたい。早くしなければ」。シベリア抑留の経験者で、20年以上遺骨収集に取り組んできた川崎市高津区の遠藤尚次さん(90)は「戦没者遺骨収集推進法」の成立を歓迎し、遺骨収集の更なるスピードアップを求めた。戦後70年が過ぎ、戦没者の遺骨が比較的残っているとされる地域でさえ収集は年々難しくなっている。

     遠藤さんは戦後、旧ソ連によってロシア沿海州の収容所に送られ、厳しい寒さや不十分な食事など過酷な状況下で、1948年5月まで橋の補修や木材伐採などの重労働を強いられた。

     ソ連崩壊を機に抑留中に亡くなった人の遺骨収集が始まると、92年から埋葬地調査などの活動に参加した。

     昨年7月も厚生労働省などの収集事業に加わり、沿海州のスイソエフカで42柱を収集した。

     遠藤さんによると、事前の調査で100柱程度あるとみられていたが、湧き水で状態が悪く、収集は思うように進まなかった。連日30度を超える気候の中、重機で深さ約80センチまで掘った後、手作業で土をかきわけたという。

     歳月が埋葬地の地形を変えている。草原だったのに林になっていたり、斜面だったはずが崩れていたり。

     遠藤さんは「現地の人たちも世代が代わって埋葬地を知る人が減っている。人手をかけて大規模な事業をやらないと、収集は不可能になってしまうだろう。掘るべきところはまだたくさんある」と話した。【青島顕】

    DNA鑑定、対象拡大を…解説

     国策である戦争で亡くなった人たちの遺骨を収容するのは国家の責務だ。にもかかわらず、収容事業は国にそれを義務づける根拠法がなかった。そのため政府は何度か幕引きを模索した。それを、「国の責務」と位置づけた「戦没者遺骨収集推進法」は、戦後補償史の画期となる内容だ。「縦割り行政」の典型のようだったが、厚労省や防衛省、外務省など関係機関が連携する事業体制を課した意味も大きい。集中実施期間は9年間と限られているが、成果が期待できる。

     課題もある。戦没者遺骨の身元特定は難しく、収容しても引き取り手が見つからない「無縁仏」が増え続けている。近年成果をあげているのはDNA鑑定だ。だが国は、遺品などから身元が推定できる遺骨でなければ鑑定の対象としてこなかった。沖縄では遺品以外の資料などを活用し対象を拡大する方針だが、他の地域でも進めるべきだ。また希望する遺族からDNAの提供を受けてデータベース化し、収容された遺骨のDNAとつきあわせるなど、身元判明を進めなければならない。

     「集めて終わり」ではない。遺骨を、待っている遺族たちに返してこそ事業が完了することを、政府は再確認しなければならない。【栗原俊雄】

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