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MCバトルの王 R-指定インタビュー ラッパーは16小節に生死を賭ける

MCバトルの王 R-指定インタビュー ラッパーは16小節に生死を賭ける

ラッパーが即興で言葉を吐き出すフリースタイルで競い合うMCバトル

ヒップホップから生まれた文化だが、これまで、ヒップホップという音楽/文化自体が盛り上がることはあっても、MCバトルに大きな注目が集まることはなかった。

しかし2012年。BSスカパー!で放送されているバラエティ番組『BAZOOKA!!!』から、「高校生RAP選手権」という企画が生まれる。

これは、文字通り高校生のラッパーがフリースタイルで競い合うMCバトルの大会で、高校生同士だからこそ生まれる泥臭さや熱さ、友情、ドラマなどがこれまでのMCバトルの枠を飛び越え、当初は番組の1つの企画に過ぎなかったが、今では年に2回、4,000人規模の会場で大会が開かれるなど、若きラッパーたちの甲子園のような巨大イベントへと成長し、10代20代の若い世代を中心に絶大な支持を集めている。

その人気は地上波にも広がり、2015年9月からは、テレビ朝日でMCバトルを題材にした番組『フリースタイルダンジョン』の放送が開始するなど、いま、MCバトルが空前のブームを巻き起こしているといっても過言ではない。

今回は、そんな現代のMCバトル界の頂点に立ち、「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」(以下、高校生RAP選手権)では審査員、『フリースタイルダンジョン』では挑戦者を叩きのめすモンスターとして君臨するR-指定(Creepy Nuts)さんにインタビュー。

彼の考え方や王者としての苦悩、「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」の存在などを通して、MCバトル、さらにはヒップホップの楽しみ方を広げてみてほしい。

取材/ふじきりょうすけ 構成/よしだ

サザンや桑田が好きだった

──テレビ番組の影響もあり、大きな広がりを見せているMCバトルですが、まずはR-指定さんのヒップホップとの出会いからうかがえればと思います。そもそもヒップホップは昔から聞いてたんでしょうか?

R-指定 結構、若い音楽に馴染めないなって思ってて、古いJ-POPとか歌謡曲を聞いてましたね。サザンオールスターズがすごく好きで、桑田佳祐のソロがめっちゃ好きなんですよね。最初は普通に音楽を楽しんでたんですけど、いま聞くと、もうあの人は表現がラッパーなんですよね。

めっちゃ韻踏んでたりとか、言葉を詰めるとか、日本語の発音を耳障りが良いように崩すとか、あの人の歌い方がなかったら日本語でラップするのは難しいんじゃないかなって思うくらい(笑)。

他にも中島みゆきとかも好きなんですけど、ヒップホップは11歳くらいの時に、SOUL'd OUTの「1,000,000 MONSTERS ATTACK」を聞いたのが入り口ですかね。歌い方とか歌詞の内容がおもしろいなって、「なんやろこれ?」みたいに、やっぱりなんとなく耳障りがよかったんですね。

SOUL'd OUT 『1,000,000 MONSTERS ATTACK』


それでレンタルショップのヒップホップコーナーでZeebraさんとかKAMINARI-KAZOKUとかのCDを借りて聞くようになってから、どっぷりヒップホップにハマりましたね。

──他のインタビューではRHYMESTERさんについても結構語られていますよね。

R-指定 Zeebraさんとか好きになって結構聞いてて、自分でもやりたいなって思って、真似して歌ってたんですけど、その時はヒップホップは不良の特権というか、ちょっと悪い人たちしかやったらあかんのやろな、そういう人にしか歌えないんやなって思ってました。だから、そもそも自分がやってもいい音楽とは思ってなかったんですね。

不良的な音楽やから自分にはできへんかなって。でも中2くらいの時にRHYMESTERさんの『グレイゾーン』を聞いて、直感的に「あ、自分もできるかもな」って思えて、ステージに立つとかではないんですけど、自分で歌詞を書いて、ラップをやりはじめるようになりました。

気を使わなくてもラップできる梅田サイファー

梅田サイファー6月30日


──それからフリースタイルにはどのようにして出会ったんですか?

R-指定 中学の時にラップにハマってから大分期間が空くんですけど、高2ですね。やっぱり最初は自分にはフリースタイルはできないと。中3くらいの時に、ラードという1人だけラップする友達がおって、帰り道とかカラオケでインストに乗せて練習してみたりしてたんですけど、全然できなくて。

それで高1の時に、ラードがネットで※1梅田サイファーという外で集まってラップしてる連中がおるらしいって動画を見せてきて、動画見たら割と普通の格好した兄ちゃんたちが輪になってラップしてたんですよ。

その時に「あ、こういう場所があるんや」って。不良が溜まってるわけでもなさそうやし、別にライブとかじゃないからチケットノルマもない。誰でも参加できそうやったんで、2人で遊びに行ったら、すぐにみんなと仲良くなって。

それで毎週土曜日に梅田サイファーに参加するようになってから、バトルにも誘われるようになって高2の時にはバトルの大会に出場してましたね。

──梅田サイファーはどんな集まりだったんでしょうか?

R-指定 大阪のヒップホップにも、堺とか場所によっていろんなシーンがあって、基本的に縦社会なんですよ。しがらみとかあったり、俺はそういうのに馴染めなくて、めんどくさいことしてまでライブ出るのも嫌やし、でもラップはしたい! みたいなやつらが梅田に集まってきた感じですね。

もう上下関係もないし、誰にも気使わんでラップできる。俺も含めて根暗なやつが多くて、一周回って、ちょっと時代に乗り遅れてるというか(笑)。

なぜかいまさら「ドラゲナイ」を口ずさむとか、逆にそれがめっちゃ面白いみたいな、そういう変なところに面白さを感じてしまうやつが多いですね。ひねくれた集団やったと思います。

終電過ぎて朝までラップするし、「いつまでやってねん!」ってよく言われるんですけど、全然飽きない。梅田はラップでのし上がろう、お金を稼ごうみたいな意識がすごく薄いというか低くて、ただただラップすること自体が好きってやつがほとんどですね。

reDSC03248 ──最近はテレビの影響もあって、サイファーに参加する方も増えているみたいですね。

R-指定 俺らがサイファーでやってるのって、ほんまに「俺、最近こんな映画見た」とか身の上話やったり近況報告とか。そんなんをラップでやってるだけで、お互いにゲラゲラ笑ってる、笑かしあってるみたいな感じなんです。ずっとしゃべってるみたいな会話、話芸なんですよ。

最近、若い子がバトルのスキルを磨きたい、ラップがうまくなりたいみたいな気持ちで来ることが多いんですけど、大抵次の週からは来なくなる。なんでみんなゲラゲラ笑ってるん? なんか思ってたのと違うわみたいな(笑)。

俺らはふざけてるつもりはないけど、スキルを磨くんじゃなくて、「ラップができる場所」という感じでいるんで。

──梅田サイファーに参加するようになって、高2の時からバトルの大会に出るようになったんですね。

R-指定 そうですね。俺とか梅田サイファーのやつがちょこちょこ出始めるようになったんですけど、正直、当時はアメ村のストリート勢とか体育会系の人たちに「なんじゃあのオタクみたいなやつ、殺せ」とかめっちゃ言われて、ストリート勢にものすごく嫌われてたんですよ……。

だから最初、俺ら居場所ないなって状態がけっこう続いてたんですけど、ある時、※2韻踏合組合ER-ONEさんとかHIDAさんが「いや、こいつらうまいよ」「ちゃんとスキルあるやん」って認めてくれて、そこからどんどんいろんな人が認めてくれるようになって、色眼鏡なしでスキルを見てくれるようになりましたね。

高校生時代のR-指定(Creepy Nuts)のラップ集


──R-指定さんは、どうやってバトルのスキルを磨いていったんでしょうか?

R-指定 サイファーとバトルは、俺の中で全然別物で、サイファーは友達と遊ぶ感覚。ほんまにどれだけ面白い会話ができるかみたいな。バトルのスキルが磨かれた場所があるとすれば、それは確実に韻踏合組合がやってる「ENTER」というイベントですね。

当時の「ENTER」は、バトルとライブがある構成になってて、バトルにも地方の偉い人とか地元のボス的な人とも戦える。俺が高2の時に初めて「ENTER」にでた時なんかは、1回戦で「UMB」の名古屋大会で優勝したケーリーさんとあたって、2回戦で※3漢さんと当たってましたからね(笑)。

若手同士でも戦えるし、キャリアが離れた大物とも戦える。韻踏合組合がつくった大阪のフリースタイルやMCバトルの文化っていうのは、ものすごくデカい存在でしたね。

※1 サイファー:全国各地で行われている、複数人のラッパーが輪になって即興でラップをする文化。ラッパー同士の交流の場としての側面が強く、公園や駅前などで行われている。
※2 韻踏合組合:大阪のアメリカ村を拠点に古くから活動するヒップホップユニット。ER-ONEさんは『フリースタイルダンジョン』の審査員、HIDAさんは「BAZOOKA!!!第9回高校生RAP選手権」で審査員をつとめるなど、どちらもMCバトル界で名を馳せている。
※3 漢 a.k.a. GAMI。鎖グループの代表であり、ヒップホップグループ・MSCのリーダー。日本語ラップを牽引するラッパーの1人。

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