挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
反逆の勇者と道具袋 作者:大沢 雅紀

ダイジェスト版

5/60

ダイジェスト版 帰還編

ドンコイの政策の評判がカストール領から伝わってくる。
ラスの実やトンカツ、缶詰もフリージア皇都に広がり始めた。
「うむ。ドンコイはうまくやっているようだな。」
カストール伯爵が言う
「ふん。あんな人気取り、長く続きません」
「ラスの実にピギーの肉ですか。失礼ながらドンコイ様にお似合いですな」
「下賎な平民どもは牛馬の飼料を食べて満足でしょうが、我等までそういう物を食べる必要はありませんな。重臣たちが嘲笑った。

「ふむ。お前達はドンコイをこき下ろすが、我々がいなくてもドンコイを中心に領はまとまっているぞ。ふふふ。お前達は気がついておらぬようだが、我々は既にカストール領をドンコイに乗っ取られておるのだ」
おかしそうに笑うカストール伯爵。
「そんな馬鹿な。金貨も宝物も大部分は我等が持ってきております。領地拝領証明書も・・」
叫び声をあげる重臣たち。
「ああ、今の調子ではそんな端金など数ヶ月で稼いでしまうだろうな。領地拝領証明書なども、実際に領地を押さえている上に勇者からフリージア皇国において交渉先と認められているドンコイにとってはまさしく紙切れよ」
気持ちよさそうに笑う伯爵。
「すぐにでも帰ってドンコイ様から政権を取り上げねば・・」
重臣たちがざわめく。
「落ち着け。私が指摘するまで気がつかなかったお前達が愚かなのだ。そもそも、私はドンコイを正式に後継ぎとして認めておる。実の父親の死を待たずに領地を乗っ取るほど力を持つ男が後継ぎなのだぞ。これ以上頼もしいことがあろうか。認めよ。我等の時代は終わったのだ。」
「・・・かしこまりました」
重臣たちは頭を下げた。
ベルガンサから湖沼の国を解放して数日後、シンイチ達はヒノモト国に帰って行った。
ヒノモト城について、不在だった期間の報告を受ける
「フリージア皇国に旅立った奴隷達は概ね受け入れられたようですが、光の国ミラーの奴隷達は国に追い返されたようです。彼らの代表者が処刑されそうなったので逃げてきたと申しておりました。この国に帰順したいと希望するので、受け入れました。」
「そうか・・。仕方がない。落ち着いたら光の国にもちゃんと交渉しに行かないとな。」
久しぶりに帰ったら決裁すべき書類が溜まっており、シンイチは目の回るような忙しさだった。
忙しくも充実した日々が続く。しかし、その裏では着実に天使の陰謀が進んでいた。
二週間前、光の国ミラー。

「なんだと?せっかくはるばる帰って来た解放奴隷たちを処刑しろだと!」
若い国王リヒト三世が言う。
「そうじゃ。天使様のご意思である」
教皇アルセル一世が無表情で言う。
「処刑など認めん。そんな事をすれば、我等だけではなく光の聖霊教団も怒った国民に反抗されるであろう」
息を整えてリヒトが言う。
「・・・・」
「最初の天使の命令では、奴隷を受け入れるなということだったな。なぜ処刑などという事になったのだ」
「・・・天使様から新たな指令が下ったのだ。新たに天使の使徒という存在が生み出されたが、愚かな人間たちは彼らを排除した。勇者のみならず人間たちは天使様をないがしろにしておる。その見せしめとして、解放奴隷達を処刑せよと。私にその神託を授けた天使は、今まで天使が人間に対して寛容でありすぎたから、天使の命令をないがしろにするようになったのだと。この命令が受け入れられなければ、天使様も人間を見捨てるとのことだ」
苦しげに顔をゆがめて言うアルセル。
「・・・くっ。なんという傲慢な・」
「私も貴方の心がわからぬわけではない。しかし、天使様への信仰で我等は生きておる。命令には従わなければ・・」
「・・・わかった」
搾り出すような声でリヒトは言った。
数日後
「でろ!!!お前達を移送する」
リヒャルト直属の軍により、牢から出される解放奴隷たち。
「お、俺たちをどうするつもりだ」
「せっかく国に帰れたのに・・」
不安そうな奴隷達
「陛下に・・いや、それが無理なら父上にあわせてくれ!私は大将軍リヒャルトの息子、クアルだ」
大将軍リヒャルトの息子、クアルが兵士に取りすがる。
「黙れ!!」
ムチで打たれるクアル
「くっ・・・一体どうなっているのだ」
街中を引き回されるクアルたち奴隷。
郊外の広場につくと、処刑場にはリヒャルト直属の兵士達がいた。
「父上!これはいったい!」
父親にくってかかるクアル。

「下がりなさい。天使様の命令です。魔族の捕虜になった者は処刑です。くく、捕虜になった時、誇りをもって自害しておればよかったのですがね」
いやらしい笑いを浮かべる見届け役の神官達。
彼らは、これをきっかけに神官の権力が拡大されるのを喜んでいた。
「ち・・父上」
クアルが涙目になって言う
「クアル。勇者に協力して天使を滅ぼせ!!!」
「な!!!!」
その言葉と共に神官を切り捨てるリヒャルト
「ひぃぃぃぃ」
他の神官も兵士達に切り捨てられた。
「ち・・父上」
「ここに金と装備を用意した。北に向かい森の国経由でヒノモト国に逃げるがいい。」
広場に積まれた金と装備品を示す
「父上、ありがとうございます」
「うむ。気をつけていくがいい」
クアルは奴隷を率いて森の国に落ち延びていった。

フリージア皇国。

魔術書庫にずっとこもって魔法を習得しているメルト王女。
そんなある日、フォンケルと一緒にいたメルトは久しぶりに勇者メンバーと再会する。
「メルト王女様、お久しぶりです。」
輝くばかりの金髪をした端正な顔のノーマン神官。
「ノーマン殿。お久しぶりです。今まで何をされていたのですか?」
メルトが問いただす。
今まで城にも神殿にも顔を見せず、姿を消していた。
「ふふ。いと高きお方の僕として動いておりましてね・・。その力の使い方をご教授するために参上したのです」
ノーマンが笑いながら言う。
「な!!貴方は・・・」
「私は神官の中でも特別な役割を持った者。天使様の直接の部下なのです」
そういいながら魔術書を渡す。
「これは・・」
「この魔術と組み合わせる事によって、その力を有効に使えるでしょう。今頃は、アーシャ殿も天使の使徒として動いています。いずれ、アーシャ様と貴女様がこの大陸を支配し、新たなる皇帝と皇妃となるでしょう。その日のため、勇者の始末はぜひメルト様にお願いいたします」
「わかりました・・。ノーマン殿もご協力お願いいたします」
「かしこまりました。私は天使様と使徒さまの忠実なる僕でございます」
頭を垂れるノーマン。しかし、その顔は嘲るように笑っていた。

「お父様。私を勇者殿の元に使者として送り出してください」
貴族達の前でメルト王女がヘラート王に願い出る。
「メルトよ。お前は勇者に恨まれておる。万が一の事があれば・・」
王が王女を諌める。

「いえ。勇者の私への対応で方針を決めればよいかと存じます。私は一切武装をせず使者に赴きます。無抵抗な私に対し、拷問なり陵辱なりすれば、勇者にも弱みができます。そうなれば、各国の考えもまた変わってくるはず。逆に私に対して口先だけではなく、礼節をもって接すれば勇者と講和を結ぶ価値があると思います」
ノーマンから教えられた口上を述べる。
貴族達の不信感の目がメルト王女に注がれる。
「・・・皆のもの。メルト王女は確かに失敗を犯した。だが、今償おうとしておる。認めてもよいのではないか?」
ヘラート国王が言う。
「しかし、また勇者に対して無礼を働き、より怒らせる結果になったら?」
そういう貴族もいる。
「・・・そう懸念される方もいらっしゃると思いまして、私はこれをつけて行こうと思います」
そういって「奴隷の首輪」を取り出すメルト。
「・・・」
「王女が自ら奴隷になるだと・・?」
「そこまでするというのか・・」
絶句する貴族達。
「陛下。私に対して「奴隷の契約」を。そして勇者に譲渡する契約書と共に、私をおつかわしください」
娘の視線を浴びてひるむヘラート国王
「わかった・・」
国王が魔力を込めると、奴隷の首輪がメルトの首に巻きついた。
「・・・これでメルトは奴隷となった。勇者が譲渡先の所に署名すれば、メルトは勇者の物となる。・・よろしい。メルトを使者として使わす。ドンコイ殿と協力して、有利な条件で和睦が結ばれるよう力を尽くせ」
「ありがとうございます。全力を持って我が国の誇りを守って見せます」
メルトはそういって頭を下げた

。フリージア皇国 カストール領

メルトを使者とした一団がカストール城に到着していた。
ドンコイにヘラート国王の命令書を渡すメルト。

「なるほど。つまり、私も講和の使者に同行して、勇者との間の仲立ちをせよとのご命令ですか」
「そうです。ドンコイ殿は勇者の信任を受けているとか。今後は正式にフリージア皇国を代表として勇者との交渉の窓口となる事を認めるので、私達講和の使者の力になって欲しいのです」
メルトが目に涙を浮かべてドンコイに頼む。

「そうですか・・。わかりました。協力しましょう。勇者殿の許可がおりるまでこちらにご滞在ください」
「わかりました。よろしくお願いします」
そういってメルトは頭を下げた。

「シンイチ様。ドンコイ殿から手紙が来ています」
ウンディーネが手紙を差し出す。
その内容は、フリージア皇国からの正式な講和の使者として、メルト王女が謁見を求めているというものだった。

ドンコイの意見として、メルト王女は奴隷の首輪をつけて勇者に自らを差し出す様にしているが、本心から勇者に対して謝罪をするつもりはなく、勇者殺害をもくろんでいる可能性もあると書かれていた。

「なるほど。確かにその可能性もあるなぁ」
「ここは使者を追い返しますか?」
「正式な国の使者を会いもせず追い返したら、国として体裁が悪くなると思うけど・・皆にも意見を聞いてみよう」
国の主だったものを集めて会議が開かれた。

「メルト姉・・メルト王女はよく知っているけど、プライド高い人だったよ。いくら貴族から責められたからって、奴隷になるとはおもえないよ」
メアリーが意見をする。
「私も危険だとおもう。会わないほうが無難だね」
シルフが発言する。

「でも会わないってのも失礼だしなぁ・・」
「なら、杖の類を全部持たせないようにして、シンイチ様から常に距離をとるようにして会えばいいのではないでしょうか?」
「事前に細かい交渉は我々がします。条約の調印だけ顔を合わすようにして、その時も武装した兵士で取り囲んで距離を取れば何をたくらんでいても対応できると思います」
官僚たちが言う。
「わかった。そのようにしよう」
シンイチが決裁し、カストール城に使者が出された。

「ふむ。なるほど。一応会ってはいただけるみたいだな。私もできるだけメルト王女が暴走しないように気をつけよう。皆も目を離すな」
そういってカストール家の兵士達に命令すし、メルトのもとに向かった。
「シンイチ陛下は講和交渉を受けていただけるようです。それから、お供の騎士たちはこのカストール領にて待機していただきましょう。正使と副使の方々は我々が護衛してヒノモト国までお連れいたします」
慇懃に頭を下げるドンコイ。
「無礼な!!国が派遣した騎士に対して失礼ではないですか!」
「私も国王陛下から勇者の交渉役として任じられている身。勇者殿は何度も裏切られたり攻め込まれたりして、フリージア皇国は信頼しておりません。信頼されているのは我々カストール領の者だけです。信頼されてない兵士たちを派遣できません」
「・・くっ」
「警戒されるだけの事を貴女はしてきたのです。従っていただきます」
「わかりました・・」
肩を落とすメルト。
ドンコイが退出した後、悔しさのあまり唇をかむ。
(あのような豚まで私をないがしろにして・・勇者を倒したら絶対に滅ぼしてやるわ)
ドンコイに対しても憎しみを燃やすメルトだった。

数日後

「メルト王女様。ノーマン神官殿。シンイチ陛下がお会いになられる。粗相のないように付いて来てください」
ドンコイとフォンケルに連れられてヒノモト城に入る二人。
もちろん、下着に至るまで魔力の篭っていない服に着替えされられ、ヒノモト国の兵士に監視されながらである。

玉座の間に通されるが、間に御簾をかけられていて、玉座に腰掛けている者の姿が見えない。
「シンイチ陛下は・・・?」
玉座から離れた位置で待機させられるメルトとノーマンが聞く。
その脇にドンコイも控えていて、さらに玉座の間はヒノモト国の兵士で囲まれていた。

「陛下の故国の風習では、国王は軽々しく姿を見せない事となっております」
御簾の脇に立つウンディーネが答える。
「しかし・・・それでは条約の調印が・・」
メルトが言い募る。
「大丈夫です。基本的なことは合意ができております。では、まず献上品ををこちらに」
「はい」
『皇金の篭手』と『転移の玉』の二つの秘宝をメルトが触れないようにドンコイが持ち、直接ヒノモト国側に渡す。
その様子を悔しそうに見るメルト王女。

「確かに受け取りました。それでは、メルト王女の奴隷譲渡書を・・」
「こちらでございます」
フォンケルが恭しく持ち、ウンディーネに渡す。
「では、最後に条約紙を」
ヘラート国王の署名が入った条約紙にメルト王女が署名し、ドンコイが受け取りウンディーネに渡す。

ウンディーネが御簾の向こう側に入ろうとした瞬間、メルトが動く。

「時空の杖よ。わが時を早めよ。『クロックアップ』」
それは数秒間だけ自分の時を早めて超スピードで動けるようになる魔法。
メルト王女の右手から魔力が発せられ、彼女の動きが早くなる。
「い~か~ん・と~め~よ」
周囲の兵士たちがゆっくりと騒ぐ中、メルトは駆け出した。
御簾を跳ね上げて玉座に迫るメルト。

「これで終りよ・・・はっ、貴方は・・」
玉座には男装をしたメアリーが座っていた。
驚愕のあまり硬直するメルト。クロックアップの魔法が解ける。
「残念。メルト姉様。貴女こそ終りだよ。『ガストブレッド』」
『女神の杖』を振り下ろすと、風の弾丸が打ち出され、メルトに直撃する。
メルトは玉座の前で血を吐いて倒れた。

「な・・・なぜ・・・」
メルトが苦しげな声を出す。
「残念ですな。。メルト王女様、拘束させていただきます」
ドンコイが冷たく言い、兵士たちがメルトを縛り上げる。
フォンケルは見ていられないという風に顔をそむけた。

メルトが縛り上げられ、連れて行かれそうになったとき、部屋に声が響いた。

「やれやれ・・・使徒とはいえ所詮お姫様ではこんなものか。だが、これ以上勇者をのさばらせるわけにいかん。『パラライズ』」
その言葉が響き渡ると同時に、部屋の中の者が倒れた。

「こ・・これは・・」
「麻痺魔法?だ・・・だれが・・」
ドンコイたちが動けなくなる。
部屋の中で一人だけ立っているのは、ノーマン神官だった。

「ば・・ばかな。確かに杖は取り上げたのに」
「ふふふ。愚かなドンコイ殿。真の天使の使徒の前では、杖など不要」
そういって笑うノーマン。
さっき渡された『転移の玉』をウンディーネから取り上げ、メルトに近づいて縄を解く。

『メガヒール』
呪文を唱えると、メルトの体が全快した。
「ノーマン殿・・」
「メルト王女様。急いで地図魔法『サーチ』をお使いください。偽勇者シンイチは城内にいるはず。居場所を掴んだらこの玉で転移して勇者を始末するのです」
ノーマンが言う。
「感謝いたしますノーマン殿。『サーチ』」
シンイチの居場所を探るメルト。
その時、メアリーがたちあがって、ノーマンと魔力砲を打ち合う。
その衝撃で二人は窓から外に吹き飛ばされた。

「「今頃どうなっているんだろう。メアリー大丈夫かなあ」
『軽銀の衣』と『軽銀の棘』を装備した格好で、国王の部屋でうろうろしているシンイチ。
心配のあまり落ち着かない。

「大丈夫だよ。メアリーは魔王級の力を持っているんだから。ウンディーネちゃんもドンコイさんもいるし、精鋭の兵士で固めているし」
「でも、女の子を身代わりにするなんて・・」
「シンイチはメアリーの一万分の一も強くないけどね」
「それでも心配なの!!」
シンイチが叫ぶ。

「大丈夫だよ。メアリーお姉ちゃんならうまくやってくれるよ」
アンリが慰める。
「うう・・こんな小さい子まで心配かけて・・情けないお兄ちゃんでごめんな」
アンリの頭を撫でるシンイチ。
「全く・・シンイチはいつまでたっても弱いままだね。でもそれがいいのかもね」
シルフが笑った時

「ふふふ・・・探しましたわよ勇者様。やっとお会いできましたね」
部屋の中にいきなりメルトが現れた。

謁見の間
「こ・・これはいけない。早くシンイチ様のところに・・」
舌を噛んで血と唾を混ぜ合わせ、魔力を込めてエリクサーを作るウンディーネ。
ドンコイの所まで這っていき、口移しで飲ませる。
「くっ。ウンディーネ殿。ありがとうございます。動けるようになった。」
「は・・はやくシンイチ様の元に。・・メルト王女を止めてください」
「お任せください」
ドンコイは起き上がると、一目散に国王の間に駆けていった。

「メ・・メルト王女・・なぜここに」
「ふふ。怖がらなくてもよろしくてよ」
黒い笑いを浮かべるメルト
「シンイチから離れろ!!」
「お兄ちゃんから離れて!!」
シルフとアンリが叫ぶ。

「ふん。『時空結界』発動」
メルトが叫ぶと、シンイチやシルフたちを囲むように結界が現れた。
「な・・・何をするつもりだ」
シンイチが震える。

「ご安心を。その鎧があるせいで、貴方には危害を加えるような魔法が通用しません。ですから、私の過ちを正すだけですわ」
「過ち・・?」
「地図魔法発動。『ホームランド』。さあ、貴方の最も長く過ごした場所を思い浮かべなさい」
シンイチに魔法をかける。
すると、元の世界の自分の部屋の映像が浮かんだ。
「こ・・これは。俺の部屋だ・・」
「ふふ。たとえ次元の壁を越えても、この魔法で場所を認識できます。次は貴方をそこに帰すまで」
「帰すだって・・帰れるのか・・」
思わず声を漏らすシンイチ。

「シンイチ!!」
「だめ!!お兄ちゃん!!いかないで!!!」
シルフとアンリが叫ぶ。
「ついでにそこの二人もお土産に付けてあげますわ。心置きなくおかえりください。帰還魔法『トランスポート』発動」
シンイチ達に強力な魔法がかけられ、部屋が光で満たされる。

「シンイチ殿・・くっ、なんだこの光は」
部屋に駆け込むと同時に強い光に目を射られ、思わず目を覆うドンコイ。
光の中にシンイチ達は消えていった。

「あっははははは。ドンコイの豚殿。一足遅かったわね。偽勇者シンイチはふさわしい居場所にお戻りいただいたわ。もう二度と現れないでしょう。あははははは」
光が収まると、狂ったように笑うメルトが現れた。
「あはは、それでは私はこの薄汚い城から帰らせていただきますわ。わが夫の下へ」
『転移の玉』を使おうとするメルト。
「そうはさせん!『奴隷の首輪』よ。締まれ。」
ドンコイが命令すると、メルトの首輪が締まり、メルトは呼吸困難になった。
「な・・なぜ貴方が・・」
「奴隷譲渡書の主人の欄にはすでに私の名前を書いてある。貴女を逃がすわけにはいかない!!」
締まり続ける首輪。
「くっ・・・この私が・・こんな豚の奴隷に・」
メルトの手から『転移の玉』が落ちる。メルトは気絶した。

ヒノモト城の上空で散々魔法を打ち合っているノーマンとメアリー。
全く互角に戦っていた。
「ふん。人間の分際で・・」
「魔王に匹敵する力だね・・何者なんだ・・」
殆ど同じ魔力量なので勝負がつかなかった。

「ん?どうやら上手く行ったようだな。ふふふ。ここは退散させてもらおう」
ヒノモト城の一部に魔力発動を認めて、ノーマンが笑う
「まさか・・」
「ふふ。偽勇者は自分の世界におかえりいただいた。もう二度とここにはこれまい」
「そんな・・嘘だ!!!」
「ははは、いずれ真なる王アーシャが来てお前たちを皆殺しにするだろう。その時までせいぜい楽しむがいい」
そういうと、ノーマンの姿は消えていった。
「そんな・・シンイチがいなくなったらボクは・・お願い。ボクをおいていかないで」
メアリーはシンイチの部屋に飛んでいった。

日本にて
光の中からシンイチ、シルフ、そしてアンリが現れる。
「・・・帰ってきてしまった」
シンイチがポツリと漏らす。
まさしく、日本の自分の部屋だった。
母親が掃除をしていてくれているようで、きちんと整理されている。
シンイチの表情は嬉しさ半分、後悔半分といったところ。

「とりあえず、一階に降りてみよう」
懐かしい自分の家の階段を下りていくシンイチ。
アンリとシルフがあわてて付いていった。

「今は・・お昼の12時か。さすがに誰もいないかな?」
時計をみてつぶやくシンイチ。
父親の雅彦は小さい信用金庫の行員で、母親は専業主婦兼妹の付き人。
そして妹は人気絶頂のアイドルグループの一員。
当然、この時間は誰もいないと思っていたのだが・・・。
リビングにはカップラーメンをすする中年男がいた。

「父さん!!久しぶり。帰って来たよ」
後ろから声をかけるシンイチ。

「シンイチ?本当にシンイチなんだな!!!よく帰ってきてくれた!!」
シンイチを抱きしめて喜ぶ雅彦。
シンイチは照れながらも、よくやく帰って来た実感が沸いて来た。

「いや、無事でよかった。ところでその子たちは・・?」
アンリとシルフを見て聞いてくる雅彦。
「ああ、紹介するよ。向こうの世界で世話になった二人だよ。こっちの女の子はアンリ。」
「は・・はじめまして。おじさん。アンリといいます。お兄ちゃんには仲良くしてもらっています」
ペコリと頭を下げるアンリ。犬耳と尻尾もペタンと下がっていた。

「んで、こっちの羽虫はシルフ」
「羽虫ってなによ!!!シンイチを世話してあげているシルフだよ。よろしくね」
シルフが雅彦の周囲を飛び回る。
「えーっと。とりあえず、今までの事を説明してくれ。お前が単に家出したんじゃないというのはなんとなくわかったから」
雅彦に言われる。
お茶を飲みながら召喚されてからの事を話すシンイチ。
アンリはお菓子に夢中になって食べていた。

いきなり召喚されて、魔王を倒すように言われた事。
しかし期待外れで弱かったので、魔王に対しての生贄にされたこと。
必死に考えて、機転を利かせて魔王を倒した事。
奴隷にされかけたことから、苦しんでいる人を助けたいと思った事。
魔族からの信頼も得てヒノモト国という国を建国した事。
ヒノモト国を発展させるため、中途半端な知識ながらもできるだけのことをした事。
各国を回って技術提供をし、信頼を得た事。
天使の使徒という新たな敵が出てきて、戦った事。
そして、自分を召喚した少女にこちらに送り返された事。

三ヶ月ちょっとの期間ながら、いろいろな経験を積んだことを父親に話すシンイチ。
すべて話し終える頃には夕方になっていた。
「信じられん・・・とは言わないでおこう。しゃべる妖精が飛び回っているし」
シルフを見て言う雅彦。
シルフは異世界の物が珍しく、あちこちに飛び回っていた。

「だが、その道具袋とやらは本当に何でも入るのか?試してみてくれないか?」
「いいよ。『収納』」
雅彦に触って収納するシンイチ。
「父さん出ろ」
すぐに道具袋から取り出す。
「なんというか・・・すごいものだな。一瞬で別世界に行ったぞ」
興奮して喜ぶ雅彦。
「まあ、俺は中に入れないんだけどね。一回入ったら出られなくなるから」
シンイチが言う。
「そうか。しかし、いい経験をしたじゃないか。お前は異世界に行く前よりたくましくなっているぞ」
そういって雅彦は笑った。

そうしている内に、玄関から音がして「ただいま」という声がした。
「おっ。晴美が帰って来たな。おーい。シンイチが帰って来たぞ」
リビングから雅彦が声をかけると、妹の晴美が駆け込んできた。
「お・・・お兄ちゃん」
「よっ。ただいま」
シンイチが軽く声をかける。
「お・・」
「お?」
「お兄ちゃんのバカ!!!!心配させて!!!!どこにいってたの!!」
大声をあげてシンイチに掴みかかる晴美。
胸倉を掴んで揺さぶる。

「ちょ・・晴美・・はなし・・くるし」
「お兄ちゃんのバカ!!バカ!!」
涙を流しながら首を絞め続ける晴美。
「お兄ちゃんを苛めないで!!!!」
見かねてアンリが割ってはいる。

「お兄ちゃん?この子だれ?お兄ちゃんってどういうこと!!!お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの!!」
「ちがうもん!!お兄ちゃんは私とミスリのお兄ちゃんだもん!!!」
シンイチを取り合う二人。

「ちゃんと説明して。何があったの?」
「お母さんが帰ってきたら説明するよ。長い話になるから・・そういえばお母さんは?」
シンイチが言う。
「ああ、今はスーパーでパートしてもらっているんだ」
「え?そう言えば、なんで父さんが平日の昼間に家にいたんだ」
「実は・・・リストラされてしまって・・失業中」
「はい?」
「ついでに言うと・・・私はアイドルグループを辞めされられちゃったの。てへ☆」
ハルミが笑う。
「てへ☆じゃないでしょ。俺がいない間に何があったんだよ」
いない間に激変してしまった家庭環境にシンイチは驚いた。

「漫画みたいな話だが、最初は信用金庫の大口取引先から晴美を紹介しろって話が来たんだ」
雅彦の職場でも晴美の事は知れ渡っており、課長をしていた雅彦に話が来た。
娘の事は信用金庫の仕事と関係ないから、そういったことは芸能事務所を通してくれと断る雅彦。
出世をちらつかされたが、あくまで私事と公事を分けて引かなかった。

そうすると本当に取引停止をちらつかせてくる大口先。
勤め先の信用金庫から泣きつかれ、板ばさみになって苦しむ雅彦を見かねて、大口先主催のパーティに晴美は参加した。

「そこで紹介された大口先企業のオーナーってのが、ボンボンのキモヲタデブで・・・しつこく交際しろって言い寄ってきたの。最後には女子トイレの前で待ち伏せされて、パーティ会場のホテルの部屋に連れ込まれちゃった」
「おい!!!!!大丈夫だったのか?」
血相を変えて心配するシンイチ。

「大丈夫。思いっきりキ○タマ蹴り上げてやったから。でもそこをフォーカスされて、週刊誌にあることない事書かれちゃって・・辞めさせられたの」
「そんな事があったのか・・」
「結局、そんな事があったので、私を辞めさせないと取引を再開しないと圧力がかかったらしい。相手は株式上場までしている大企業だ。小さい信用金庫にとってみたら最上の顧客だからな。まあ、私もうんざりしたので辞めたよ」

「父さんたちも苦労したんだな・・・。」
「ふふ。心配しなくていいぞ。シンイチがこの家に帰ってくるかと思ってなんとかローンも貯金から返していたが、無事に帰って来たのでもう安心だ。この家を売れば借金は返せるから、爺さんの家がある田舎にでもいって再起をしよう。」
「私も田舎でやりなおす。皆で頑張ろう」
手を振り上げる晴美。

「いや・・。金の問題は心配いらないよ。こう見えてもヒノモト国の王様だから」
胸を張って言うシンイチ。

「お兄ちゃん・・・王様って?頭大丈夫?」
晴美が心配そうに言う。
「お母さんが帰ってきたら全部話すよ。とりあえず、そのバカボンには仕返ししてやろう。信用金庫も買い占めてやるかな?」
シンイチはそう言って黒い笑みを浮かべた。

「ただいま」
玄関で声がして、母親の紀子が帰ってくる。
「お母さん。おかえり。そしてただいま」
シンイチが迎えにでる。
シンイチの姿をみた母親は無言で抱きしめた。

「さっきも言ったけど、お金の問題なら簡単に解決するよ」
シンイチが言う。
「しかし、子供がどうにかできる額ではないからな。だが、心配しなくていいぞ。私も就職口を見つけて働くからな。」
雅彦が言う。

「とりあえず、これをみて。『アル金貨100枚』出ろ。」
道具袋から金貨を取り出すと、テーブルいっぱいに金貨が現れた。
「お、おい。これは・・」
「あらあら」
「すごい!!!」
雅彦達が驚く。

「まあね。2000年も続いた魔国の元主城だから、その財宝もとんでもない額になるんだよ。すごいだろう!」
偉そうにそっくり返るシンイチ。
「まあ・・確かにすごい」
「あらあら。今夜はお祝いね。久しぶりにご馳走しましょうか」
シンイチが帰って来たということで、お祝いをする家族たち。
寿司にてんぷら、ステーキとご馳走を並べた。

深夜、晴美はシンイチの部屋をノックする
「はい。入っていいよ」
「うん。こんな夜遅くごめんね」
晴美が入ってくる。

「いいよ。俺も晴美と話をしたかったし。でもアンリが寝ているから静かにね。」
ベッドの上ではアンリが安心しきった顔で寝ていた。
「よく寝ているね」
「ああ。知らない世界に来て不安だったんだろう。俺が各国を回るときにもつき合わせてしまったし。」
アンリの髪をなでるシンイチ。
その様子をみて胸が痛くなる晴美。

「あ、あの。お兄ちゃん。お帰りなさい」
「ああ。ただいま。晴美には心配かけたね」
そういって笑うシンイチは、よく知っている兄の笑顔だった。
思わず抱きつく晴美。
「お兄ちゃん・・お兄ちゃん・・」
言いたい事があるのに言葉が出てこない。
シンイチは晴美を優しく抱きしめた。

「ねえ・・お兄ちゃん。やっぱり向こうの世界に行っちゃうの?」
晴美がシンイチの服のすそを掴んで不安そうに言う。

「うーん。今向こうは大変な状況だし、俺を頼ってくれる人もたくさんいるから、やっぱり向こうに行かないといけないな」
「私達をまた置いて?」
「いや。というより、晴美も一緒に行かないか?」
「え?」
「道具袋に入ってくれれば、家族全員で向こうに行けるよ。こっちじゃ一般人でも、向こうじゃお前はプリンセスだぞ」
「プリンセスって・・。」

「俺の妹だから王妹。それに手伝ってもらいたい事もあるしさ」
「それは?」
「向こうで俺は劇場も作ったんだ。こっちの世界の音楽とかも思い出せる範囲は導入したけど、所詮素人だしなぁ。曲がりなりにも本物のアイドルだったお前が来てくれたら、あっちの文化が大きく向上すると思うんだよ。やりがいはあるぜ」
「本当?なんか行きたくなってきた」
「ああ。どうせ家族全員で田舎に行ってやり直すなら、いっそ異世界に行った方が面白いぞ」
「うん。なんか楽しくなってきた。これからもお兄ちゃんとずっと一緒にいられるし。それじゃ音楽とかたくさん持っていかないとね」
晴美の顔がほころぶ。

「おう。任せておけ。道具袋はいくらでも入るから、いくらでも持っていけるぞ」
シンイチも笑う。
離れていた時間を埋めるように、二人は朝まで話し込んだ。
朝食の席で、家族にも異世界に来て欲しいと言うシンイチ。

「お父さんが言ってたけど、どうせ田舎に行くんなら、異世界の俺の国の方がやりがいがあるよ。まだできて2ヶ月ぐらいの国だから、人手が足りないし、社会制度もちゃんとしたものができてないから一から作っていく。やりがいはあると思うよ。」

「ふむ。面白い。、私は金融部門で力になれるだろう」
「あらあら、それじゃ料理でも広めましょうか」
雅彦も紀子も乗り気になり、シンイチに協力することを約束した。

今日は日曜日だったので、家族で揃って街に出た。
昼食後、家電売り場にいくシンイチ達。
「それで、何を買うんだ?」
「いずれは異世界にも電気を持ち込みたいから、いろいろ買っておこう。今は使えなくても、将来見本になったりするから」
そういって小型の家電製品と電池を大量に買う。

「ね、ねえ、シンイチこれってなんなの?」
姿を消してついてきていたシルフがパソコンを見て驚く。
「ああ、説明が難しいんだが、情報をやりとりする道具、かな?なんでシルフそんなに驚いているの?」
「だって、この中に世界が入ってるんだもん!!」
「はい?」
シルフの説明に首をかしげるシンイチ。
「わ、私ちょっと入ってみるね」
そういうとシルフの気配が消える。

「ち、ちょっとシルフ、どこにいったの?」
「やっほーシンイチ。この中ってすごく快適だよ」
近くのパソコンを見ると、画面の中に見慣れた精霊の姿が映っていた。

「ちょ!シルフなにやってるんだよ」
「んー。ちょっとまって。ははぁ、なるほど、こんな構造になっているんだ。」
シルフが画面の中で一人で納得している。
「どうやら、私達精霊ってある種の電気構造でできていたみたいだね。つまり自分の意思をもって動くデータ。だからこの電子世界に簡単に入れるのか。シンイチの世界ってすごいね~。新しい異世界をすでに自分たちの手でつくりかけているのか」
「ち、ちょっと。騒ぎになるから早く出てきなよ」
シンイチが言う。

「え~。もうちょっと。なんかこの中ってあったかくていい気持ち」
「家に帰ったら古いパソコンもあるから!」
「じぁあ、私専用のこれも買って!!」
「わかったよ・・」
結局シルフの分も含めて5台購入することになった。

シルフをなんとか宥めてパソコンから出てもらったシンイチ。
「あれ?そういえば皆は?」
「アンリちゃんはご両親と一緒にいるけど、ハルミちゃんはさっきどこかに行ったよ。トイレかな」
「そうか。」
「あれ、待って!なんかハルミちゃんに対する害意を感じる。急いで!こっちだよ」
シルフの先導で、あわてて走るシンイチ。

女子トイレで身だしなみを整える晴美。
(もっと可愛くしなきゃ。お兄ちゃんを取られちゃう。よし!可愛い)
気合を入れなおしてトイレから出たところ、いきなり男達に囲まれた。

(これは・・いや!!まさかまたアイツの・・・)
「おとなしくついて来てもらおう」
「なに、一回付き合えば会長も満足するさ」
「ふふ。その後は俺たちとも付き合ってもらうがな。元アイドルかよ。たまんねぇぜ」
「これ以上逆らったら、オヤジもどこにも勤められなくなるぜ」
次々に野卑な言葉を浴びせられる晴美。

「まさか、あんた達が・・」
「ふふ。たかが銀行のリーマン程度、首になったらどこも雇ってもらえねえよ。電話一本で済むさ」
「そうとも知らず必死こいて頭下げて職探ししてんだからな。笑えるぜ」
男達が笑う。
「許さない!!」
晴美が暴れるが、簡単に取り押さえられる。


「お前等!!何やってんだ!!」
その時、シルフに連れられて、シンイチが到着した。
「ああ、さっきこいつと一緒にいたガキか」
「黙ってな。坊や」

男達が嘲笑う。
「貴様等・・」
シンイチの顔が怒りに染まる。


「お兄ちゃん・・。」
晴美がすがるような目で見る。

シンイチは無言で男に手を触れ、反対側の手を道具袋に入れて「収納」と念じる。
男の姿は一瞬で消えた。
「え?」
「ケン?どこいった?」
男達が周りを見渡す。

「ケン君は今頃岩山のあたりでバカ面さらしているだろうよ。次はお前たちだ。『収納』」
シンイチが地面に手をつけて『晴美以外を収納』と念じて道具袋に手を入れると、男達は道具袋に収納された。

「・・・え?あいつらどこに行ったの?」
いきなり男たちが消えて、びっくりして泣きやむ晴美。

「もう大丈夫。全部この中に入れてやったから」
そういって道具袋を叩いて、安心させるように笑うシンイチ。
「・・お兄ちゃん!」
晴美が抱きついてくる。

「よしよし。晴美が辛い時についててやれなくてごめんな。これからはずっと一緒だから」
そういって優しく頭を撫でる。
晴美はシンイチの腕の中でずっと泣いていた。

「・・・そんな事があったのか」
厳しい顔をして雅彦が言う。
帰りの車の中で、晴美は疲れたのか眠っていた。
「とりあえず、明日からはシルフに晴美についててもらおうと思う」
「うむ。私の方でも積極的に動いてみよう。とりあえず金貨を換金して、こっちも力をつけないとな」
「警察はあてにならないの?」
「・・・決定的な事が起きない限り、相手にされないな。」

「ねえ、会長って何者なの?」
「井山修司、上場している大手メーカーのオーナーで、創業者の一族。井山家は元々暴力団との関連も深いらしい。手下になる人間はいくらでもいるだろうな」
「とりあえず、俺も動いてみるよ。俺のやり方で」
「おいおい。危ないことは・・」

「大丈夫。こう見えて修羅場をくぐってきたんだから。魔王に比べたら暴力団なんて可愛いものさ」
(絶対に叩き潰してやる。まっていろよ)
シンイチは暗く笑った。
居室のパソコンで人体に関する事を調べるシンイチ。

「なるほど・・この方法なら人体に傷をつけなくても簡単に気絶させられるな。たとえ天使の使徒に道具袋が通用しなくても、人間である以上この弱点は有効だ。あと天使対策だけど、もし実体がない相手だとどう有効に道具袋を使うか・・・実体がない、か。」
パソコンを前にうなっているシンイチ。

そこで画面にシルフが映る。
「ただいまシンイチ。いやー電脳世界はすごいね。私すっかりこっちの世界のこと詳しくなったよ」
インターネットに直接潜って情報収集をしているシルフ。

「わかった。他には?」
「大帝グループのことについて何かわかったかい?」
雅彦が聞いてくる。

「うーん。今の時間につながっているラインの情報ではよくわからなかった。調べてみるよ」

「ちゃんと明日の朝には帰って来てくれよ。晴美を守ってほしいんだから」
「いいよ。安心して任せて」
そういって再びシルフはネットの世界に潜っていった。



次の日

裏山の人気がないところに来るシンイチ。

「ここならいいかな。『一番話がわかりそうな奴でろ。素っ裸で』」
道具袋に手を突っ込んでチンピラ達の一人を出す。

「ひぃぃぃぃ。」
シンイチの姿をみたら、後ずさりした。
「おい。聞きたいことがある。」

シンイチが声をかけると、男は後ろを向いて逃げ出した。
「しょうがないな。にげられっこないのに。『収納』」
地面に手をつけて再び収納する。


一時間くらいたってから、もう一度道具袋から取り出すと今度は逃げようとしなかった。
「た・・・頼む。許してくれ。俺は組長から言われて従っただけなんだ」
素っ裸で土下座するチンピラ。

「ふん。まあいい。お前等の組がある場所を言え」
シンイチが住所を聞きだす。
「も、もういいだろ。見逃してくれよ」
男が震えながら言う。

「残念だがそれはできないな。お前が今から知らせに行かないという保障はない」
「そんな!!俺はもうヤクザ辞めるよ。田舎に帰るから」
「ヤクザも辞めさせない。そんな言葉を信じられないからな」
フフッとシンイチは笑う。
見た目はひ弱そうな少年だが、その笑いには風格があった。

「そんな・・・じゃどうすればいいんだよ!」
「ふふふ、お前等みたいなヤクザに対しては、もっといい使い道があるんでね。」
「お、俺たちをどうするつもりだ」
「怒りのあまりお前達を叩き潰すのは簡単だ。上に立つ人間はもうちっとマシな考えをする。ほれ」
道具袋から何かを取り出して投げつける。
あわてて見て見ると、キラキラと輝く金貨だった。

「こ・・・これは?」
「お前の名前は?」
「松居洋二。」
「わかった。じゃ洋二、服を着ろ。美味い物でも食べに行こうぜ」
そういって洋二の服や財布を取り出して着せる。
洋二はビクビクしながらシンイチについて行った。

「おいおい正気かよ。今から組を潰しに行くって?屋敷には50人は詰めているんだぜ」
街のレストランで食事しながら洋二が言う。
「俺は数千人を一瞬で消したこともあるけどな」
平然と言うシンイチ。

「あ・・あんたの魔術はよくわかった。だけど、なんでそんな事俺に話すんだ?」
「敵を壊滅させるのは将、敵を懐柔して味方にするのが王ってもんだ。とりあえず、とっとけ」
道具袋からさらに金貨を100枚ほど出して洋二に渡す。

「お、おい、これは・・」
「契約金だよ。アンタだってあんなチンピラまがいの事いつまでも続かないぞ。警察に捕まったら切り捨てられる単なる捨石だろう」
「それはそうだけど、組の命令には逆らえねえよ」
「心配するな。組ごと抱え込んでやるから。」
「そんなことできんのかよ・・」

「一応聞くが、成人しているんだろうな」
「あ、ああ」
「なら好都合だ。これから役に立ってもらうぜ」
再びシンイチは笑う。
洋二はその笑いに気圧された。

「お、おい。これ本当に金じゃねえか。120万にもなったぞ」
「そうか。とりあえず全部やるから持っとけ」
金貨買取店から出てくる洋二に平然というシンイチ。

夕方。

興竜組の門から離れた所で監視するシンイチ。
一台の黒塗りの車が入ってくる。

「あれが組長の車だな。組長は必ずお嬢さんを自分で迎えに行くんだ。親ばかでな」
洋二が言う。
「へえ。ヤクザの癖に子煩悩なんだ」
「お嬢さんはアイドルもしている美人だからなぁ。目に入れても痛くないほど可愛がっているぜ。組員達からも人気が高いし」

「ふん。そのくせ人様の大事なお嬢さんをさらおうとするんだからな。根性曲がっているぜ」
「まあ、大人の事情だよ。餓鬼にはわからんさ」
「大人の事情じゃなくてお前等の手前勝手な事情さ。もういい。お前も道具袋に入ってろ」
「ち、ちょっと待てよ。協力したら許してくれるんじゃなかったのかよ!」
「まだ協力は終わってないだろ。後からお仲間もいくから、せいぜい説得に役に立ってくれよ」
まだ何か喚いている洋二を問答無用で道具袋に入れる。

「さてと、お仕置きと行きますか」
シンイチは組長の屋敷の塀に近づいていった。

「お父様、まだあの晴美を連れてきてないの?」
組長の娘、藤岡朝美が父親に聞く。

「ああ、まったくどこをほっつき歩いておるのやら、役に立たん奴等ばかりだ」
がっしりとした体に悪人面の組長、藤岡竜司が忌々しそうに言った。

「あいつをグループから追い出しただけじゃ足りないわ。修司おじさんの慰み者になってもらわないと」
朝美が顔を歪ませて言う。

もともと朝美は晴美と同じアイドルグループに属していたが、、晴美に人気で差をつけられて妬んでいた。

芸能界から追い出したものの、それだけでは気が済まず、組の若い衆に命令してさらわせようとしている朝美。

「とにかく、あの女が泣き叫ぶ所を早く見たいわ」
「わかっておる。我々に逆らった馬鹿な女だ。程なくして連れてくるだろうさ」
そういって顔を見合わせて笑う二人。

「親父。そして朝美もいい加減にしろよ。カタギに手を出しやがって」
竜司の息子で、朝美の腹違いの兄にあたる藤岡誠司が諌める。

「こんな事続けていると組ごと潰れるぞ。ただでさえ俺らみたいな任侠道に風当たりは強いんだ。カタギに手をだすんじゃねぇ」
「黙れ若造。芸能の道はワシらのシノギなんだ。それに、親である井山家に逆らうつもりか?」
「あ?あんな変態バカボンにいつまで尻尾振っている気だよ。先代と器量が違いすぎるぜ。好き放題しやがって。」
「ふん。シノギ一つまともにできてない半端者が。大人のやる事に口を挟むな」
「シノギっていったって、うちがやっているのは大帝製紙から金もらって汚い事をしているだけじゃないか!!大人のやる事ってのはバカ娘やバカボンのいいなりになって、罪もない娘をさらうことなのか!」
「やかましい!でていけ。お前なんかに家は継がせん。朝美にまともな婿を迎えさせて継がせる」
誠司を殴りつける竜司。

「・・・上等だぜ!誰が外道ヤクザなんかを継ぎたがるかよ。任侠道を忘れて外道に堕ちやがって」
誠司はそういって部屋から飛び出した。

(くそ!上等だぜ。いい機会だ。この家から出て行ってやる!)
そう言ってリュックに荷物を詰めていたら、いきなり周囲が真っ白になった。
「な、なんだこれは。どうなっているんだ!!」
白い空間に誠司の絶叫が響き渡った。
「よし。気持ちいいくらいに綺麗に消えたな」
外から門番や組員が消えているのを確認するシンイチ。

裏にまわり、塀に手をつけて『この屋敷内の人間と物を全部収納』と念じて、自動車を含めて建物以外のすべてを収納する。
(しかし、我ながら卑怯で理不尽だ。ヒーローだったら正面から乗り込んで行くんだがな。ま、別に俺は正義じゃないし)
そんな事を思いながら、悠々とその場から離れるのであった。

まったく何もない白い空間に投げ出される誠司たち。
白い床には建物内の家財道具が転がっていた。

あちこちで呆然としたヤクザが立っている。
視界の遠くには、岩山のようなものが見えるが、他には白いだけの空間が広がっている。

「お、おい。これはどうなったんだ。何があったんだ。説明せんかい!」
竜司が大声で部下に怒鳴っている。
「さ、さあ。俺らにはなんとも・・・」
部下の男達も訳がわからないで呆然としている。

「何よ!使えないわね。さっさと説明しなさいよ!」
朝美がキーキーと喚く。

その様子を冷たく見ていた誠司は、一人だけ様子が違う男を冷静に捉えていた。

「おい。洋二。お前は何か知っているだろう」
誠司が問い詰める。
「わ・・若。何のことだかさっぱりで」
洋二がとぼける。

「ふざけるな。真っ先に食べ物や飲み物を拾い集めているじゃないか。他の者は呆然としていたのに」
鋭く誠司が突っ込む。
「い、いや・・あの」
「洋二。てめえ!今までどこに居やがった。娘は捕まえてきたんだろうな!他の奴はどうした!」
竜司が気がついて怒鳴りあげる。

「く、組長。話せば長い話になるんで・・・」
「やかましい。さっさと話せ。」
そういって洋二を殴りつける竜司。
その時、遠くの岩山から、洋二以外のチンピラが必死に走ってくるのが見えた。

「なるほど。晴美とかいうカタギの娘をさらおうとしたら、側にいた男にこの世界に飛ばされたということか」
チンピラ達の話を聞いて要点をまとめる誠司。

「てめえら!興竜組の者が素人にあしらわれたのか!」
竜司が怒鳴りあげる。
「親父!ちょっと黙っててくれ。話がすすまねぇ。おそらく俺たちをここに飛ばしたのもその男だろう」
誠司が考え込む。

「そいつ、絶対ぶっ殺してやる」
一緒にこの世界に飛ばされた物の中から拳銃を探し出して振り回す竜司。
「ぶっ殺すも何もそいつがここにいねぇんじゃ何もできないだろう。チンピラみてえにチャカ振り回してんじゃねぇよ」
誠司に諭され顔を真っ赤にする竜司。

「てめえ!」
「それで、洋二は一回そいつに元の世界に帰されたんだろう。そいつは何を言っていた?」
竜司を無視して洋二に聞く。

「へ、へぇ。何でもそいつの味方につくように俺に皆を説得しろと。組ごと抱え込むって言ってました」
「・・・そいつ、正気か?」
「生意気な餓鬼なんだけど、妙な迫力があるというか。あと、金になる物も持っているようでした」
そういってシンイチに渡された金貨を見せる。

「これは本物の金貨なのか?」
「え、ええ。金貨買取の店で100枚売ったら、120万になりました。くれてやるからもっとけって」
「てめえ!裏切りやがったな。ぶっ殺してやる」
竜司が拳銃を突きつける。

「バカ親父。黙っていてくれ。こいつを殺してなんになるってんだ。コイツが裏切るつもりだと、金貨のことまで正直に話したりしねぇよ。」
誠司が諌める。
「・・・いいだろう。だが、その金はこっちによこせ。てめえみたいなチンピラには必要ねぇ」
銃を突きつけられて、せっかくの120万円を取り上げられる洋二。
「・・・・」
「なんだその面は。ああん?」
「親父!いい加減にしろ。洋二、良くやってくれた。おかげで大体の事がわかった。皆で考えよう」
そういって皆に説明する誠司だった。

夕方


「ヤクザ達はもう大丈夫だとおもうよ」
シンイチが思い出して言う。

「どうしたんだ?」
「あれから組長の屋敷に行って、この中に収納してきたから」
道具袋を持ちあげて言う。
「ちゃんと言ったようにしたか?」
「うん。この中に人間も家財道具も自動車も入っている。」
「・・・そう考えると、薄気味悪いな」
「この中にヤクザ達が入っているんだ~。もしかして武器とかも入っていたりして」
晴美が恐ろしそうに言う。

「それで、味方に懐柔できそうな人はいるか?」
「微妙だね。だけど、道具袋には選別の機能もついているから、話のわかる奴から順に一人一人気長に説得してみるよ」
「ああ、その道具袋があればなんとかなるだろう。だが危ないから私も立ち会おう。一人でするなよ」
「わかった。頼むよ」
そういってシンイチは道具袋の紐をしっかりと締めた。

「皆、ただいま。面白いことがわかったよ」
つけたままにしているシルフ専用のパソコンから出てくるシルフ。

「おかえり。面白いことって?」
シンイチが聞く。
「まず、弱みになりそうな事が3つあった」
シルフが井山修司の個人パソコンから拾ってきた情報をパソコンに公開する。

①井山修司はいろんな女の子に無理矢理いかがわしい事をしていた。
②子会社から書類を作らず無理矢理金を借りて、ラスベガスのカジノで豪遊していた。その損害額が約100億円。


それぞれ証拠となるデータを出すシルフ。

「シルフ君、よくやってくれたよ。警察とマスコミ各社に証拠つきでメールしてくれ。マスコミが騒げば警察も捜査を開始するだろう。」
雅彦がシルフに依頼する。

「役に立ったかな?今私は電脳世界で分身をたくさん作ってデータ収集をしているから、面白い情報がわかったらまた持ってくるよ」
「ああ、頼むよ」
雅彦が言うと、シルフは笑ってネットに潜っていった。

シンイチ達が日本て動いている頃
ヒノモト城。



ヒノモト国では必死に勇者召喚とシンイチ捜索の方法を探っていた。

「・・・勇者召喚の儀式の全容を知るのは、メルト王女のみ。ならば、私が聞き出さなければ・・」
白紙でできている魔術書を持って地下牢に赴くドンコイ。アンスとハッツも何かが入った包みを抱えてついてくる。
地下牢ではメルト王女が腕と足を拘束されていた。

「何かしゃべる様子ですか?」
警備をしている兵士に聞く。

「いいえ、何もしゃべりません。食事は取らせているのですが・・」
「拷問はしましたか?」
「いえ、ウンディーネ様より止められています。我々は誇り高きヒノモト国の者として、拷問などすべきではないと」
「・・・ウンディーネ殿らしい。しかし、手を汚す者は必要です。ヒノモト国の者ではない、私がさせていただこうかと」
「し、しかし、ドンコイ殿は大切なお客人。その様なことなど・・」
「私はどうせ恨まれております。これ以上彼女の恨みを買う者を増やす必要はないでしょう。私に任せてください」

「わかりました・・」
「では、申し訳ありませんが階段の上でお待ちください。私も人間としての恥をさらすところをあまり見られたくないのです」
「・・・はい」
兵士たちが地下牢の入り口まで下がり、牢はドンコイ達とメルトの四人きりになった。

「さて。では一応お願いしましょう。我々も拷問などしたくはない。この魔術書に勇者召喚術式を念写してください」
ドンコイが何も書かれていない魔術書を見せる。
この白紙の魔術書に術式を理解している術者が思い浮かべて魔力をこめると、魔術を写し取る事ができるのである。
「・・・」
顔を背けて無言を貫くメルト。

「やはり自発的にはしていただけませんか。では、誠に失礼ながら、拷問を開始されていただきます」
ドンコイが冷たく言う。

そうしておいて持ってきた包みを開き、服を脱ぐドンコイ。

目には蝶のマスクをし、手には羽ほうき、そしてフンドシ一枚。足にストッキングを履き、メルトに近づくドンコイ。どう見ても変態である。
膨らんだ腹をピシピシとたたきながらメルトに近づく。

「ち、近寄るな。この下郎」
「ふふ。早く勇者召喚魔法をこの本に写すのです。さもないと・・」
太った腹をゆすってドンコイはいやらしく笑った。

「あはは、きゃはは、やめ、やめなさい、この無礼、者!」
「早く吐かないと窒息いたしますぞ。ほれ。ほれ、ここがいいのんか?」
手に持った羽ほうきでメルトをくすぐっていくドンコイ。
メルトは笑い、咳き込み、体をくねらせていく。

「な。なあ、変な気持ちにならないか?」
「高貴な美少女が変態オッサンに責められて笑う姿・・目の毒だ」
そういいながらも目が離せない二人だった。

「はぁはぁ、なかなか強情ですね」
「はぁはぁ、このような拷問などいくらでも耐えて見せます」
同時に荒い息をつくドンコイとメルト。
「やむを得ません。では次の拷問をさせていただきましょう」
そういってアンスたちに命令して台をもってこさせる。
「な、何をするつもりですか」
悪い予感に震えるメルト。

「このパピヨンドンコイのすべてをさらけ出しましょう」
そういってメルトの目と鼻の前で台に昇るドンコイ。
「一応聞きますが、まだ強情を張りますか?」
「くどい!アーシャ様の敵、偽勇者シンイチなど、向こうの世界におればよい!」
気丈に言い放つ。

「そうですか・・ところで、王女は男の尻を見たことはありますかな?」
「汚らわしい。その様な事があるわけがなかろう」
「では初体験ですな。とくとごらん遊ばせ」
シュルっと音を立ててフンドシを外すドンコイ。
牢内にメルトの絶叫が響き渡った。

「うわ・・・ゲロッ」
「まともに見ちまった」
尻をメルトに向けているドンコイ。当然前には二人がいる。
「俺、兵士辞めようかな・・」
「なんでこんなとこであんな粗末なモノ見ないといけないんだよ・・」
なえる二人。

「け、けがらわしい。早く向こうにやらぬか!目が腐るわ。鼻が匂うわ!」
「ふむ、では尻を向こうにやりましょう」
くるりと反転するドンコイ。ちょっと興奮している。
「・・・?」
予想に反して何の叫び声もあげないメルト。
ドンコイが確認すると、既に気絶していた。

道具袋の中。
一日がたち、組員たちも空腹を感じてきた。
段々と殺伐となってくる。


「組長、俺らにも食い物と飲み物を分けてくださいよ」
組長に迫るチンピラ達。

一緒に道具袋に入れられた食料は竜司が独占しており、娘や自分のお気に入りの組員たちのみに分けていた。
「ふざけんな!飯くらい自分で探して来い!」
竜司が言い放つ。
次第にチンピラ達や他の組員も竜司を冷たい目で見始めた。

「親父。そいつらに分けてやれ。2日も食べてないんだから。朝美はさっきも食べただろう」
袋菓子を食べている朝美を諌める誠司。
「欲しかったら自分で探してくればいいじゃない。私はアイドルなんだから、やつれちゃいけないの」
「誠司、口出しするな。お前は俺の息子というだけの平組員だ。親のいう事に従え」
膨れて言う朝美。上から目線で言う竜司。


そんな態度をとる父親を見限る誠司。
(こいつはダメだな。上に立つ親分としての器量がない。ただ力を振りかざすだけの駄犬と一緒だ。大帝製紙の下についてエサをもらっている分には番犬として役に立つが、見捨てられたら自分でエサを取る事もできない甘ったれだ)
辛辣な評価を下す。

組員が腹をすかしている隣で平然とスナック菓子をたべ、ジュースをがぶ飲みする。
確実に組員の心は離れつつあった。

「お・・親分。これを見てください」
探索から戻ってきた組員が言う。
「なんだ?」
「こ、これを見つけました」
ポケットから金貨を取り出す。
「おい!これはどこにあった!」
血相を変えて問いただす竜司。

「へぇ。こっちの方角に10時間程歩けば、金貨が山ほど置いてあります。とりあえずコレだけもってきました」
疲れきった様子の組員が言う。
「でかした。褒美にくれてやる」
そういってインスタントラーメンを渡す竜司。
「・・・生で食べろっていうんですかい?」
「文句があるか?嫌ならいいんだぞ。」
「そうよ。食べれるだけありがたいと思いなさいよ。あと、金貨は私に渡しなさい。アンタはうちの組員なんだからね」
朝美が上から目線で言う。
戻ってきた組員は悔しそうに金貨をわたし、ヤケクソのように固いままのインスタントラーメンを頬張った。

「よし、今からそこまで行くぞ」
「楽しみね。ははは、私達をここに送り込んだ男ってバカじゃない?自分の宝物がある所に私達を連れてきて。全部奪っちゃおうよ」
二人だけ元気いっぱいに言う竜司と朝美。

「親父。ここを動くな。他にも探索に出ている組員はいるんだ。合流できなくなるぞ」
「やかましい。そんな奴等ほっとけ。いい年して迷うような無能な奴は面倒みれるか。おい!食料も全部持っていくぞ」
竜司の言葉を受けて、ノロノロと準備する組員たち。

「お前等待てって!今この状況で金貨がなんの価値がある?動いて体力を消耗するだけだぞ」
「ふん。口だけで何もできない無能な人が言いそうなことね。なに?自分は冷静な頭がいい奴だと言いたいわけ?大した大学出ているわけでもないのに偉ぶっちゃって。芸能界でいろんな偉い人と友達の私から見たら、アンタなんかただのカスよ。どうしてこんな腰抜けが兄なんだろ」
ヒステリックに言う朝美。
「朝美、心配しなくていいぞ。コイツは俺の息子でもないし、お前の兄でもないからな。俺の子供はお前だけだ。」
憎憎しげに言う竜司。

「お、親父・・?」
「ええい。気安く親父なんていうな。反吐がでる」
唾を吐きかけ言い放つ。
「教えてやろう。お前は大帝製紙の前会長と愛人の子さ。親からゴミみたいに捨てられた男だよ。お前に限らず興竜組の組員は、井山一族が女遊びで作った子供が多い。それぞれ組員の養子にして面倒を見てたんだ。」

「ま・・待て。それとこれとは話は別だ!ここで動いて金貨を見つけたって何の意味がある。死にたくなければ動くな!」
誠司の言葉に何人かの組員が立ち止まる。
「そいつと一緒にのたれ死にたきゃ勝手にしろ!興竜組の男だったら財宝手に入れて太く生きろ!そこの腰抜けにしたがって死にたい奴はほっとけ。そんな奴は男じゃねぇ。」
そう言うと、竜司は自分に従う組員たちを引き連れて去っていった。

「馬鹿が・・・」
その場に座り込んでつぶやく誠司。
「あ・・あの。失礼ですが、若はどうすればいいと思います?」
声をかけられて気がつく誠司。
見ると、洋二を始めこの場に残った数人の組員が誠司の周りに集まっていた。

「ふっ。若か。もうそんな気を使わなくてもいいんだぞ。今の俺は親父に捨てられたただの野良犬一匹だ。俺に従ったって興竜組で出世できねぇぜ」
自嘲気味に言う。

「いえ、そんなの関係なく若は若です。俺はもう組長・・藤岡竜司についていけません」
洋二が言う。
「本当にあいつら馬鹿ですよ。ついていった奴等もね。食えもしない金貨探してうろつくなんて。サル以下だな」
他の組員も笑う。
「ふふ。よし。なら今を持って『興誠組』の旗揚げだ!今じゃ古臭くなった任侠の道だが、そこにこそ男の生きる道がある。皆、俺について来い」
声を張り上げる誠司。
組員たちも唱和して誠司に忠誠を誓った。


「今日はドンコイ様が用事があるので、私達が拷問させていただきます」
アンスとハッツがメルト王女の地下牢に入ってきて言う。
その他にももう一人いるが、顔を仮面で覆っていてわからない。
相変わらず冷たい地下牢だったが、食事は与えられているのでメルトは弱っていなかった。

「ふん。あの下賎な男などに興味ありません。それで、お前達も下衆の部下らしく、妙なモノでも見せるのですか?じっくりと拝見させていただきましょう」
メルトが嘲笑う。少しずつ何かに慣れかけていた。

「い、いえ。今日の見世物はこれです」
「きっと気に入っていただけますよ。愛しいお方が屈辱を与えられる姿をみればね。ふふふ」
ハッツが笑いを浮かべる。

「さあ、跪け、この叛逆者め!」
ハッツが仮面の人物を殴りつけ、四つんばいにさせる。
良く見るとその者には奴隷の首輪がはめられていた。
「ま、まさか・・」
「ふふふ。察しがよい。叛逆者アーシャを捕らえました。貴方の目の前で拷問させていただきます」
アンスが跪いている者の仮面を取ると、下からアーシャの顔があわられた。
「アーシャ様!」
メルトが驚く。
アーシャは何かしゃべろうとするが、しゃべれないように玉を口に噛まされていた。

「んーっ!」
「黙っていろ叛逆者め!」
ハッツが嬉しそうに鞭を振るう。
「☆★○A゛@?????」
アーシャが激痛にもだえるが、二人は容赦がない。
「何を言っておるかわからんわ!この豚め!」
「日頃の恨みを思いしれ!」
二人が交互に打ち据える。

「・・・はあはあ。すっきりした!」
「はっ!こほん。それで、アーシャを助けたければ、勇者召喚魔法をこの本に・・」
二人がメルトに迫るが、メルトは熱病にかかったような視線でアーシャを見ていた。

「・・・鞭に打たれるアーシャ様・・素敵・・」
「は?」
「い、いえ、アーシャ様ならこのような拷問、なんという事もないでしょう。」
「???うー。うー」
アーシャが床に転がり、うなりながら首を振る。

「これは、この程度では堪えないようですな」
「ならば、もっと打ちましょう」
なぜか二人が嬉しそうに鞭を握りなおす。
「?▽■★?・→←!!!?」
「給料上げろ!」
「休みをよこせ!」
「痩せろ!」
「変な物みせるな!」
妙な事を言いながら打ちつづける二人。
メルトはそれを恍惚とした目でみつめていた。

「いたた・・・お前等、よくも私をこんな目に・・」
自室で治療を受けるドンコイ。
あのアーシャは奴隷の首輪に似せた姿を変えるマジックアイテムで変身したドンコイだった。

「だって、ドンコイ様の作戦ですし」
「真に迫った演技をするには、どうしてもある程度は打たないといけませんからね」
涼しい顔で言う二人。
「・・・最後のほうは変な事を言っていたが・・」
「「気のせいです。」」
二人が同時に言う。

「まあいい。しかし、あれでメルト王女が落ちないとはな。てっきり愛しい男の拷問をみて、助けようとしてこっちに従順になると思っていたが」
「なんででしょうね。最後は目をきらきらさせて見ていましたよ。逆に回復してました」
「女心はわかりませんからねぇ~」
頭を抱える三人だった。

日本。

アンリと一緒に帰ってみると、雅彦も家に帰っていた。
リビングには大量に食べ物が買ってある。

「父さん。ただいま。これはどうしたの?」
「おかえり。お前が帰ってきたら、袋の中の人の懐柔を始めようとおもってな。多分彼らは腹がすいているだろうから用意した」

よし、それじゃ中のヤクザを取り出そう。話のわかる人から出そう」
「ああ。それから、ちゃんと服を着た状態で出せよ。喧嘩するわけじゃないし、武器も取り上げているんだから」
「了解。一番話のわかる人でろ」
シンイチが道具袋に手を入れて念じると、一人のたくましい青年が出てきた。

「ここは・・?」
周囲を見渡す。
「始めまして。興竜組の人ですか?」
雅彦が呼びかける。

「え?、はい。いや、以前はそうだったというか・・ここはどこです?」
不意に声をかけられ返事をする誠司。いきなりだったので口調が普通の青年のものに戻っていた。

「突然失礼いたします。私は菅井雅彦と申します。こちらは息子の菅井真一です。今貴方方といろいろとトラブルが起こっているので、お話をして解決しようとおもい、こちらにお呼びいたしました」
丁寧な口調で頭を下げる雅彦。シンイチも頭を下げる。
さっきまで何もない空間からいきなり元の世界に帰って来たので、なんだかよくわからないまま誠司も頭を下げた。

「あの、我々とトラブルというのは・・」
「私達は菅井晴美の父と兄にあたります。先日は貴方方の若い者が娘をさらおうとしたとかで・・」
静かに話す雅彦。声に若干の怒りがある。
「あ、あの話に聞いたカタギの娘さんのご家族・・これは失礼いたしました。私は藤岡誠司といいます。」
誠司が頭を下げた。
「これはこれはご丁寧な挨拶を。こちらこそよろしくお願いいたします」
雅彦はごく普通に対応し、初対面の挨拶は終わった。
「息子が洋二さんにも言ったようですが、今までの事は水に流しますので、今後は私達の味方についてもらいたいのです。仕返しに貴方方を道具袋の中で餓死させようなんて思ってはいませんので。まあお一つどうぞ」
そういって雅彦がテーブルの上の食べ物を誠司にすすめる。
誠司も腹がすいていたので、ごくりと唾を飲み込む。
「・・・ありがたい事ですが、私だけ先に食べる訳にはまいりません。まだ部下の組員が腹をすかせていますので」
やせ我慢をする誠司。

「はは、部下思いですね。さしあたり、この食べ物をもって道具袋の中に帰ってもらって、組員たちを説得してもらいたいと思います」
「あ、あと金貨が必要でしたら、いくらでもあげますから」
シンイチが道具袋から金貨を取り出して誠司に渡す。
「ほう。洋二も言ってましたが、確かに金貨はあるようですな。しかし、金だけでは我々の魂は売れません」
誠司が目に力を込める。金貨を受け取らなかった。

「・・・では?」
「我々がこれ以上娘さんをつけ狙う事はないと、私の名誉にかけて誓いましょう。それをもって組員の命はお救いください。親父と妹は押さえつけてでも小指を飛ばしてこちらにお持ちします。それで終わりにしてください。もちろん私の指もつけます」
誠司が頭を下げる。

「指って・・」
「それは渡世の始末の付け方です。我々一般人に指を持ってこられても、安心して枕を高くして寝られますか?まして元凶の井山修司はまた別のヤクザを使って我々にちょっかいをかけてくるでしょう。つまり、根本的な解決になっていないのです」
雅彦が静かに諭す。
誠司は言い返すことができず、沈黙した。

「では・・どうしろと」
「私達は今、大帝製紙そのものを乗っ取ろうと考えております。その為の方法も考えております」
雅彦が考えている事を説明する。

「その様な事を・・」
「この計画には、井山家にも協力者が必要になります。どなたか、血縁で彼にとって代わろうとするまともな者はいませんか」
雅彦に言われて井山家の親族の顔を思い浮かべる。
先代は優秀だったが、他の者は会長のいう事を聞くだけのボンクラばかりだった。

「いえ・・特には。血縁という意味では、私を含めた組員に多くいますが・・」
さっき聞いたばかりの事を言う。
「ほう。例えば?」
「まだ良く調べてはいないのですが・・例えば私は修司の腹違いの弟になるそうです。おぞましいばかりですが」
自嘲気味に言う。

「それはまた・・・お察しいたします。しかし、ならば都合がいい。我々に協力して、大帝製紙を乗っ取りませんか?」
雅彦の言葉に考え込む誠司。
たしかに、興誠組として旗揚げしたのはいいとして、現時点では組を立ち上げる金もないし、そもそもシノギがなかった。
興竜組のように大帝製紙からはした金もらって汚い仕事をし続けるのはまっぴらである。
それぐらいなら、いっそ乗っ取ってしまった方がいいような気がした。
誠司の最初の仕事として悪くはない。

「・・わかりました。協力します。組員にも説得してみましょう」
そういって握手する誠司と雅彦。

後に日本を代表する大企業に発展する新生大帝グループは、この出会いから始まるのだった。

「始めまして。興竜組の組長の息子で、藤岡誠司と申します。お嬢さんにはご迷惑をおかけしました。父と妹に代わってお詫びいたします」
誠司が晴美に頭を下げる。

「え?ヤクザの人?怖い」
晴美がシンイチの後ろに隠れる。
「心配しなくてもいいよ。誠司さんは味方についてくれると約束してくれたし」
「ああ、むしろこれから協力してくれる人だからな。ちゃんと挨拶しなさい」
シンイチと雅彦にいわれ、しぶしぶ挨拶する晴美。

「は・・始めまして。菅井晴美です」「雅彦の妻の紀子です」
「晴美さんですか・・。なるほど。さすがに別嬪さんですな。うちの朝美が妬むのも無理はない」
誠司が言う。
「え?朝美ちゃん?」
「申し訳ない。俺は朝美の義理の兄にあたります。今回の騒動の発端は、朝美が井山修司を唆したことにあるのです」
誠司が経緯を説明する。

「裏にそんな事情が・・・。朝実ちゃんには意地悪されていたけど、そこまで妬まれていたなんて」
「晴美さんを蹴落とせば自分に人気が集まるとでも思ったのでしょう。思いどおりにいかずに、人気は無いままですが」
「まあ、晴美も気にするなよ。今その子はこの道具袋の中に入っていてるみたいだから。充分罰を受けているよ」
シンイチが道具袋を持ち上げて言う。

「え?その中にいるの?なんかすごく変な感じ」
「ははは。確かに。俺もいきなり何もない世界に飛ばされて、出たと思ったら見知らぬ家。正直狐につままれたような感じですね」
誠司が笑う。
その笑いに釣られて全員が笑った。

「誠司さん。ご飯を食べていかれてはいかがです?」
紀子が言う。
「いえ、まだ組員が腹をすかせて待っています。帰ってやらないと」
大量の食料と飲み物を持って誠司がいう。
「それでは、他の組員さんたちの説得もよろしくお願いします」
「ええ、多分竜司についていった者たちも相当追い詰められているでしょう。少しずつ説得して味方を増やしますよ。親父と妹は最後まで意地をはるでしょうが、責任持って何とかします」
「お願いします。それじゃ『収納』」
誠司は道具袋の世界に帰っていった。
道具袋の中。

腹をすかしていた組員達が食料を食べている。

「食べながら聞いてくれ。俺は彼らの提案にのって、大帝製紙を乗っ取ろうと思う」
雅彦の提案を説明する組員。
「・・・いいんじゃないですかい?」
「今まで下働き扱いでしたからね~。男だったら下克上して乗っ取るってのも面白いかも」
口々にいう組員たち。

「なら、俺について来い。後、菅井家にはもう手をだしちゃならねぇ。これから俺らの親になる一家だからな」
「まあ、井山家よりはマシでしょう」
「別に俺らだって恨みがあるわけじゃないですしね。スポンサーになってくれるなら、義理は果たしますよ」
組員達の合意も得られた。

「今日の昼頃にこの世界から解放される予定だ。てめえら出た時に粗相するんじゃねぇぞ。シンイチさんは俺らの若殿になるんだからな」
「へい!!!!わかりやした!!」
ヤクザ達は唱和した。
外の世界。

「さて、そろそろ約束の時間だな。『味方になってくれた人でろ』」
シンイチが道具袋からヤクザ達を取り出すと、一気に誠司を始めとする10人の組員に取り囲まれた。

「初めまして!俺らの若殿!」
「俺ら一同、これからお守りしやす!」
「どうか末永くよろしく!」
体格が良く迫力のある男達に取り囲まれるシンイチ。

「ど・・・どうも。よろしくお願いします」
シンイチは不覚にも恐怖を感じてしまい、頭を下げた。

「はは、シンイチさん。これから安心してください。俺らが貴方達を守りますから。いい関係を築いていきましょう」
誠司が柔らかく言う。それを聞いてシンイチはやっと安心することができた

光の国ミラー
今回の件についてどう思う?」
アルセルが部下の神官に聞く。
「間違いなく国王の命令で奴隷を逃がしたのでしょうな」
「大将軍は国王に責任が及ばないように、すべてを飲み込んで自害したのでしょう」
神官達は口々に言う。

「・・・わかった。また天使様にお伺いを立ててみる」
そういって部下を下がらせる。
(・・なぜ奴隷を処刑せよと・・大将軍は40年もこの国を支えた誠実な男だった。私とも親交厚い、敬虔な信徒だったのに)
苦悩するアルセル。
(他国でも天使様に対する信仰が揺らいでおる。このような時に火に油を注ぐような事をしては・・)
自らの信仰まで揺らぎそうになり、あわてて首を振る。
(ともかく、お伺いを立てよう)
そういうと光の塔に登っていった。

最上階には天使が円卓に座っていた。

「汝に命ずる。この男を光の国の王として迎えよ」
円卓の中央に美男子の姿が現れた。

「このお方は・・」
「天使の使徒の筆頭。アーシャ・カストールじゃ。今はフリージア皇国内にて勢力を伸ばしておる。彼を光の国に迎え、この世界の王となせ」
「・・かしこまりました・・」
アルセルは平伏してそういった。


教皇アルセルからの手紙を見てアーシャは笑う。
「なるほど。私が新世界を作る新たなる王か。悪くはない」
ニヤリと笑う。
「教皇からこの冠をアーシャ様に渡すようにいいつかりました」
黄金でできた冠を見る。
そこには光の国の名前が彫ってあった。
「ふん。各国に王位継承の渡される冠か。権威付けにはぴったりだな。いいだろう。出陣だ!」
兵士長オルセルに命じる。
数千人に膨れ上がったアーシャ軍は光の国に進軍していった。





cont_access.php?citi_cont_id=157017739&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ