待機児童問題 保育士不足で受け入れ制限も

待機児童問題 保育士不足で受け入れ制限も
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この春、東京などの都市部で新たに認可保育所を開設する法人の半数以上が必要な保育士を確保できておらず、子どもの受け入れの制限を検討している法人もあることが、NHKが行ったアンケート調査で分かりました。待機児童の問題を解消するには保育士の確保が大きな課題となっていることが浮き彫りになりました。
NHKは先月下旬から今月上旬にかけて、全国の政令指定都市と東京23区でこの春、新たに認可保育所を開設する合わせて151の社会福祉法人や企業にアンケート調査を行い、全体の61%に当たる92の法人から回答を得ました。
回答を寄せた法人は合わせて182の認可保育所を開設する予定で、子どもの定員はおよそ1万3000人、受け入れるのに必要な保育士は2300人余りとなっています。
アンケートで新たに必要となる保育士の確保の状況について聞いたところ、すべて確保したと回答した法人が全体の半数近くとなった一方で、必要な保育士の8割から9割程度が42%、6割から7割程度が10%などと、保育所の開園を間近に控えていても、半数以上の法人で必要な保育士を確保できていないことが分かりました。
保育士確保のめどについては、一部でめどがついていない、めどがついていないと回答した法人が半数以上を占めました。
保育士が確保できなかった場合の対応について複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは派遣やパートなど「非正規の保育士を増やす」が38%、次いで「系列の他の施設の保育士でカバーする」が33%、「子どもの受け入れを制限する」が20%、「開園時期を延期する」が4%と、保育士不足が子どもの受け入れに影響を及ぼしている実態がうかがえます。
全国の待機児童は去年4月の時点で2万3000人余りと、都市部を中心に5年ぶりに増加に転じ、政府は平成29年度末までの5年間に50万人分の保育の受け皿を増やす方針です。しかし、施設の増加に伴って保育士不足がさらに深刻になっていることから、待機児童の問題を解消するには保育士の確保が大きな課題となっていることが浮き彫りになりました。

保育士不足 現場は

保育士の確保が進めばさらに多くの子どもを受け入れることができるという保育所は少なくありません。
東京に本社がある保育所の運営会社は来月、7つの認可保育所などを開設する予定です。新たにおよそ290人の保育士を確保しなければなりませんが、24日の時点で確保できたのはおよそ8割にとどまり、必要な保育士が54人不足しています。
保育所の開設を間近に控えた先週(16日)、会社は保育士を確保するため都内で運営する保育所を回るバスツアーを開催しました。参加者が訪れた大田区の保育所では現在およそ40人の子どもを受け入れていますが、待機児童はその5倍の200人に上ります。施設のスペースに余裕があるため保育士をあと5人確保できれば最大で70人の子どもを受け入れることができるということです。バスツアーに参加した女性は「子どもが好きで保育士になったのでいろいろ見学して自分にあう園を見つけたい」と話していました。
会社が頭を悩ませているのが保育士自身の子どもが保育所に入れず、退職する人が相次いでいることです。都内の保育所で働いていた保育士の天本美穂子さんは、育児休業を終えこの春から復職する予定でしたが1歳4か月になる長女の彩希ちゃんが保育所に入れず復職のめどがたっていないといいます。天本さんは「保育所に子どもを入れるのがこんなに大変だとは思っていませんでした。育休の期間も終わってしまうため退職するしかないと思い始めています」と話していました。
この会社では住宅の補助を手厚くしたり、勤務を工夫して休みを取りやすくするなど保育士の処遇の改善を進めていますが、保育士の賃金は国や自治体からの補助金や保護者からの保育料で賄われているため、賃金を上げようとしても対策には限界があるといいます。
保育所の運営会社「ポピンズ」の中村紀子代表取締役CEOは「待機児童を減らすために保育所を作りたくても保育士が集まらず薄氷を踏む思いで全国で保育士を探している。国は受け皿を増やすだけでなく、保育士の処遇を改善するなど働き手の確保に力をいれるべきだ」と話していました。

どう決まる?保育士の賃金

保育士の賃金は、国が定める公定価格に基づいて決められています。
その財源は、国や自治体からの補助金や保護者からの保育料からなる「運営費」で賄われ、それぞれの保育所には決まった額だけが配分されるしくみになっています。今年度(平成27年度)は、1人当たり全国平均で年間およそ370万円と、昨年度より5%引き上げられました。
しかし、実際に賃金の額を決めるのは保育所を運営する法人で、多くの保育士を雇用するため1人当たりの賃金が公定価格に満たないケースも少なくありません。
厚生労働省によりますと、去年の保育士の賃金は月額の平均で21万9000円と、全産業の平均(33万3000円)と比べて11万円余り低くなっています。

専門家「処遇の改善が必要」

待機児童の問題に詳しい保育研究所の村山祐一所長は「保育士の賃金を上げるなど、処遇を改善しなければ辞める人がますます増えていく」と指摘したうえで、「国や自治体が5年から10年の計画を立てて賃金を引き上げるとともに、社会全体の働き方を見直し、土曜日は原則休みにして保育士の休日を確保するなど工夫が必要だ」と話しています。