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この時の演奏はケニー・バロンさんのアルバム「Things Unseen」に収録されている。寺井さんが黒い服を着ていたことから「ロゼ・ノワール」というバラの名前をつけた曲となった
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これは、ジャズ界の重鎮ピアニスト、ケニー・バロンさんと私がレコーディングで即興演奏をした時の写真です。この奇跡のような８分間は、私が最初にジャズに魅了された時から追い求めていた感覚を体現した瞬間でした。
私は４歳からクラシックのバイオリンを始め、プロになるための厳しいレッスンの日々を送っていましたが、腱鞘（けんしょう）炎で手首をいため、１６歳でその道をあきらめました。目標を失い、胸にぽっかり穴があいた。そんな時ジャズに魅了されたんです。初めて聴いた時の震えるような衝撃と、こんなに自由な音楽があったのかという驚き。この時自分の中にわいたジャズのイメージを突き詰めたくて独学でジャズバイオリンの勉強を始めました。
２２歳でプロデビューし、ホテルのラウンジやクラブで演奏をする日々。ある日、雲の上の存在であるジャズピアニストのケニー・バロンさんが来日中、私が出演していたクラブに偶然いらしたんです。こんな機会は二度とないと、セッションを頼んだら快くＯＫしてくれ、夢のような思い出となりました。
その１年後、人づてにケニーさんからの「一緒にレコーディングしたいので、ニューヨークに来る気はあるか」というオファーが来たんです。最初はケニーさんが音楽評論家の方に「ジャズバイオリンのＮＡＯＫＯという女性を探してくれ」と言ってくださったそうで、当時、私はまだＣＤも出していなかったので、探すのが大変だったみたいです（笑）。
２週間の予定で来るように言われ、現地に着いたら何とケニーさんは不在。戻るのが１３日目なのでその日にレコーディングをすると聞かされて。知り合いもいないニューヨークで１２日間たったの一人。レコーディングまでの間は、せっかく来たから楽しもうと昼は街をぶらぶらし、夜はジャズクラブに行ってニューヨークを体感していました。
レコーディングの日はジャズ界のそうそうたるメンバーと共に、初めて渡される楽譜を見て、たった一度のリハーサルの後、本番も一回のみ。その中で一流のミュージシャンたちが緊張で張りつめながら、見事に音楽を完成させることに感動したものです。その余韻の中、ケニーさんから「ＮＡＯＫＯ、何かイメージでやってみないか」と誘われ、楽譜もない完全即興のデュオをやることに。ケニーさんのピアノを聴きながら、感じるまま心に浮かぶ旋律を夢中でひいた８分間。完全に音楽の中にいたので、何も覚えていない「無」の状態でした。演奏後、目を開けたら彼のマネジャーが涙を浮かべ、みんなが大喝采。この時の感覚こそ自分が追い求めていたジャズであり、それまで独学で迷うこともあったけど、歩いてきた道は間違ってなかったと実感しました。この写真は私がジャズバイオリニストとして力強く歩み始めた瞬間なんです。
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てらい・なおこ ジャズバイオリニスト
１９８８年プロデビュー。独自性あふれる表現力ゆたかな演奏スタイル で人気の高いコンサートを中心にテレビ、ラジオ、ＣＭなど、幅広く音楽活動を展開。平成２１年度文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞（大衆芸能部門）受賞（２０１０年）をはじめ、 日本ゴールドディスク大賞ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー（邦楽）（２００４年）等、受賞歴多数。
◆寺井さんのニューアルバム「トワイライト」が３月２３日に発売。メジャーデビュー以降、初のセルフプロデュース作品。ピアソラの「ブエノスアイレスの冬」を核に、楽曲の美しさにこだわったメロディアスで大人な作品を収録。ドビュッシー「月の光」、マーラー「復活 交響曲第２番」といったクラシックの名曲やガーシュインのおしゃれなブルースナンバー「ホームシック・ブルース」など、日本を代表するピアニストの佐山雅弘をはじめ、世代を超えた強力なメンバーによってレコーディングされた意欲作だ。
［初回限定盤］３，８８８円（税込）
［通常盤］３，２４０円（税込） （ユニバーサルミュージックより発売）
「今回のアルバムは、バンドのメンバーを一新して約１年の時点で発売しますが、私の新しい出発という意識で作りました。リハーサルを綿密に行い、ライブの緊張感を大切にした一発収録を全体的に行っています。最後に収録が決まった「ブエノスアイレスの冬」が核となりほかの楽曲を結び付け、ドラマティックなアルバムになったと思います。今回の収録は、私は喜びに満ちて演奏できました。そういった気持ちは出そうとしても出ないもの。とても貴重な瞬間が収録されているので、ぜひ聞いてください」
（聞き手：田中亜紀子）