2016.3.24
「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」のゲームシステムは制作協力をしたIBMの先端技術と企画・制作をしたワン・トゥー・テン・ホールディングスのアイデアが合わさって生み出されました。日本のみならず、世界からも注目を浴びるコンテンツの魅力を、現代の最高水準のテクノロジーで再現する試みはどんなシステムによって実現されたのか。それぞれのシステムを詳しく見ていきます。
今回のゲームシステムでは、自分自身の分身となるキャラクターであるアバターが「ソードアート・オンライン」の世界に入り込みます。そのために、まずは自身のアバター情報を生成するために3Dスキャンシステムで全身を撮影します。スキャンのシステムは何台ものモーションセンサーデバイスをカスタマイズしたものを使用し、足と手を広げ前後左右上から撮影、という方式。撮影自体は一瞬で終わるものの、体の表層部分だけでなく、骨格情報のデータも取ることでゲーム内でのプレーヤーの動きは自然なものになっています。
そして、それらのスキャンデータを統合、ノイズ除去などをしたうえでIBMが展開するクラウド・サービスであるSoftLayerに送っています。
プレイヤーが「ソードアート・オンライン」の世界に入り込むフルダイブ型のVRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)システムのテストモデルは、IBM SoftLayer上に作られた仮想空間。SoftLayerは、厳しい要件が求められるゲーム業界でも採用が進んでいるそう。
たとえば、モバイルゲームのトランザクションは秒間数千から一万を超えるものもあるため、システムとして安定していることが重要となります。SoftLayerであれば、現在、世界中に40拠点以上のデータセンターがあるため、ユーザーの近くにサーバーを置き、スムーズに動く環境として利用することができます。また、ベアメタルと呼ばれる物理サーバーのサービスもあり、高負荷にも耐える高い性能を確保し、安定させることができます。
さらに、ゲーム業界でも多くの業界と同様、その市場は世界に広がっています。グローバル市場を視野に入れた場合、世界中のデータセンターを結ぶ国際専用回線の存在も重要。広帯域、高品質なネットワークなので、データ転送のパフォーマンスが良いということも評価される要素です。
こうした理由から、SoftLayerはゲーム業界などでの採用が進み、臨場感のある体験の提供をサポートしています。
VRの世界では、しばしば体験者が不快感を感じる「VR酔い」というものがあります。今回のシステムを構築するうえでも、その「VR酔い」をいかに軽減するかが、最も重要視されました。動画の制作には、1秒間にいくつの静止画を使用しているかという「フレームレート」というものがありますが、このフレームレートが低下すると、「VR酔い」の1つの原因になります。今回のシステムでは高精細なグラフィックを保ちつつ高フレームレートを実現することで酔いを軽減しています。他にも、自分の身体行動と異なるフィードバックが画面上に展開される事もVR酔いの原因となります。これは体の動きを検知するセンサーを適宜切り替えることで最適化しています。
メディアアーティストの落合陽一さんが体験した際も、「フレーム落ちがほとんどないのが印象的でした。重そうな処理をしているのに、両手を前へ出すとちゃんとガードができる」という感想を述べていました。
⇒ 現実は小説よりおもしろくなる。「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング」を現代の魔法使い落合陽一さんが体験
今回のイベントのために作られたヘッドギアは、「ソードアート・オンライン」の世界でも使用されている「ナーヴギア」のプロトタイプという設定。「ソードアート・オンライン」の世界観を再現するために、「アルファテストの時に作られたナーヴギアがあるとすれば、それはヘルメット型だったのでは」という推察からヘルメットタイプとなっています。さらに、アルファテスト用に作られたナーヴギアは、五感のうち、視覚と聴覚にアプローチすることが可能な試作機という位置付けに。さらに、ボイスチャット機能も付いているので、ゲーム内にいる状態でもプレーヤー同士のコミュニケーションが可能となっています。
プレーヤーの動きはさまざまなセンサーを使い検出しています。ヘッドセットには「Leap Motion」、「OVRVISION」というデバイスを採用し、装着時の視覚を確保しつつ、手や指の動きを検知しています。さらに、プレーヤーの前方には「Kinect」を配置し、体の向きや動き、腕を振る動きなどを「Leap Motion」と合わせて最適化しています。
これらの高いセンシング技術によって手の指先まで検知することが可能となっています。さらに、戦闘中に武器をもっている場面でも、手の表と裏を見るように実際に手を動かすと、武器の表と裏を見ることも可能です。
他にも、足につけたデバイスは今回のために完全にオリジナルで製作されたものとなっています。内部には、9軸センサーが入っており、回転速度、加速度、地磁気を検出することで、プレーヤーの自発的な移動を360度の範囲で実現しています。これらのセンシング技術を使うことで、作品世界で歩き回る際も、「ゆっくり歩く、早歩きをする」といった行動がとれるようになっています。
ゲーム内に登場し、プレーヤーにゲーム内での振る舞い方や戦闘シーンでの戦い方を教えてくれる「コグ」というキャラクターは、IBMのコグニティブ・コンピューティング・システムを基に開発されたという設定となっています。
コグニティブ・コンピューティングは、これまで考えられてきたような人を模倣することをゴールとした人工知能とは、一線を画すテクノロジーです。人と同じように、自然言語や文字、視覚情報を解釈するだけではなく、データの裏にある考えを推論します。
今回のイベントではコグニティブ・コンピューティングの技術は使用されていませんが、「もしもコグニティブ・コンピューティング・システムがゲームの世界で使われたら、どのような新しい体験ができるのか?」というイメージをガイド役のキャラクターである「コグ」を通して伝えています。
VR、センシング技術、コグニティブ・コンピューティングとそれらを支えるSoftLayer。テクノロジーが拓く未来の世界を体感できる場として、それらの最新の技術を駆使して「SAO」の世界観の再現に挑んだ今回のプロジェクト。テクノロジーが導く眩い未来はすぐそこまで来ているのかもしれません。
今回のプロジェクトに関連するインタビュー記事などを順次公開していきます!